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野菜嫌の遺伝子

2006-09-19 23:02:19 | 分子生物学・生理学
 ブロッコリーなど特にアブラナ科の苦い野菜に含まれているフェニルチオカルバニル(PTC)は人間の舌に存在するhTAS2R38 という味覚レセプターと結合し、「苦味」として知覚されます。このhTAS2R38 の遺伝子には感度の高いPAVと低いAVIという二つの対立遺伝子が存在していることが知られており、ある種の「野菜嫌い」な人たちは高感度タイプのPAV遺伝子を持っていることが原因ではかと考えられてきました。

 Monell Chemical Senses Center の Mari Sandell と Paul Breslinはこの仮説を実験的に検証することに成功しました。彼らはそれぞれの遺伝子型を持つ被験者たち(PAV/PAV、PAV/AVIおよびAVI/AVI)にブロッコリー、カリフラワーなどPTCを含む野菜、また苦瓜やナスなど苦いけどPTCを含まない植物を生で食べてもらい、それぞれの被験者がどれだけ「苦さ」を感じているか調べました。その結果ホモで持つヒト(PAV/PAV)、ヘテロで持つヒト(PAV/AVI)、持たないヒト(AVI/AVI)、の順にPTCを含む植物をより強く苦いと感じていることが分かりました。一方PTCを含まない植物に関しては両者に優位な差は見られませんでした。

 何故、この二つの対立遺伝子は人間という種の中に共存しているのでしょうか。それれはおそらく、PTCを含む野菜には人間にとって負と正の両方の側面があるからではないかと考えられます。PTCは無機ヨウ素と結合し甲状腺からのヨウ素の吸収を阻害します。ヨウ素自体は甲状腺ホルモンの合成に不可欠なものであり、これが欠乏すると甲状腺腫などの疾患を引き起こします。海から離れた高山地帯など慢性的にヨウ素が欠乏するような地帯ではこの甲状腺腫に悩まされる人たちが多く、このような場所ではPTCを摂取することを出来る限り避けることがより適応的と考えられます。
  一方PTCを含む野菜にはブロッコリーなど栄養価の高いものも多く含まれます。ヨウ素が十分あり欠乏が起こらないような環境ではこのような野菜を積極的に食べられる事の方がより適応的かも知れません。
  つまり、このような拮抗する選択圧の中で感度の違う二つの味覚レセプター遺伝子がどちらも淘汰されずに存在しているのではないかということです。

  なお、味覚や趣向にはこれ意外にも沢山の要因があり、遺伝的に決定されるのはあくまで部分的なものだとBreslinは付け加えています。

 参考: Distaste for sprouts in the genes(news@nature)
Variability in a taste-receptor gene determines whether we taste toxins in food Mari A. Sandell and Paul A.S. Breslin Current biology Vol.16, 18 , 19 Sep. 2006, Pages R792-R794  
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3 コメント

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おばか (さとう)
2006-11-01 00:06:33
おばかなので、むづかしいことはわかりませんが、体内のヨウ素が欠乏してきたら、苦味が感じなくなって、過多の時には苦味を強く感じる、ということはないのかな。遺伝子レベルではないのかしら。
いや、私は何らかの状態になると体がチョコレートだったり、アイスだったりを欲するので、味覚にもあるのかな?と思ったのでした。
Unknown (obaka)
2006-11-01 00:09:08
逆だった・・・ 欠乏したら食べちゃいけないから苦味を感じなきゃね。
コメントありがとうございます (Itokawa)
2006-11-01 19:28:27
 実際にそれが起こっているかどうかは知りませんが、体の栄養状態に応じて味覚レセプター遺伝子の発現(遺伝子→タンパク)レベルが変わればレセプターの量も変わるので味覚が変化するということもありえると思います。子供のときに食べられない苦い野菜も大人になったら食べられるようになったりしますが、ひょっとしたら味覚に関する遺伝子の発現量が違うのかもしれないですね。

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