きょう9月9日は「救急の日」。救急業務や救急医療に対する正しい理解と認識を深めることなどを目的に、1982年に定められました。テレビドラマや映画の影響で、救急医療への関心は高まっているように見えますが、一方で、電気ショックで心臓の状態を正常に戻す「AED(自動体外式除細動器)」の使用率の低さが課題となっています。

 AEDの現状について、東京ベイ・浦安市川医療センター救急集中治療科で医長を務め、日本AED財団(東京都千代田区)で活動する本間洋輔さんに聞きました。

知識不足やトラブルを恐れる

Q.AEDはいつごろから普及したのでしょうか。

本間さん「医療従事者ではない一般市民でも使用できるようになったのは、2004年からです。2002年に高円宮憲仁親王がスカッシュの練習中に倒れて亡くなられたことがきっかけで、AEDの必要性が叫ばれるようになりました」

Q.現在、国内で使用されているAEDの台数は。

本間さん「販売台数などから約60万台と推定されています。駅やホテルでAEDを見かけるとは思いますが、いざ緊急時にAEDがどこにあるか分からないという事態も発生しています」

Q.AEDが必要な理由は。

本間さん「『心室細動』という不整脈に陥った場合、AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに10%ずつ救命率が下がると言われています。救急車が来るのにかかる時間は全国平均で8.6分です。救急車を待つのではなく、現場に居合わせた人がAEDを使うことが救命のために必要なのです。

日本で心臓突然死に至る人は、年間約7万8000人、1日当たり約200人です。2017年に一般市民が目撃した、心臓が原因の心停止で倒れた人は2万5538人ですが、そのうちAEDを使用された人は1260人にとどまりました。つまり、使用率は4.7%で20人に1人しか使われていない計算です。使われれば助かったはずの命が救えていないのが現状です」

Q.なぜ、使用率が低いのでしょうか。

本間さん「設置場所が分からないといった問題のほか、『使い方が分からない』『予想外のトラブルが起きたら…』『この症状で本当に使っていいのか分からない』といった知識不足や恐怖感が背景にあると思います。

最近では『女性に対してAEDを使うとセクハラと思われるのでは』といった声がネット上で出ています。しかし、善意で人を助けるという救命処置の場合、対象者を害するという悪意などがない限り、民事責任は問われることはないと言われています。

また、女性への配慮という点では、AEDを使う際に衣服をすべて脱がす必要はありません。電極が付いたパッドを素肌に貼らなければなりませんが、貼る際にその上からタオルや衣服をかぶせて素肌が見えないようにする、服の下に手を入れて貼るなどして対応できます。

視線を隠すためのテントをAEDと一緒に置いている所もあります。最も大事なことは、命を救うことです。一分一秒を争う事態であり、ためらわず、勇気を持ってAEDを使っていただけたらと思います」

Q.病院で診察した際の患者の様子は。

本間さん「現場でAEDを使われた人の中には、病院に搬送された際には話せるまでに回復している人もおり、社会復帰する場合が多いです。反対に、病院に来るまでずっと心臓が止まっていた人は助からないことも多く、助かったとしても脳に障害が残り、社会復帰できないケースもあります。現場で迅速に胸骨圧迫を行い、AEDを使うことが大切です

Q.心臓突然死の原因は分かっているのでしょうか。

本間さん「心筋梗塞、心筋症、弁膜症、心不全などで、そのほとんどが致死的な不整脈に起因するといわれています」

Q.心臓突然死は中高年の人に起こりやすい印象があります。

本間さん「心臓突然死の原因になる心室細動や心筋梗塞は、中高年の男性に最も多く見られます。しかし、その年代の人たちのみではなく、例えば、公立の小中高でも心臓突然死が年間100件起きています。何らかの救命対応が必要だったケースも合わせると年間200件。どんな年代の人でも心臓突然死はあり得ます

心臓突然死のリスクを事前に見つけるために検診が実施されていますが、検診で異常がない人も倒れることがあります。患者さんで、健康に人一倍気を使う人がいました。日頃からジムに通い、食事にも気を使うなど、体を念入りにケアしていましたが、ある日、ジムで倒れました。

心筋梗塞が原因と後で分かりましたが、ジムの人がAEDを使い、胸骨圧迫を行ったことで病院搬送時には話せるほどまでに回復していました。今は社会復帰しています。いつでもどこでも誰にでも起こり得るからこそ、講習会の定期受講など、日頃からの準備が大切です」

AEDの講習内容は?

Q.AEDは誰でも扱うことができるのでしょうか。

本間さん「AEDを使うことに資格は必要ありません。誰でも使用可能です。初めての人でもすぐ使えるように、音声で操作を説明します。正しく使えば、事故はほぼ起きません。」

Q.日本AED財団では、どのような講習を行っていますか。

本間さん「『PUSHコース』という、胸骨圧迫とAEDの使用に特化した50分間の講習と、AEDのデモ機の体験を組み合わせた講習会などを実施しています。この講習では、胸骨圧迫の仕方、AEDの安全な使い方、誰かが倒れたときに声をかける勇気を重視しています。

講習は隔週水曜日に行っています。近隣の会社員が受講するケースもありますし、学校の長期休暇中は親子での受講者も多く、小中学生の参加者から『自分でもできることが分かった』という意見を多く頂きました。講習の知識を生かして、親子で実際にAEDを使った救命活動を行った人もいます。

PUSHコース自体は、日本AED財団以外にも全国のPUSH地域コア団体を中心にさまざまな場所で開催されています。私自身は千葉PUSHの代表として、各地でPUSHコースを開催しております」

Q.AEDの設置場所が分かりにくいといわれることについて、対策は。

本間さん「AEDの設置情報を多くの人で登録、共有するためのウェブアプリ『AED N@VI』を1月に公開しました。これまでもAEDの検索サイトは複数ありましたが、精度や登録情報更新の面で課題がありました。『AED N@VI』は、ユーザーが自ら街中にあるAEDを見つけて写真を投稿し、情報を更新していく仕組みです。現在約4000人が登録し、約1万台のAEDが登録されています。自治体や企業などのAED設置者からの登録も増えてきています」

Q.AEDの使用に関して望むことは。

本間さん「救命が必要な場面に出くわすと、責任問題を意識してしまい、行動に移せないことがあると思います。救命の際は、1人ですべてを抱え込もうとせずに、周囲の人と協力し、お互いができることを実践していけばいいと思います。例えば、AEDが操作できなくても、助けを呼ぶ、胸骨圧迫をする、設置場所までAEDを取りに行く、体を隠すための衣服を貸すなどでも十分です。

また、PUSHコースをはじめとしたAED講習会を受講することで知識面での不安を減らすことができますし、『AED N@VI』を利用することでAEDの位置情報を共有し合うことができます。協力し合うことで救命の輪が広がって、助かる命が増えていけばと思います」

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「AED」とは、“Automated External Defibrillator”の略称です。簡単にいえば、心臓のけいれんを止める装置です。ゆえに、正常に心臓を動かすには、AEDだけではだめで、同時に、心臓マッサージである胸骨圧迫を行わなければなりません。

ありがたいことに、AEDの講習を受けたことがある貧乏英語塾長、この辺のことは普通の人よりは知っているとおもいます。ただし、幸か不幸か、AEDを使わなければならない場面にはまだ遭遇しておらず、実戦経験はありません。

ですが、いざとなったら、AEDを使う覚悟はできています。ひとりでも多くの人の命を助けるためにも、勇気をもってAEDを使い、胸骨圧迫を行おうとおもっています。