【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【夢の舞台を買う】

2007年02月02日 | アジア回帰
 ベンが田舎から戻る日が、日に日に伸びていく。
 初めは、30日、次に31日、続いて1日、しまいには今日2日ということになって、ちょうど1週間が過ぎた。

 初めから1週間も戻らないと分かっていれば、陸越えでラオスにでも出かけたのだが、甥っ子の具合が一向に好転しないので、夜になるたびに病院に泊り込んでいる母親から「もう少し爺ちゃんと婆ちゃんの世話をして」と泣きつかれてしまうのでは、致し方がない。

 「婆ちゃんは、あと4年くらいしか生きられない」

 田舎の医者からそう宣告されたベンは、一大決心をした。
 痴呆症を病む祖母と呼吸障害に苦しむ祖父に快適な余生を送ってもらうために、そして家族による今後の介護を楽にするために、実家を建て替えようと父母に働きかけたのだ。

 ベンの夢は、家族が住む村から2キロほど離れたところにある自分の土地に、家を建て、周囲にバナナやココナツの果樹園を作ることだった。
 
 しかし、実家を建て替えるためには父母の資金力だけでは不十分で、言いだしっぺのベンもそれなりの出費を覚悟しなければならない。

 父親がはじき出した分担額は、父母が50万バーツ、ベンが10万バーツというものだった。1バーツ=約3.3円で換算すると、「200万円足らずで家が建つのか!?」という驚きの方が先に立つが、米と果物には不自由はしないものの他に現金収入の当てがない村人にとっては大金である。

 当然、父は金策のために山や田んぼを売り、事業に失敗したベンも“夢の舞台”だった土地を売ることを決意した。

 この心意気に、私の心も激しく揺さぶられた。
 自分のためならともかく、祖父母のために長年の夢をあきらめるというベンの気持ちが、痛かった。

 10万バーツは、日本円にして約35万円である。
 私にとっては決して安い金額ではないが、これでベンの“夢の舞台”が守られるのなら、清水の舞台からも飛び降りよう。

 言葉を換えれば、私自身が“ベンの夢を買った”のである。

 その“夢の土地”は、タイ北部の山並みをはるかに見晴るかす高台の上にある。

 家のまわりに果樹園を作り、花を育て、魚を養殖するというベンの夢は、いつ実現できるか分からないが、その夢をふたりして語り合うだけで、心がまったりとしてくることに間違いはない。

 
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