ポチは、毎日、汁かけご飯をもらってはよろこんで食べ、えんがわの下で寝ていました。
みそ汁には、だし用の煮干しがそのまま入っていましたから、ポチにとってはごちそうでした。
そのうち、S少年のお父さんが自転車に乗って工場へ出勤するのにくっついて行き、やがて工場の門のところまで、毎朝一緒に走っていくようになりました。
そして、S少年のお父さんが工場の門のなかに入っていくのを見届けると、ポチは、ちゃんとお家に帰ってきました。
しばらくすると、毎日夕方には、工場の門のところまで走っていって、S少年のお父さんをお出迎えするようになりました。
もちろん、だれかが仕込んだわけではありませんでした。
ポチは、S少年のお父さんのことが大好きだったのです。
S少年のお父さんも、ポチの顔中をなでまわしてかわいがっていました。
ポチは、少しでもながくS少年のお父さんと一緒にいたくて、朝にも夕にも送り迎えするようになったのでしょう。
それでも、ポチの体は ホコリだらけ 泥だらけ
ノミもダニもつき放題 爪もひげものび放題 トイレはあちこちやり放題--
ポチは、何を教えてもらえるわけでもなし、何かを買ってもらえるわけでもなし
ただ、居心地のいい場所でエサをもらってかわいがられ、ひたすらのんびりと遊んで暮らしていたのです。