室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

みぬまの”なかま”

2006-10-15 13:17:26 | Weblog
 埼玉の「みぬま福祉会」へ演奏をしに行った。ハンディキャップの方達の作業所が何カ所かあるそうで、その中のひとつ、蓮田へ伺った。
 玄関を入ってすぐ左が集会所のようなホールになっている。三角天井の下に”なかま”の皆さんの作品かもしれない10本余りの織物が旗のように左右に渡され、広尾のレストランを思い出された。片隅にヤマハのアプライトピアノが置いてあり、大きな窓からは畑や少し遠くの森、手前の色とりどりの花壇など広々とした景色が見えて、気持ちが良い。
 チェロとのデュオだったのだが、二人でリハーサルを始めると、車いすが2つ寄って来た。そのうちの1つは、じきに押してやられてしまったが、1つの方は迷惑はかけないと判断されているらしく、ずっとその場にいた。が、次第にチェロに接近し、やがて楽譜を覗き、指で五線譜を(違う箇所だけれど)指していたそうだ。目が合うニコ~ッとされ、微笑み返しをせずにはいられない。
 こんな”無邪気”な方達と、お世話をされている職員さん、ご父兄(母親ばかり)それに、交流のあるらしいご近所の方々の前で1時間程度のミニコンサートをした。真っ正面1メートルの所で、絶えず白いビニール袋をくしゃくしゃさせている人がいるけど、取り上げないので、公認なのだろうと察する。小さめの角度の変わるストレッチャーに乗っている人が絶えず「ア~、ア~」と小さい声で云っている。「トルコマーチを弾きます」と言ったら手を挙げて「好きです!」と答える人がいる・・。しーん、と静まりかえってはいないけれど、音に触れる喜びと、にこやかな笑みが充満している空間で演奏する、という始めての体験だった。花束を渡す役で車いすを押されて近づいて来たうちの一人は、一生懸命「アリガトウゴザイマシタ」と言ってくれた。もう一人は、目が左右別方向に向いていて、絶えず首が動いている。花束の端をつかんで、なかなか渡してくれない。その姿を見て、感動して目に涙が溜まってくるのを私は必死でこらえた。この方達を包んでいる愛情に? こんな素晴らしい理想の地を造った英知に? いや、このコントロールの利かない身体の彼から発せられた目に見えない”何か”に触れたのだと思った。
 ほんの数時間訪れただけでは分からない、想像を超えた生活がそこにはあるのだろうとは思うけれど、長年、そういう家族をお世話してこられたご父兄たちのお顔を見ると、色々なものを乗り越えて来られたのだろう充実感と、共通の方向を見ている団結と、力強さを感じた。
 人間ってすごい! ピアノが弾けて良かった。

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