【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【英語で読む村上 龍】

2006年04月23日 | アジア回帰
 オペラハウスのあるリンカーンセンターのすぐ近くに、BARNES&NOBLEという巨大な本屋がある。

 メグ・ライアンとトム・ハンクスが主演した『You've got mail!』という映画の中で、メグが母親から受け継いだ小さな絵本専門店を経営破綻に追い込んでしまう「悪役書店」(その若手経営者がトム)のモデルとなった本屋である。

 4階建てのビルをフルに使った巨大なスペースではあるが、日本、特に東京の巨大書店で感じるような圧迫感はない。

 ゆったりととられた書棚の床には、学生らしき男女があぐらをかいて座り込み、一心不乱に本を読みふけっている。

 一階の新刊コーナーで、『孤独になる方法』という面白いタイトルのエッセイ集を見つけた。

 前書きが9・11から書き起こされており、著者はニューヨーク在住の小説家らしい。

 その彼の新しい小説集についてインタビューにやってくるメディア関係者たちが、実はほとんど彼の小説を読まずにインタビューにやってくる、というくだりを読んで思わず笑ってしまった。

 かつて、インタビュアーとして私にも同じような経験があり、日米を問わずメディアというものは綱渡りのような作業に追われているのだなあ、と苦い溜め息をついた次第である。

 大いに食指が動いたが、私の悪い癖で単語調べが大変な英語の本(つまらない日本語の本も含めて)はすぐに途中で放り出してしまう。

 そこで、今回は2月に世話になったスーザンという英語教師の勧めを思い出して、一度読んだことのある日本語の本の英訳本を探すことにした。

「母国で一度読んだことのある本なら、大体のあらすじや印象的なシーンは覚えているものだから、その英訳本をテキストにすれば単語や文法を想像力でカバーできる。私も、フランス語の本を読むときは、まず英訳本を探して読んで、それからストーリーを忘れないうちに原書を読むの。若いころならともかく、私たちにはあまり時間がない。この方法なら、辞書引きに追われてイライラすることもないし、ずいぶんと時間を節約できるものよ」

 キャサリン・ヘプバーンに似た愛らしい老女教師は、そう言いながらウインクをしたものだ。

 ニューヨークで発刊されているある日本語新聞によれば、日本文学に関心を持つアメリカの学生たちの間では、村上春樹の『海辺のカフカ』を語ることが一種のステイタスになっているという。

 おそらく、日本文化の研究に熱心で村上氏を講演に招いたこともあるコロンビア大学あたりでの話だろうが、この巨大書店でも日本の漫画英訳本コーナーに“MANGA”と表記されており、漫画はすでに“SUSHI”や“TOFU”と同じように英語化している。
 
 アメリカの若い学生たちが、村上春樹の小説やコミックブック、あるいは原宿ファッションに目を輝かせているという事実はもっと日本人にも知られるべきだろう。

 店員に尋ねてみると、村上春樹の小説はアルファベット順の「M」のコーナーにあった。

 デビュー後数年間はともかく、このところの私は氏の熱心な読者とは言えないが、さすがに人気があるらしくめぼしい代表作は揃っており、とりわけ『海辺のカフカ』が目立つ。

 手に取ってみるが、実は未読で、スーザンの「教え」には合致しない。

 迷っていると、端っこに赤い背表紙が見え「MURAKAMI」とあるが、タイトルは『69 SIXTYーNINE』。

 「ん?MURAKAMIったって、村上 龍の方じゃないか?」

 日本では、「龍」と「春樹」は肩を並べるビッグネームだが、ここニューヨークでは圧倒的な「春樹」人気で、「龍」は添え物のような扱いである。

 だが、私にとっては「龍」は同年生まれ、しかも同じ九州出身であり、学生時代に彼が鮮烈なデビューを果たした様子は今でもはっきりと覚えている。
 
 とりわけ、九州は佐世保の高校生時代を描いた『69』には大いに共感し、中でもバリケードを築いた夜に仲間が校長の机の上に脱糞する描写には、腹をかかえて笑った覚えがある。

 これなら、英訳本でも飽きずに読めるかも知れない。

 よし、ここは「春樹」よりも「龍」だ。

 「カフカ」よりも、「カミュ」だ。

 (なにせ、「龍」は17歳の主人公に“人生は不条理だ”と叫ばせるのだからたまらない)。
          *
 ニューヨークに着いて以来続いてきた好天が崩れ、昨日の夕方から冷たい雨が降り出した。

 どうやら、今日も雨模様で、読書にはもってこいの週末となった。

 村上 龍の『69』は、英語で読んでも面白い。

 懐かしい“女子更衣室侵入シーン”や“校長室脱糞シーン”は、げらげら笑いながら読んだ。

 高校時代に、こんな面白い小説を英語で読んでいたら、早々と英語の授業を投げ出すこともなかったろうに・・・。

 と言っても、まだ3分の2ページほど残っている。

 ゆめゆめ、油断はなるまい。


 


 
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