IT企業大手の富士通がテレワークの導入を推進すると発表した。それを予見したかのように「JR東日本が時間帯別運賃を検討」と報じられた。「すぐに」「全て」ではないけれど、日本の通勤事情は変わっていく。企業が支払うコストをめぐって、不動産業界、交通業界、IT業界のぶんどり合戦が始まった。
7・17・2020
【西武鉄道が運行する座席指定列車「S-TRAIN」】
国の緊急事態宣言の発動が4月7日、対象地域の全国拡大が4月16日。この3カ月間は交通機関の需要が激減した。企業活動は停滞し、経営危機に直面している業界も多い。大不況となれば、法人個人にかかわらず、取るべき対策はまず「コストカット」だ。そこに感染防止、外出自粛が結び付く。急場しのぎのつもりだったテレワークによって、隠れていた「コスト」が見えてくる。それは「通勤」にかかる「運賃」「時間」だ。
企業や従業員の多くは気づいた。「通勤とは、出張とはなんだったのか」と。移動する「費用」と「所要時間」は見合っていたか。特に時間のコストは問い直す人も多かったはずだ。片道1時間、往復2時間の通勤は、睡眠時間や家族と過ごす時間、趣味の時間に充てた方が幸福だと。これが交通事業に大きく関わってくる。鉄道・バスは通勤需要で成り立っているともいえるからだ。
企業にとってテレワーク普及のメリットとは
富士通は7月6日、「ニューノーマルにおける新たな働き方『Work Life Shift』を推進」と題した報道資料を公開した。具体的施策として「従業員のうち、製造部門や客先常駐者を除く約8万人はテレワーク勤務を基本とする」。そのために「2020年7月から通勤定期代の支給廃止」「2020年7月から月額5000円の在宅勤務環境整備費用補助を支給」「単身赴任者を自宅勤務に切り替え」とある。
単純に考えれば、通勤定期代を月額5000円の在宅勤務環境整備費に振り替えると、企業にとって経費削減効果は大きい。例えばJR東日本の場合、1カ月の通勤定期は1~3キロで4620円、4~6キロで5600円だ。都心部は少し安い「電車特定区間」が適用されて、1~3キロで3950円、4~6キロで4940円だ。いずれにしても7キロ以上は5000円を上回る。
電車で7キロの所要時間は10分程度だ。東京都市圏の住宅事情を考えると、定期代が月5000円未満で済む従業員は少ないだろう。それが一律5000円になる。 さらに、全国で約8万人が常駐している事務所も不要になる。労働安全衛生法の事務所衛生基準規則では「労働者1人について、10立方メートル以上」と定めている。高さも入るため分かりにくいけれど、不動産業界では1人あたり2~3坪が相場のようだ。都心のオフィスの坪単価を約3万円として1人当たり6~9万円。仮に約8万人が都心勤務とすれば、1カ月当たり最大72億円の賃料が不要となる。
これに対して、1人当たり5000円の在宅勤務環境整備費の総額は4億円だ。最大68億円の節約になる。実際には地方の事務所もあるけれど、ここに光熱費、通信設備費なども加算される。大規模オフィスであれば社員向け食堂やリフレッシュルームもあり、その負担も減る。経費節約効果は数十億円といえる。
デジタルエンターテインメントを手掛けるミクシィは10月に勤務制度を刷新する。「オフィスでの就業を標準としつつ、週3日までのリモートワークを認める予定」。週3日のリモートワークで通勤手当はどうなるのか。他社の例では、シフト勤務形態の場合、出勤日相当の回数券代支給という制度もある。
日本経済新聞7月15日付「ヤフー、戦略立案100人を副業募集 社外人材を活用」によると、ヤフーは7000人の社員のうち約95%が社外勤務で「10月からリモートワークを恒久的な制度とする。交通費は実費精算で、定期券代の支給を廃止。社員には月7000円の在宅手当を支給する」という。
もちろん、リモートワークに向く業務と向かない業務がある。しかし富士通の8万人の衝撃は大きいし、無事に稼働すれば他の企業も倣うだろう。大企業ほどコストメリットが大きい。中小企業にとって通勤に束縛されない雇用形態は人材確保面で有効といえる。
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7/30thu/2020