冒頭部分の生原稿
見えないですね
>松本零士の999は、
やはり、宮沢賢治の銀河鉄道の夜がモチーフですね。
一、午后(ごご)の授業
「ではみなさんは、そういうふうに川だと云(い)われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊(つる)した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指(さ)しながら、みんなに問(とい)をかけました。
カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
ところが先生は早くもそれを見附(みつ)けたのでした。
「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」
ジョバンニは勢(いきおい)よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。先生がまた云いました。
(中略)
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」カムパネルラは俄(にわ)かに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫(さけ)びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。何とも云えずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度両方から腕(うで)を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。
「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯(こ)う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座(すわ)っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニはまるで鉄砲丸(てっぽうだま)のように立ちあがりました。そして誰(たれ)にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉(のど)いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。
ジョバンニは眼をひらきました。もとの丘(おか)の草の中につかれてねむっていたのでした。胸は何だかおかしく熱(ほて)り頬(ほほ)にはつめたい涙がながれていました。
銀河鉄道999 松本零士
松本零士の999は、やはり、宮沢賢治の銀河鉄道の夜がモチーフですね。