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妊娠中に新型コロナに感染するとどうなる? 最新のエビデンスと注意すべきポイント

2021年12月02日 09時00分55秒 | 医学と生物学の研究のこと
妊娠中に新型コロナに感染するとどうなる? 最新のエビデンスと注意すべきポイント

妊娠中は特定の感染症にかかると重症化しやすくなったり、かかるとお腹の赤ちゃんに影響が出ることがあります。 

新型コロナウイルス感染症は妊娠に悪影響を与えるのでしょうか。 
最新のエビデンスと注意すべきポイントについてまとめました。 

妊娠と感染症
妊娠中は胎児を異物と判断して免疫が攻撃してしまわないように、免疫が調整されています(免疫寛容と言います)。 
このため、妊娠中は特定の感染症にかかると重症化しやすくなると言われています。 

たとえば、インフルエンザもその一つです。 
また、妊娠中に感染することで胎児にも感染してしまう感染症があります。 
これはTORCH症候群と呼ばれている感染症が代表的です。 

T: Toxoplasmosis(トキソプラズマ) 
O: Other(その他多く:ジカウイルス、B型肝炎ウイルス、パルボウイルスB19、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス,梅毒トレポネーマなど) 
R: Rubella(風疹ウイルス) 
C: Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス) 
H: Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス) 
妊娠中にこれらの感染症にかかってしまうと、生まれてくる子どもに先天異常がみられることがあります。 

このように妊娠中は特に感染症に注意しなければなりません。 
妊婦さんが新型コロナに感染してしまったら
2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症が日本国内で流行しています。 
妊婦さんが新型コロナウイルス感染症に罹ってしまった場合、どのような経過をたどるのでしょうか。 

これまでの妊婦さんの新型コロナウイルス感染症に関する報告として以下のようなものがあります。 


・中国で新型コロナウイルス感染症に罹患した15人の妊婦:11人の患者が出産(10人は帝王切開、1人は経膣分娩)、4人は研究期間の終わりにまだ妊娠していた。新生児仮死、新生児死亡、死産、または流産はなかった。妊婦は全員回復した(AJR Am J Roentgenol. 2020;)。 
・ニューヨークで新型コロナウイルス感染症と診断された43人の妊婦:14人(32.6%)が診断時に無症状であったが、このうち10人が出産して退院するまでに何らかの症状が出現した。症状のあった29人(67.4%)のうち、3人は新型コロナの症状のために出産前に入院し、1人は誘発分娩に成功した後6日間酸素投与を必要とした。新生児に行った生後初日の検査で新型コロナウイルスが検出された児はいなかった(Am J Obstet Gynecol MFM. 2020;)。 

以上の研究から、妊婦さんが新型コロナウイルス感染症に罹ってしまった場合も、特に妊娠していない同年齢の人と比べて重症度は変わらず、特に妊娠の経過にも悪影響は及ぼさないだろうと考えられています。 

ただし、前述の妊婦から生まれた新生児は新型コロナに感染していなかったようですが、稀に母子感染が起こる事例もあるようです。 


・中国の29歳女性:1月下旬に新型コロナと診断され(診断時は妊娠34週2日)、2月22日帝王切開により陰圧隔離室で女児を出産した。母親は出産時にはN95マスクを着用し、乳児を抱きませんでした。女児の出生時体重は3120 gで、アプガースコアは1分で9点、5分で10点(問題なし)。新生児から新型コロナウイルスは検出されなかったものの、白血球やサイトカインの上昇と、抗体価が上昇していたことから子宮内感染が示唆された(JAMA. 2020 Mar 26. doi: 10.1001/jama.2020.4621.)。 
・中国の新型コロナウイルス感染症と診断された妊婦から生まれた33人の新生児:3人(9.1%)の新生児が新型コロナウイルス感染症と診断され、そのうち1人は人工呼吸管理を必要としたが新型コロナによるものというよりは低出生体重児であり窒息、敗血症が原因であった(JAMA Pediatr. 2020 Mar 26. doi: 10.1001/jamapediatrics.2020.0878.)。 

これまでの報告からは「胎児は母親から子宮内感染するかもしれない」くらいのことしか分かっていませんが、新型コロナウイルス感染症にかかった新生児が重症化しやすいということはなさそうです。 
妊娠中の新型コロナウイルス感染症に関する注意点
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナウイルス感染症に関して、妊婦さんに以下のことを推奨しています。 


CDC. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Pregnancy and Breastfeeding
新型コロナウイルスからしっかりと予防しましょう
・病気の人や濃厚接触者との接触は避けましょう 
・石鹸と水またはアルコールで手を消毒しましょう 
・頻繁に触れる表面を毎日清掃して消毒しましょう 


母子感染
・妊娠中の母から子へのコロナウイルスの感染の頻度は高くありませんが、出産後の新生児は人から人への感染の影響を受けやすくなっています 
・出生直後に新型コロナウイルスが検出された新生児が少数報告されています。ただし、これらの赤ちゃんが出生前に感染したのか出産後に感染したのかは不明です。 
・新型コロナウイルスは、羊水、母乳、またはその他の母親の検体からは検出されていません。 
新型コロナウイルス感染症と診断された場合の母乳育児
・母乳は多くの病気に対する抵抗力を生み、ほとんどの乳児にとって最良の栄養源です。 
・家族や医療従事者と、母乳育児を行うのか、どのように続けるかを決めましょう。 
・これまでの数少ない研究では、新型コロナウイルスは母乳からは検出されていません。ただし、新型コロナウイルスが母乳を介して感染するかははっきりとは分かっていません。 

また日本産婦人科学会は4月7日に「妊婦の皆様へ」として以下の声明を発表しています。 

日本産婦人科学会 「妊娠中の皆さまへ」

・妊娠中に新型コロナウイルス感染症にかかる率は一般の方と同じです。
手洗いや人との距離をとる(3 密を防ぐ)などの注意も同じです。日本より多数の感染者を出している国々で、妊婦が特別にこのウイルスにかかりやすい、という報告はありません。 

・幸い、妊娠中の重症化率も一般の方と同じかむしろ低い値が報告されています。
集中治療室入室率なども、人口当たりになおすとむしろ低めの報告がなされています。 

・急な帰省分娩の検討はぜひ避けてください。
分娩は予約された数によってその体制が決まっています。特に地方の小規模施設は急に受け入れる余裕がないところがほとんどなので、移動するほうがリスクになりかねません。 
・感染予防のために付加的な医療サービス(立会分娩、面会など)が制限されます。
その施設の方針に従ってください。 

・妊婦健診は重要であなたとあなたの赤ちゃんのいのちと健康を守ることが証明されています。しかし、妊婦健診の間隔を延ばしたり、超音波検査の回数を減らす、パートナーの立会いをお断りすることがあります。不安な症状がその間にあれば、どうぞ電話などでご相談ください。
施設全体の感染防御策や担当医の指示に従ってください。 


・感染予防のために現在新型コロナウイルスに感染中の方や強く疑われる方の分娩方法や授乳方法を変えざるを得ないことがあります。

施設ごとに医療資源や、感染防護に使うことができる機材が異なっています。帝王切開を積極的に行うこともやむを得ない施設が多くなっています。施設の方針をご確認ください。  

今妊娠している方、出産を控えている方は新型コロナウイルス感染症の流行に不安になっている方が多いと思います。 
妊娠中に気をつけるべきことをしっかりと把握し、主治医とよく相談しながら出産に向けた準備をするようにしましょう。



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