“中国には仙人がいる”、そう実感したのは嘘ではない。白瑞采老師との出会いがあったからである。グレーの人民服にやや鍔長の鳥打帽子を被り、古びた昔の運動靴を履き、風呂敷包みを小脇に抱えた寡黙な老人だ。身長は170cmほどで、スラッとした筋肉質の体躯をしている。一見して娑婆とは縁の薄い人に見えた。
1987年、上海外事弁公室の協力をえて気功療法による治療の希望者を募り訪中した。原因不詳で車椅子生活の五十台男性Hさんと重度の喘息に悩む二十歳女性T嬢、他は腰痛や不眠などを訴え気功療法の実体験を希望する者を合わせ十名である。
宿泊・療養先は上海第二軍医大学付属長海病院。ここで中医による健康診断とそれに基づく各人の薬膳療法および白瑞采老師の気功療法を受ける。気功は<身心一如>の技術と言われ、自己の可能性を引き出す手段である。つまり、気功は“自己実現の実践法”なのだ。到着したその日から、白瑞采老師の≪捧気貫頂法≫と称する実践気功の指導が始まった。この功法の効能・効果は「健身、益寿、知能開発、抗癌作用など」とされ、車椅子のHさんはその状態のまま動ける範囲で受講する。約三十分の功法を毎日続けることが基本だという。
《白瑞采老師の略歴》
老師は当時八十一歳。幼い時の渾名を“草上飛”といい、著名な許戦先生に武功の諸流派を学ぶ。1933年、北京の朝陽大学在学中、名のある数人の武芸家に師事、同時に北京大仏寺禅師を師としてもっぱら気功を学ぶ。あわせて自ら中国医術を学習、養生医道に精進する。1949年以後、病院で医業の仕事のかたわら<静養功><太極気功>を教え、あわせて各種の難病の治療を行なった。
滞在中、一行は一泊二日の日程をとり無錫、蘇州を旅した。その間も白瑞采老師は同伴し、車椅子のHさんと喘息のT嬢には特別メニューの治療を続け、さらに全員が捧気貫頂法を学習した。そして十日間の滞在最終日、午前十時頃から全員が病院二階ロビーで最後の実習。担当中医や看護婦たちも参加している。捧気貫頂法が終わった後、白瑞采老師が車椅子のHさんの前に立ち、両手を差し出しゆっくり上下させながら「立て」と合図した。側の通訳が「ゆっくり立って下さい」とHさんを促す。Hさんは不安そうに老師を見つめ、付き添ってきた奥さんに顔を向け助けを求めている。奥さんが「立ってごらん!」と励ますと、Hさんは意を決して老師に手を差し伸べた。老師がその手をゆっくり持ち上げると、Hさんが自力で立ち上がった。注視していた全員が喝采する。さらに老師は、支えていた手を離すとそっと後ろに下がりながら、おいで、おいでをした。なんと、それに応じてHさんが一歩、一歩、歩いたのだ。全員、驚嘆の大喝采。
T嬢の喘息もかなり緩解した。老師は、帰国後も功法を続けるよう言ったが、Hさんには無理だった。“元の木阿弥”になったのである。老師は予見するように「一ヶ月滞在すれば、なんとかなるが…」と嘆息していたのだ。
その後、白瑞采老師とは数回お会いして指導を受けたが、ある時、拇指に痛風様の痛みがあり診てもらった。老師は「患部を出せ」と言って、患部に運動靴の足先から“気”を送った。十秒か十五秒経過して「どうか」と聞く。痛みはピタッと止んでいる。体験した者でないとにわかには信じ難いことかも知れない。北京の中国気功学会を訪ねた時も不思議な人物に遭遇した。広大で古い歴史の国・中国、始皇帝の<兵馬俑>などはそんな不思議な一面を語っていると言えないだろうか。
ここで、長海病院最後の晩餐会の薬膳メニューを記しておく。(該当する活字がないのは○とする)
~康賓益寿宴~<抗衰防老>
◆冷盆<前菜>◆
1.麦冬鶏○<藪欄と鶏肉>=効能:益気養陰(元気が出て熱病が治る)
2.健脾牛肉<牛肉>=:健脾養胃(消化機能がよくなる)
3.麦○魚○<藪欄と魚>=:降脂通脈(降血脂と血流をよくする)
4.琥珀核桃<くるみ>=:補腎潤腸(元気をもたらし腸の具合をよくする)
5.酸辛黄瓜<キュウリ>=:清熱生津(血液・リンパ液が多くなる)
6.養心素腿<豆腐>=:養心安神(睡眠がよくとれる)
7.平肝○○<新鮮エビ>=:降圧平肝(高血圧を鎮める)
◆正 菜◆
1.寿星○仁<むきエビ>=:補血補腎(血液と腎機能を高める)
2.益元双参<なまこと二種類の薬用人参>=:養心益元(睡眠がよくとれ、元気が出る)
3.杞菊魚○<クコの実・菊・魚>=:補腎養肝(腎によく、血流を良くする)
4.丹珠鮮貝<クコの実・貝柱>=:養肝健脾(肝と消化機能を促進する)
5.温中牛肉<牛肉>=:温中暖胃(体を温め胃痛に効く)
6.松子鶏米<松の実・鶏肉>=:益気潤腸(元気になり、腸を整える)
7.駐容素○<野菜>=:養容駐顔(顔をきれいにする)
8.参○蹄筋<漢方薬・豚の筋>=:益気潤○養顔(元気で、皮膚・顔を綺麗にする)
9.楓斗水魚<楓斗・魚>=:清熱養陰補血(熱を冷まし、血を増やす)
10. 補腎○花<いか>=:補腎壮陽(腎の機能促進)
11. 海馬龍風湯<タツノオトシゴのスープ>=:全補陰陽益元補腎(体全体の調子が良くなる)
◆点心(お菓子)◆
1.補腎鶏○餅<鶏肉まんじゅう>=:養肝益人滋陰補血(全身の調子を整える)
2.洋参蓮子○<西洋人参・水蓮の実>=:養陰生津安神(睡眠を良くし、熱病が治る)
3.珍珠小籠<不明>=:○膚○筋(皮膚をきれいにし若く見せる)
◆飲 料◆
緑荷飲<不明>=:降脂減肥消食(体を細らせ血脂を取り除く)
1987年、上海外事弁公室の協力をえて気功療法による治療の希望者を募り訪中した。原因不詳で車椅子生活の五十台男性Hさんと重度の喘息に悩む二十歳女性T嬢、他は腰痛や不眠などを訴え気功療法の実体験を希望する者を合わせ十名である。
宿泊・療養先は上海第二軍医大学付属長海病院。ここで中医による健康診断とそれに基づく各人の薬膳療法および白瑞采老師の気功療法を受ける。気功は<身心一如>の技術と言われ、自己の可能性を引き出す手段である。つまり、気功は“自己実現の実践法”なのだ。到着したその日から、白瑞采老師の≪捧気貫頂法≫と称する実践気功の指導が始まった。この功法の効能・効果は「健身、益寿、知能開発、抗癌作用など」とされ、車椅子のHさんはその状態のまま動ける範囲で受講する。約三十分の功法を毎日続けることが基本だという。
《白瑞采老師の略歴》
老師は当時八十一歳。幼い時の渾名を“草上飛”といい、著名な許戦先生に武功の諸流派を学ぶ。1933年、北京の朝陽大学在学中、名のある数人の武芸家に師事、同時に北京大仏寺禅師を師としてもっぱら気功を学ぶ。あわせて自ら中国医術を学習、養生医道に精進する。1949年以後、病院で医業の仕事のかたわら<静養功><太極気功>を教え、あわせて各種の難病の治療を行なった。
滞在中、一行は一泊二日の日程をとり無錫、蘇州を旅した。その間も白瑞采老師は同伴し、車椅子のHさんと喘息のT嬢には特別メニューの治療を続け、さらに全員が捧気貫頂法を学習した。そして十日間の滞在最終日、午前十時頃から全員が病院二階ロビーで最後の実習。担当中医や看護婦たちも参加している。捧気貫頂法が終わった後、白瑞采老師が車椅子のHさんの前に立ち、両手を差し出しゆっくり上下させながら「立て」と合図した。側の通訳が「ゆっくり立って下さい」とHさんを促す。Hさんは不安そうに老師を見つめ、付き添ってきた奥さんに顔を向け助けを求めている。奥さんが「立ってごらん!」と励ますと、Hさんは意を決して老師に手を差し伸べた。老師がその手をゆっくり持ち上げると、Hさんが自力で立ち上がった。注視していた全員が喝采する。さらに老師は、支えていた手を離すとそっと後ろに下がりながら、おいで、おいでをした。なんと、それに応じてHさんが一歩、一歩、歩いたのだ。全員、驚嘆の大喝采。
T嬢の喘息もかなり緩解した。老師は、帰国後も功法を続けるよう言ったが、Hさんには無理だった。“元の木阿弥”になったのである。老師は予見するように「一ヶ月滞在すれば、なんとかなるが…」と嘆息していたのだ。
その後、白瑞采老師とは数回お会いして指導を受けたが、ある時、拇指に痛風様の痛みがあり診てもらった。老師は「患部を出せ」と言って、患部に運動靴の足先から“気”を送った。十秒か十五秒経過して「どうか」と聞く。痛みはピタッと止んでいる。体験した者でないとにわかには信じ難いことかも知れない。北京の中国気功学会を訪ねた時も不思議な人物に遭遇した。広大で古い歴史の国・中国、始皇帝の<兵馬俑>などはそんな不思議な一面を語っていると言えないだろうか。
ここで、長海病院最後の晩餐会の薬膳メニューを記しておく。(該当する活字がないのは○とする)
~康賓益寿宴~<抗衰防老>
◆冷盆<前菜>◆
1.麦冬鶏○<藪欄と鶏肉>=効能:益気養陰(元気が出て熱病が治る)
2.健脾牛肉<牛肉>=:健脾養胃(消化機能がよくなる)
3.麦○魚○<藪欄と魚>=:降脂通脈(降血脂と血流をよくする)
4.琥珀核桃<くるみ>=:補腎潤腸(元気をもたらし腸の具合をよくする)
5.酸辛黄瓜<キュウリ>=:清熱生津(血液・リンパ液が多くなる)
6.養心素腿<豆腐>=:養心安神(睡眠がよくとれる)
7.平肝○○<新鮮エビ>=:降圧平肝(高血圧を鎮める)
◆正 菜◆
1.寿星○仁<むきエビ>=:補血補腎(血液と腎機能を高める)
2.益元双参<なまこと二種類の薬用人参>=:養心益元(睡眠がよくとれ、元気が出る)
3.杞菊魚○<クコの実・菊・魚>=:補腎養肝(腎によく、血流を良くする)
4.丹珠鮮貝<クコの実・貝柱>=:養肝健脾(肝と消化機能を促進する)
5.温中牛肉<牛肉>=:温中暖胃(体を温め胃痛に効く)
6.松子鶏米<松の実・鶏肉>=:益気潤腸(元気になり、腸を整える)
7.駐容素○<野菜>=:養容駐顔(顔をきれいにする)
8.参○蹄筋<漢方薬・豚の筋>=:益気潤○養顔(元気で、皮膚・顔を綺麗にする)
9.楓斗水魚<楓斗・魚>=:清熱養陰補血(熱を冷まし、血を増やす)
10. 補腎○花<いか>=:補腎壮陽(腎の機能促進)
11. 海馬龍風湯<タツノオトシゴのスープ>=:全補陰陽益元補腎(体全体の調子が良くなる)
◆点心(お菓子)◆
1.補腎鶏○餅<鶏肉まんじゅう>=:養肝益人滋陰補血(全身の調子を整える)
2.洋参蓮子○<西洋人参・水蓮の実>=:養陰生津安神(睡眠を良くし、熱病が治る)
3.珍珠小籠<不明>=:○膚○筋(皮膚をきれいにし若く見せる)
◆飲 料◆
緑荷飲<不明>=:降脂減肥消食(体を細らせ血脂を取り除く)