年の瀬が近づくにつれ、国内の感染状況は一層、深刻化している。各地で医療崩壊の危機が叫ばれるなか、帰省を諦めた人も多い。急遽、予定変更を余儀な
くされた人の嘆きや、大都市部で予想される密にスポットを当てた!
12/28/2020
年末年始に大都市の人口が急増し各スポットが密に!?
Go Toトラベルを利用して帰省を計画していた人たちのなかには、キャンペーン停止で旅費が倍増するので諦めたケースも
例年であればこの時期、年末年始の帰省や旅行の計画に胸を躍らせる頃だが、新型コロナ流行の第3波が猛威を振るうなか、例年通りにはいかないようだ。
アルバム作成アプリ「アルバス」が、関東地方以外に実家がある東京・神奈川在住の女性を対象に行った調査によると、年末年始に「実家に帰省予定」とした回答者は36.4%にとどまり、「帰省はしない」が51.6%に上った。
さらにJR東海によると、年末年始の東海道新幹線指定席の予約状況は、前年比66%減になり(12月9日時点)、JR東日本も東北、山形、秋田新幹線指定席の予約状況が前年同期で約6割減の約27万席にとどまったという。
師走に入り、全国の複数の知事が、帰省を控えるように呼びかけたことも一因といえよう。
「Go Toトラベル」全国一斉停止で帰省を諦めた人々
一方で、それでも帰省しようとする人々を諦めさせたのが、12月14日に発表された「Go Toトラベル」の全国一斉停止だ。
「感染リスクがほぼゼロの帰省を計画していた」という、都内在住の40代男性は嘆く。
「孫たちの顔を見せてあげたくて帰省を強行する予定でした。実家がある四国までの移動手段に選んだのは、東京・有明と徳島を結ぶカーフェリー。約20時間の船の旅は宿泊扱いになり、Go Toトラベルの対象だった。車ごと乗船し、家族4人で個室から出なければ、船内での感染は防げます。両親のいる実家には泊まらず、閑散期のキャンプ場のコテージに家族で宿泊するつもりでした。しかし、Go Toトラベルが適用されないと10万円以上高くなるので、泣く泣く断念しました」
同じく都内に住む30代の独身女性も帰省を諦めた。
「私の実家は九州の田舎なんですが、『ご近所から白い目で見られる』というので、中間地点の大阪のホテルで両親と一緒に年越しする予定でした。しかし、Go Toトラベル停止になりキャンセルすることに。ホテルと私の新幹線代は無料でキャンセルできたのですが、両親のLCCのチケットはキャンセル不可で、6万円も無駄になってしまいました」
都内にある大手旅行代理店の関係者は言う。
「今回の帰省では、Go Toトラベルを利用して、新幹線や飛行機と、実家近くのホテルをセットにしたパックプランを予約していた人が多かった。東京や大阪の方がほとんどでしたが、近隣の目を気にかけ、実家に泊まりたくない方の需要は相当数あったと思います。今は、続々とキャンセルの申し出が来ている状況ですね」
通常だと都内では6割も人口が減る
大都市では帰省を諦めた“巣ごもり正月”が大勢を占めそうだが、一方で危惧されるのが、都心の“密”だろう。東京の年末年始の人口は今回、最多になると予想されているからだ。一例までに過去のデータをひもとくと、’17年元旦の東京23区内の人口は、5日前の42%しかなかったという(ブログウォッチャー社調べ)。
県をまたぐ帰省や旅行の自粛が求められるなか、年末年始に行き場を失った「帰省難民」により、都心人口は例年の倍以上になることも予想される。
彼らがみな、自宅でおとなしくしてくれればいいのだが、そうとは限らない。NHK特設サイトで公表されたビッグデータによると、渋谷スクランブル交差点や新宿・歌舞伎町(夜)では、「勝負の3週間」の期間中、3回あった日曜日のうち、最後の日曜日(13日)の人出が最多になっていたのだ。まして、1週間以上もある年末年始の休暇となれば、ステイホームをし続けるのには相当の根気が必要になるだろう。
都内で過ごす人々は何をする?
カーフェリーでの帰省計画が絶たれた前出の男性は、都内での過ごし方についてこう明かす。
「ちょうど小学生の娘が、『鬼滅の刃』の舞台としても登場する浅草や、インスタグラマーがコスプレ写真を撮影している谷根千に行きたがっているので行こうかなと。もちろん感染対策は万全にして行きますが、楽しみにしていた帰省が中止になってずいぶん落ち込んでいたので、そのくらいは連れていってあげてもいいでしょう」
横浜に住む50代の独身男性も家にこもるつもりはないと言う。
「近所の行きつけのバーが、22時までの時短要請には応じる代わりに、年末年始は午前中から開けてくれるそうなので、入り浸って昼から飲んだくれる予定。酒飲むくらいしかすることないよ」
さらに、夫の実家への帰省を取りやめたという都内の40代女性も、ため息交じりだ。
「小学校に通う2人の息子の冬休みは13日間もあり、その間ずっと家にこもるのは不可能です。冬なので公園や河川敷も行けない。そうなると近くのショッピングモールしかないんです。みんな同じことを考えていると思うので相当、混雑するでしょうね……」
初詣はどこも大混雑!?
こうした場所では正月クラスターの発生も懸念されるが、では年末年始の都内は、どういった場所が混雑するのか。
位置情報ビッグデータ解析を手がけるクロスロケーションズからデータ提供を受け、SPA!が分析した結果、官公庁や多くの企業で仕事納めとなった’19年12月27日の人出は、その2週間前と比較すると、渋谷センター街で約56%増、アメ横で約55%増、新宿・歌舞伎町エリアで約54%増となった。また、元旦と2週間前を比較して混雑が目立ったのは浅草寺の200%増、明治神宮の48%増などだ。鎌倉の鶴岡八幡宮では899%増という混雑ぶりであった。
初詣はどこも大混雑になりそうだ。都内の主要な寺社のHPを見ても大晦日から元旦にかけては一部神社が閉鎖すると発表しているが、とくに三が日は閉鎖される予定はなさそうだ。
県をまたぐ移動が控えられる代わりに大都市で密が発生するとなれば本末転倒だ。帰省自粛の呼びかけやGo Toトラベルの停止は必要な措置だったのか。元厚労省医系技官の木村盛世氏は言う。
「コロナ禍で避けなければならないのは、高齢者や高リスク者に感染させて医療体制をひっ迫させること。健康な現役世代で感染が拡大してもさほど問題はないのです。日本はこれまでも、国民の自覚的行動によって感染拡大を最小限に抑えてきたわけで、国や行政があらゆる帰省や旅行を十把一絡げにして自粛を要請する必要はなかったと思います」
一方で、PCR検査が数千円で受けられる民間検査センターが相次ぎオープンし、「帰省前検査」がSNSで話題となった。これについて木村氏は「PCRの精度にはばらつきがあり、偽陰性も多いので、検査結果を過信することは逆に危険」と警鐘を鳴らす。
政府によるコロナ関連の政策が二転三転するなか、頼みの綱は国民一人ひとりによる主体的なリスク管理ということか。