沢尻エリカの“美人すぎる”法廷画を描いた本人を直撃「意識して観察するのは
裁判報道で傍聴席から被告人の様子を描く法廷画。公判中に法廷内の撮影は禁じられているため、被告の様子を知ることができる数少ない手段だ。近ごろ、その存在感が増している。先日、麻薬取締法違反罪で有罪判決を受けた女優の沢尻エリカさんの法廷画が、あまりにも美人すぎると話題になった。
ネット上では、作品を比較するまとめサイトができるほどの注目ぶり。画家たちは、一体どんな点に気をつけて描いているのか。フリーランスで活躍する現役2人に聞いた。
榎本よしたかさん:専属画家廃業で仕事を依頼され…
榎本よしたかさんは、和歌山県の元市長による汚職事件を皮切りに法廷画の世界に飛び込み、今年で17年目を迎える。これまでに女優の沢尻エリカさんをはじめ、ライブドア元代表取締役CEOの堀江貴文さん、レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告人などを描いた。
籠池泰典被告人(中央)(イラスト/榎本よしたか)
堀江貴文さん(右から2人目)(イラスト/榎本よしたか)
カルロス・ゴーン被告人(中央)(イラスト/榎本よしたか)
書籍や報道番組のイラストを普段担当する傍ら、テレビ局から依頼を受け月2、3回の頻度で法廷画も請け負う。
これまで傍聴した裁判の「傍聴券」
きっかけは、専属法廷画家の廃業で代役を探していた和歌山県のテレビ局からの連絡だった。依頼者らの似顔絵を描くと、デッサン力を買われ採用。初めて座った傍聴席で一心不乱に描いた作品が、地元局の夕方のニュース番組で取り上げられた。「ちゃんと使われてるのを観て、嬉しかったですねぇ~」と感慨深そうに振り返る。
意識して観察するのは「目」
鉛筆で下絵を描き、公判終了後に作品をスキャンする。パソコンを使って色を塗り、データとして納品する。榎本さんは、関東近郊だけではなく、依頼次第では沖縄や神戸といった裁判所へ出張することも少なくない。 「コンビニがあればどこでもスキャンできるので、仕事はやりやすくなってます」 被告人の挙動、公判中の様子や空気感、検察官や弁護士の表情など五感をフル活用する。忠実に描くための情報を手に入れるためだ。特に意識して観察するのは、「目」だ。
女優の沢尻エリカさんの初公判では「発せられる言葉や法廷での態度、真っ直ぐな眼差しを見ると、罪を反省し償おうとする気持ちが伝わってきた」と感じた。
小野眞智子さん:榎本さんに触発され法廷画家の道へ
法廷画家・イラストレーターの小野眞智子さん
小野眞智子さんの取材当日には、覚醒剤取締法違反(所持)疑いなどで某有名歌手が逮捕されたとの一報が出た。報道について尋ねると「仮に送検、起訴されれば、傍聴して描く機会があるかもしれません。心の準備をしておこうと思います」と語る。
押尾学事件が起きた時のイラスト
小野さんが、法廷画家の道を志したのは、前述した榎本さんとの出会いがきっかけだ。フリーランスのイラストレーターが集う勉強会で知り合い、法廷画家の仕事を教えてもらい興味を持った。榎本さんの提案通り自分のホームページに「法廷画もやります」と書き加えると、2008年にテレビ局から朝の情報番組で使う絵を描いてほしいと依頼があった。
初仕事はコピー用紙に水彩絵の具で描き、冷や汗
都内で起きた学生の遺体切断事件の初公判を傍聴した。裁判を見ることも、法廷画を描くことも初めての経験だった。 「何も知らなかったので、スケッチブックを持参せずコピー用紙に描きました。水彩絵の具で塗り付けていったら、紙がフニャフニャになってしまって(汗)」 今となっては考えられぬ失敗。当初から見たまま描くことだけを心掛けているが、「自分の引き出しから当てはめず、ゼロから書き起こすのはそのぶん時間がかかる」と悩む。裁判所や被告人、弁護士などをあらかじめ調べ、デッサンのイメージを膨らませておく。より短時間で仕上げるためには、下準備が欠かせない。
過度な感情移入は禁物。仕事は冷静に
被害者に感情移入しすぎて、公判中涙を流したり、1週間近く考え込んだりすることもある。ストーカーから刺されて重傷を負った被害女性の公判では、被害者の生い立ちや事件によって夢を絶たれたことを知った。「同じ目に遭ったら、どうしようか」と年齢が近い自分との境遇を重ね合わせた。傍聴席でボロボロとこぼす涙を止めるのに必死になった。仕事は冷静にやろうと思っても、感情が入り込むことは少なくない。
植松聖被告人(イラスト/小野眞智子)
植松聖被告人(イラスト/小野眞智子)
それでも負担よりも、やりがいの方が大きい。被告人はなぜ、法を犯したのか。リアリティーを持って語られる裁判への興味は尽きない。「事件のことを知ろうとするきっかけは、文章だけではない」。法廷画の意義を力強く語った姿が、印象に残った