ヒルネボウ

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腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 34 ゲーム(STAGE42 無足歩行)

2024-02-12 22:50:48 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

    34 ゲーム(STAGE42 無足歩行)

あなたはおばあさんのミシンに潜り込む。体を左右に揺らすと、ミシンは浮き上がる。

海を越え、虚栄の町に近づくにつれ、ミシンは徐々に重くなり、やがてただのミシンに変わる。

ストン。

ミシンから出る。

あなたの視線は低空を舐めるように移動する。あなたに足はない。しかし、あなたは歩いている。

どこからともなく、おばあさんの声がする。

「おまえは何のために帰るのかい? 帰って、どうするのかい。あの虚栄の町にいて、許せるのかな、あの人を? あの人を許せなければ、また同じ退屈な不満だらけの日々を繰返すことになるんだよ」

許せなければ、あなたは戻ります、水曜日の昼下り、あるいは木曜日の遅い朝へ。

「あの人って?」

「さあね。私はあなたじゃないからさ」

「あの街路樹の下で私を見つけられなかった人……」

「あるいは、もう一人のあなた」

おばあさんの声は哀れむように徐々に細くなり、やがて諦めたのか、聴こえなくなる。

あなたは考える。考えるふりを続ける。

長い間。

振り向いて、誰にともなく、ゆっくりと頷くあなた。

 

 


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