嫁のラーが、1週間に3度もバイクの転倒事故を起こしてしまった。
いちど目は、崖から転落した翌日に右腕を打撲。
二度目は、一昨日で膝を打撲。
そして、3度目は昨日で胸を打撲。
いずれも長姉の田植えを手伝うために、雇った村人たちをオムコイの町まで送り迎えする途中の出来事であったという。
*
「クンター、毎日雨がひどくて道路がぐちゃぐちゃなの。前と違って、痩せてしまったいまのわたしにはバイクがコントロールできない。だから、後部座席で人が動いたりすると、ぬかるみですぐに転んでしまうんだ・・・」
「お前さんは、バカか?あれほど気をつけろと言っているのに、どうして雨の中、しかも二人乗りでバイクなんか運転するんだ?」
「だって、人手が足りないからどうしても助けてほしいって姉が言うから。農繁期のいまは誰もが忙しくて、姉を助けられるのはわたししかいないんだよ」
「たとえそうだとしても、お前さんは病気で、しかも両手を怪我しているんだろう。なんで断れない?」
「姉には若い頃ずいぶん世話になったから、その恩返しがしたいの。身体は痛くても、わたしの心が姉を助けたいってきかないんだ・・・」
タイ人、とりわけカレン族が家族を思う心や絆の深さは、日本人の想像をはるかに超える。
それに、厳しい生活環境の中では助け合いがなければ生きていけない。
“心が助けたがってきかない”と言われれば、私は黙り込むしかない。
*
「で、怪我の具合はどうなんだ?」
「あちこち痛いよお。今日の事故では、胸をひどく打って1時間も泣いていたんだよ」
「病院には行ったのか?」
「うん、レントゲンを撮った方がいいと思って行ったんだけど、今日は日曜日で医者がいなかった・・・」
「そうか。じゃあ、今日は胸をしっかり冷やして、明日病院に行くんだ。明日はもう、絶対に田植えに行っちゃあ駄目だぞ」
「うん、もう充分だよ。これ以上ひどい怪我をしたら、火曜日にクンターをチェンマイまで迎えに行けなくなるから・・・」
*
福岡の救急病院で1ヶ月を過ごした母は、火曜日にリハビリ専門病院に転院することになった。
姉の報告によれば、母は以前のように時おり目を開けたり身体を起こそうとするような仕草も見せなくなり、ただひたすら眠り続けているという。
転院後のリハビリで、「咀嚼と飲み込み」が可能になるものかどうか。
心もとない限りではあるけれども、専門病院が受け入れてくれた以上、わずかな可能性に賭けるしかない。
入居していた介護施設は、今月いっぱいまで部屋をあけて待っていてくれるという。
残された半月の間に、果たして奇蹟は起こるのだろうか?
*
母が転院する火曜日の同時刻に、私は関西空港からバンコクへ向けて飛び立つ。
迷う私の背中を押してくれたのは、姉である。
チェンマイ空港に着くのは、午後10時頃。
満身創痍のラーの姿が、目の前に浮かぶ。
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いちど目は、崖から転落した翌日に右腕を打撲。
二度目は、一昨日で膝を打撲。
そして、3度目は昨日で胸を打撲。
いずれも長姉の田植えを手伝うために、雇った村人たちをオムコイの町まで送り迎えする途中の出来事であったという。
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「クンター、毎日雨がひどくて道路がぐちゃぐちゃなの。前と違って、痩せてしまったいまのわたしにはバイクがコントロールできない。だから、後部座席で人が動いたりすると、ぬかるみですぐに転んでしまうんだ・・・」
「お前さんは、バカか?あれほど気をつけろと言っているのに、どうして雨の中、しかも二人乗りでバイクなんか運転するんだ?」
「だって、人手が足りないからどうしても助けてほしいって姉が言うから。農繁期のいまは誰もが忙しくて、姉を助けられるのはわたししかいないんだよ」
「たとえそうだとしても、お前さんは病気で、しかも両手を怪我しているんだろう。なんで断れない?」
「姉には若い頃ずいぶん世話になったから、その恩返しがしたいの。身体は痛くても、わたしの心が姉を助けたいってきかないんだ・・・」
タイ人、とりわけカレン族が家族を思う心や絆の深さは、日本人の想像をはるかに超える。
それに、厳しい生活環境の中では助け合いがなければ生きていけない。
“心が助けたがってきかない”と言われれば、私は黙り込むしかない。
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「で、怪我の具合はどうなんだ?」
「あちこち痛いよお。今日の事故では、胸をひどく打って1時間も泣いていたんだよ」
「病院には行ったのか?」
「うん、レントゲンを撮った方がいいと思って行ったんだけど、今日は日曜日で医者がいなかった・・・」
「そうか。じゃあ、今日は胸をしっかり冷やして、明日病院に行くんだ。明日はもう、絶対に田植えに行っちゃあ駄目だぞ」
「うん、もう充分だよ。これ以上ひどい怪我をしたら、火曜日にクンターをチェンマイまで迎えに行けなくなるから・・・」
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福岡の救急病院で1ヶ月を過ごした母は、火曜日にリハビリ専門病院に転院することになった。
姉の報告によれば、母は以前のように時おり目を開けたり身体を起こそうとするような仕草も見せなくなり、ただひたすら眠り続けているという。
転院後のリハビリで、「咀嚼と飲み込み」が可能になるものかどうか。
心もとない限りではあるけれども、専門病院が受け入れてくれた以上、わずかな可能性に賭けるしかない。
入居していた介護施設は、今月いっぱいまで部屋をあけて待っていてくれるという。
残された半月の間に、果たして奇蹟は起こるのだろうか?
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母が転院する火曜日の同時刻に、私は関西空港からバンコクへ向けて飛び立つ。
迷う私の背中を押してくれたのは、姉である。
チェンマイ空港に着くのは、午後10時頃。
満身創痍のラーの姿が、目の前に浮かぶ。
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