高校生仏師「たいが」のブレない心。新作はコロナ退散祈願のあの仏像
仏像をつくる「仏師」という職業。一般的には、職人めいた中年や老人をイメージする人も多いかもしれない。しかし最近「高校生仏師」として、静かな話題を集めている人物がいる。
高校生仏師のたいがさん
「たいが」という名の彼は、長野県内の普通の高校に通いながら、仏像をつくる仏師だ。一体どんな人物なのか。
幼稚園の粘土の時間に仏像を作る
たいがさんの作品(本人提供、以下同じ)
――仏像を好きになったきっかけはなんだったんですか?
たいがさん(以下、たいが):物心つく前から「お墓」が好きだったんですよ。墓石が好きで、小学校に上がるより前から、公園で遊ぶようにお墓に行って、墓石ばかり見ていました。そうしていると、母の友人が「そんな変わった子がいるなら」と、仏像の写真集をくれたんです。すぐにそれにハマって、それからですね。
――仏像のどんなところに、心を奪われたのでしょうか?
たいが:千手観音などは、手も顔もたくさんあって異形ともいえますよね。でも、それが尊くて。
――同じくらいの年齢の子がハマる怪獣やスーパーヒーローを見るのと同じ感覚ですね。
たいが:そうですね。興福寺の千手観音に衝撃を受けて、室生寺の十一面観音を見た時が初恋です。心の中では、今でも彼女だと思っています(笑)
――はじめは「見る」「拝む」対象だと思うのですが、つくるようになったのはいつからですか?
たいが:幼稚園で粘土の時間があったんですけど、その時に仏像を作りました。
――ではキャリアはもう10年以上になるんですね。一番難しいのはどこですか?
たいが:「目」ですね。まぶたの重なり方や分厚さが、本当に難しくて、今まで一度も満足のいく「目」ができたことはないかもしれません。
――目の出来によって、瞑想の深さも見え方が変わりますからね。最もこだわる部分はどこですか?
手のリアリティがすごい
たいが:目の他だと「手」です。仏師の先生からアドバイスをもらって、試行錯誤して徐々にできるようになってきました。
コロナ収束のために作った仏像も
――仏像を見る時、そして作るときはどんな気持ちで向かうんですか?
たいが:今、仏像は博物館に出されると多くの人を集めたり、仏像フィギアなども発売されたりしていますが、僕にとっては祈りの対象です。古い仏像を見ていると、今まで多くの人の祈りを受けてきたものなので、本当に尊く美しいです。でも、僕もまだ、こっちの仏像よりあっちの方がいいとか思っちゃったりすることもあります。本当は優劣はないはずなのに。なので、修行として作っているというところもありますね。
――博物館で熱心に拝んでいる人はなかなか見かけませんもんね。
たいが:博物館の仏像の前に、お賽銭箱を置いたりするとまた違うと思うんですけどね。でも今は、こういう不安な時期でもあるので、仏像のあり方を、心の拠り所として見つめる時代が来ていると思います。
――最近作ったのは、どんな仏像ですか?
秘剣大師
たいが:コロナが流行っているので、早くおさまるようにという気持ちで「秘剣大師」を作りました。
筆者注釈:秘剣大師とは、疫病が流行した時代に時の天皇に弘法大師(空海)が、般若心経の講釈をしたところ、瞬く間に疫病がおさまったという逸話に基づく像例。
ディズニーの世界は浄土ですよ
――休みの日などは、何をしていますか?
たいが:友達とカラオケに行ったりしてます。田舎なので、他にすることないんですよ(笑) ――どんな曲を歌うんですか? たいが:ディズニーが好きなので、ディズニーの曲もよく歌いますね。
――意外と言ったらあれですが、普通の一面もあるんですね。
たいが:でも、ディズニーの世界は浄土ですよ。阿弥陀経を読んでても、本当にディズニーの世界みたい。他に歌うのは、光GENJIとかですね。
――同世代には伝わらないでしょう(笑)
たいが:教え込みました(笑)後最近は、宝塚にも興味があります。あの豪華絢爛さ、脳に直接刺激が来てすごいです。
将来の夢は「お坊さん」になること
――将来の野望を教えてください。
たいが:仏師として、仏像を作ることもそうですが、お坊さんになりたいです。仏を作るということは、その仏についての専門家でないといけないので。そして、お寺を持ちたいですね。
――ご本尊には、自分で作った仏像を?
たいが:いえ、自分で作ったものは庫裏(住職家族らが生活するスペース)に置いて。なにより、仏に仕えて生きたいですね。
芯の通った話ぶりが印象的だった高校生仏師のたいがさん。世を憂い、自分のできることとして疫病退散の仏像をつくるというこころは、仏の慈悲にも通じるのではないだろうか。その祈りが通じるとともに、彼の作る仏像の独特な表情が、多くの人の心を癒すことを願う。
6/19/2020