日本に戻ってから、ちょうど2週間が過ぎた。
ニューヨークで過ごした濃密な時間に較べれば、この2週間は空白に等しい。
事実、旅荷が散乱した仕事部屋や机の上の様子は、帰国直後と何らの変わりもない。
すべては手つかずのまま、時間だけが過ぎ去ったというわけだ。
22日に観た「サロメ」(ポーランド国立歌劇場)に対する印象と同様に、この2週間に対する印象は曖昧模糊として掴み難い。
つれな . . . 本文を読む
受話器の向こうで響いた“I love you too”が、心地よい子守唄のように寄せては返す。
それをきっかけに、俺は眠り病に陥ってしまった。
ニューヨークとの時差は、13時間。
現在の日本時間月曜日午後11時43分は、ニューヨーク夏時間で月曜日午前10時43分。
完全夜型のJudyは、いま、アトピー対策のニベアスキンクリームを右手に握りしめ眠っているに違いない。
頬に塗った . . . 本文を読む
祈るような思いでニューヨークに電話をかけると、Judyの弾んだ声が耳に飛び込んできた。
「Kiyoshi!調子はどう?まだ、日本にいるんですって?電話をかけたいと思ったけれど、裁判書類作りのどさくさでアドレスメモを失くしちゃったの。ごめんね」
書類や郵送物がびっしりと詰まった紙袋の重みを思い出す。
“これは私のオフィスだから、絶対にいじっちゃ駄目だよ。それに、あんまり愉快な話じゃない . . . 本文を読む
言葉が、湧いてこない。
人に会い、友人・知人に電話をかける。
ご無沙汰していた中国の留学生たちと、近況を語り合う。
そんな「日本での日常」が回復するにつれ、漂泊への思いは募るばかりである。
だが皮肉なことに、新たなる家郷・麗江とニューヨークとの狭間に落ち込み、旅のスタンスが決まらない。
そんな自らを鼓舞せんと、20歳の頃に耽溺した先達の書を読み返す。
*
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昨夜は、5時間弱眠った。
早朝のうっとおしい曇天を仰ぎながら、ふと帰国後の不調の原因が“酸欠”にあったことに気づく。
気鋭の作家・岸本志帆が指摘してくれたように(6月4日weblog参照)、俺は高速回遊魚・鰹のように決して泳ぎ回ることをやめてはならないのだった。
さもなくば、高速用に特化した鰓から酸素を取り込むことができなくなり、息絶えてしまう。
遠心力を失った独楽のように、バタ . . . 本文を読む
足の踏み場もないほどに旅荷が散乱した仕事場で、ベートーヴェンの「交響曲第7番」を聴いている。
METの名物指揮者ジェームズ・レヴァインの指揮にしては重たい感じだな、と思いつつCDジャケットを眺めると「ミュンヘン・フィルハーモニー」とある。
指揮者と楽団の組み合わせによって、楽曲の印象はかくもガラリと変わってしまうものなのだ。
4~5月に通いつめたMET(メトロポリタンオペラハウス . . . 本文を読む
およそ2ヶ月ぶりに対面した黄色いキャリング・バッグを開けると、シチズンの電波腕時計「エコドライブ」が転がり出てきた。
手に取ると、いきなり秒針が回り始め、ぴたりと日本時間を指し示す。
ということは、運輸会社の倉庫に保管されていた間、ずっとニューヨーク時間を刻み続けていたというわけだろうか。
チタニウム製の超軽量アルバに慣れた腕には重すぎて、ニューヨークから強制送還したのだったが、妙 . . . 本文を読む
体内時計が、なかなか元に戻らない。
夜中に眠れず、昼間に突然眠気が襲う。
体の動きが鈍く、頭がまったく働かない。
だが、2ヶ月間の留守の付けは容赦なく俺を責め立てる。
手紙と請求書の山。
放置していた2件のスピード違反に関する出頭通知書。
成田空港における「暴行容疑」の呼び出し状。
いやはや。
日本に戻ってもポリスや検察とは、なかなか縁が切れない。
ラッセル・クロウと . . . 本文を読む
傷心のまま、格好よくニューヨークを去ろうと思っていた。
ところが、またまたJudyに“けたぐり”を喰らってしまった。
余ったRolling Rockビールを気のいいフロントスタッフに手渡しにいったら、なんと彼女からのメッセージが届いていたのである。
しかも、時計の針が回った深夜。
「連絡しないでごめんなさい。でも、こんなに早くニューヨークを離れるなんて知らなかった」
おい、 . . . 本文を読む
心が淀むと、体が動かない。
浅い眠りのあとにシャワーを浴びていると、コックをひねり間違え背中に熱湯を浴びてしまった。
先週金曜日の電話で「すぐに連絡するね」と言いながら、いまだJudyからは何の音沙汰もない。
彼女が居候しているSuzanのアパートに電話しても、この1週間戻ってこないという。
Suzanの息子は、しきりに「日本の住所と電話番号を書いた手紙を寄越せ」と言ってくれるが、 . . . 本文を読む
長い旅の終わりに、グラウンド・ゼロを訪ねた。
あの「9・11」で倒壊したワールド・トレードセンターの跡地である。
金網で囲われたコンクリートの廃墟は、新たなる建設のための基礎工事を終えたかの如きたたずまいだ。
時は、過酷である。
この場所で、あの驚天動地が起きたことが、にわかには信じ難い。
黙祷を捧げるものの、祈りは乾ききった心の奥底までは届かない。
パキスタン、アフガニ . . . 本文を読む
つい先日、暴行容疑で逮捕されたラッセル・クロウの新作映画『Cinderella Man』(ロン・ハワード監督)を観た。
1930年代の大恐慌の折り、貧苦に苦しむ大衆のヒーローとなった実在のヘビー級ボクサー、ジム・ブラドックの闘いと家族愛を描いた話題作である。
シルベスター・スタローンの出世作『ロッキー』も、おそらくこの実話に触発されたに違いない。
若くして頭角を現した人気ボクサー . . . 本文を読む
日本に送る荷物のパッキングが、やっと終わった。
何も考えず、とにかく目についたものをどんどんバッグに放り込む。
そうしないと、思い出が手の動きを止めてしまうのである。
シャワーを浴びて、Rolling Rockビールで喉をうるおす。
中国のキュートなポップス・トリオ『安可(ENCORE)』のハイセンスなCDを聴きつつ、キャメルを吹かしながらJudyの困難な闘いに思いを馳せていると、 . . . 本文を読む
6月10日、金曜日。
早朝から、激しい雷雨が街を洗っている。
昨夜は、梅雨のような蒸し暑さだった。
日本も、すでに梅雨の真っ盛りだろうか?
ハドソン河対岸の高層ビルが雨に霞み、俺の心も重い雨雲に覆われている。
一昨日夜の「ブラジリアン柔術」練習は、思いもかけずハードなものだった。
準備運動としてのランニング、サイドステップ、回転受け身、エビぞり・・・。
それだけで、ヘビース . . . 本文を読む
来週月曜日、13日の成田行きチケットを確保した。
自ら退路を断たねば、次なるターゲットには挑めない。
Judyは、安穏な暮らしよりも“正義のための闘い”を選んだ。
「Hei,My fair Lady! What is your end goal of life?」
「Justice!」
俺の質問に対し、決然と答えを返したJudyの潔さに胸が詰まる。
心の中に . . . 本文を読む