笑うしかない友
～穴と溝
穴があってね……
・壁に？
ああ。ううん。どうかな。
・塀に？
どっちにしろ……
・論理に？
かもしれない。
・かもしれなくなければ？
穴があると、のぞきたくなる。
・覗く？
さあ。
・除く？
さあ。
・その穴は、ただの凹み？
じゃないんだろうな。
・貫通してるんだね？
知らない。深いだけかもしれない。
・なぜ？
だって、まだよく見てないから。
・やっぱり覗くんだ、除くんじゃなくて。
いや、だから、知らないんだよ、穴が何なのか。
・どの穴？
いや、「どの」と言われても……
・この穴？
えっ。どの穴？
・これだよ。
だから、どれ？
・じゃ、あれか？
あれもこれも知らないよ。
・あれなら誰だって知ってるさ。
私は知らない
・知らないのは君だけかもしれない。
それが穴なのかもな。
・なぜ？
聞くかな。
・聞かなきゃわからないだろう？
何が？
・何がって、何？
何がって何って、何よ？
・例えば、ううん、溝かな？
何の溝？
・紙の溝かな？
神のみぞ知る？
・かもしれない。
君の溝が私の穴なのかな？
・成程、分り合えたみたいだね。
だから、それが穴なんだよ。
・どうでもいいけど、穴がどうしたの？
穴があると覗きたくなるわけ。
・その向うに何があるの？
穴を除いている人がいる。
・覗くんじゃなくて？
知らないよ。どっちでも一緒だろう、どうせ見てないんだから。
・一緒じゃないよ。
ね？ だから、それが穴なんだよ。
・これは溝だな。
いや、穴なんだよ。溝じゃない。
・どうやら分り合えたようだね。
ほら、そうやって溝を掘る。
・で、穴はどうなったの？
知るもんか。
・汁物か。
それでいいのか？
・無言。
目と目では通じ合えないよ。
・なぜ？
だって、覗いても除いてもいないんだからね。
・だったら、覗くか除くかしろよ、さっさと。
まだ分らないのかな。
・君はアナスキヒトか？
好き嫌いじゃないんだよ。
・じゃあ、何？
君は好きなのか、穴が。
・あの穴ならね。
（終）
