外国人看護師・介護福祉士候補者を日本へ受け入れるに当たっては、その話がマスコミで騒がれ始めた頃から、各方面で様々な意見があり、論議を呼んできました。
そんな中、昨年8月のインドネシア、今年5月のフィリピンと、合わせて500名近くの看護師と介護福祉士候補者が入国、見切り発車といった感じでスタートを切った日本での研修ですが、現在までに、はっきりしている問題点を3点、自分なりにまとめてみたいと思います。
① 日本の資格試験に合格できなければ、自国へ帰らざるを得ないということ。
② 外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れ希望機関が、当初の予想よりもかなり下回っていること。
③ 政府当局のこの件に関する理念が見えにくく、基本姿勢もはっきりしていないこと。
① 候補者は、来日後6か月間の日本語、日本の看護・介護の導入研修の後、受け入れ先の病院や特養老人ホーム等での研修兼実務に入る訳ですが、看護師は3年目、介護福祉士候補者は4年目に、それぞれ日本の資格試験(日本語)に、一度だけ受験のチャンスが与えられます。
日本語研修を提供している団体等からの働きかけもあり、試験問題の漢字に振り仮名をつける、等の対処策も検討されているようですが、メディカルの専門用語が多く、日本人でも合格するのはそれほど容易くない資格試験に、インドネシア人、フィリピン人の候補者が合格できるだろうか、という点です。かなり難しいのは明らかで、フィリピンでも「日本行き」を敬遠する大きなネックとなっています。
そして、その一度の試験機会の不合格者は帰国しなければなりません。
そこで浮かんでくるのは、低賃金労働の温床との批判が根強い「外国人研修・技能実習制度」で、いろいろな問題をはらんでいるこの制度の二の舞にもなりかねない(マイナス面で)ことも懸念されます。候補者たちにとっては、せっかく受け入れ先の病院や施設で積んだ経験が、将来生かされることなく、やっと流暢に話せるようになった日本語を使う機会も失われることでしょう。そして、研修を提供してきた受け入れ先の病院や施設にとっても、「せっかく日本に馴染み、仕事も覚えたというのに…。」とダメージを被ることになり、仲良くなったお年寄りとの涙のお別れシーンが、今から目に浮かぶようです。
② 来日後6か月間の研修、滞在費用は政府(国)が負担しますが、その後は、実務、研修に入る病院や施設等の受け入れ機関が、彼らの日本語教育等の研修費や賃金(看護助手・介護助手並みの)を負担することになります。
が、看護師は3年間の内に実質一度、介護福祉士は3年の受け入れ機関での実務経験の後、資格試験に挑む訳ですが、受け入れ機関側もそのハードルがかなり高いものであるという認識は十分持っているのでしょう。ちょうど周囲の環境や仕事現場にも慣れ、スタッフや入所者とも信頼関係ができ始めた頃に手放さざるを得なくなる可能性が大きく、受け入れに積極的になれないのは当然です。言葉の壁による、主に入所者とのコミュニケーションの難しさも心配されるでしょう。
それよりも、昨年来の金融危機、不景気により失職した人たちを雇用する方が、よりスムーズで、少なくとも将来の保証のない外国人よりも長期雇用も期待できるでしょう。
逆に、今回フィリピン人受け入れを表明した機関が、どういった感覚で決断したかを知りたい気がします。ここ2~3年、資格試験までに、政府当局が何らかの施策の見直しをするのを期待されているのでは、とさえ思えてきます。外国人を「一時的に…」「ボランティアで…(受入れ側が)」受け入れようといった機関はまずないでしょうから。
③ 超高齢化を迎えている日本では、十数年後(2025年)には、人口の4分の1、つまり4人に1人が65歳以上となり、今の2倍の介護職員が…、そして毎年7~8万人の増員が必要になるとの政府の見通しがあるそうです。
でも、それは今になって出てきた話ではなく、ずいぶん前から言われてきた話です。そんな状況の中で、数年前からアジアの国とのFTA(自由貿易協定)により、IT技術者と共に「看護師・介護士」という人的資源を受け入れる話が出てきたのですが、それは外務省主導で行われ、厚労省は「若者や女性の雇用機会を奪いかねない、労働条件の低下につながりかねない…。」などと、むしろ外国人看護師・介護士の受け入れについてはあまり乗り気ではなかった、ということもいまだ尾を引いているかのようです。
今回の外国人看護師・介護福祉士の候補者受入れは、果たして経済交流の一環としてのものなのか、または「3K職」と言われ、離職率の高い職種の人手不足を補うためのものなのか。
一時的なものなのか、将来ある程度長きに渡って受け入れるものであるのか…など、政策としてまだ定まっていない感を受けます。医療・介護現場での状況や経過を見ながら、臨機応変に対応されていく、ということであればよいのですが…。
この案件は、外国人労働者受け入れ政策の大きな突破口、転換点であったはずですから…。
少子化傾向が続く中、超高齢化社会の日本を誰が支えていくのか、外国人労働者をどのように受け入れ共存していくのか、中長期的な視点で考えて行かないと、近い将来、問題はより深刻化すると思います。
今日もグリーン・バレーは雨模様。コンドミニアムのリビングの窓もいつも雨に打たれてこんな暗い感じです。早く、青空が広がって、この窓が開け放たれる日が来てほしいものです。