白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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プロの碁は難しい?

2016年07月25日 23時13分11秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
皆様はプロの対局をご覧になりますか?
「難しいから見ない」「NHK杯なら見る(解説が付くから)」と仰る方が結構多いですね。
確かに一面ではそれは当たっています。
20手30手先を見ているので、見た目に分かり難い打ち方をすることもしばしばです。
しかし大半の局面では、プロが意識している事はアマの皆さんが意識すべき事と同じです。
本日はそれを念頭に置いて、プロの対局をご覧頂きましょう。



幽玄の間
で中継された、小県真樹九段(黒)村川大介八段戦です。
白1は最近の定石です(以前はAが主流でした)。
黒2となりましたが、まだ定石の途中です。
次の一手はどこでしょうか?





白1から5が逃せない所です。
しっかりと治まり、10目ほどの地も確保しています。





手を抜いて黒1と打たれてはいけません。
次に黒Aも先手になる形で、白は全く眼のない形になってしまいます。
序盤で弱い石を作るのは極力避けなければいけません





手順が進み、右上で戦いになっています。
白1ではAと1子抱える方が殆どでしょう。
何故下がりなのでしょうか?





白1の抱えだと、黒は先手を取って左辺に先行してしまいます。
右辺の黒には黒A、白B、黒Cで△と合わせて簡単に2眼出来ます。
いつでも生きられるのでは厳しい攻めはありません。





実戦の白1は右辺黒の保険を奪うものでした。
ただ守るのではなく相手に響く守り方を選んでいます。
やはり黒4と手を抜きたいのですが、右辺黒に眼がありません。
白7から攻めが続きます。





実戦は黒△と手を入れる事になりました。
左辺の大場には白が回っています。
2つ前の図とは大差です。





さらに手順が進み、黒△と中央を広げた場面です。
黒模様がこのまま地になっては大きいので何とかしたい所ですが、ただ単騎突入しても当てがありません。
こういう時には重要な考え方があります。





白1のツケコシから黒に傷を作り、さらに白5から7と切って行きました。
相手の弱みを衝くというのは、凌ぎの基本です。
皆様の対局を拝見しますと、模様の中に突入したは良いものの逃げる事だけを考えてしまう方が多いです。
挙句一方的に攻められ、最後は頓死という事も珍しくありません。





白の出切りは突入法しては一見乱暴なようですが、実はこれが一番安全です。
弱点が出来た事で黒は自由に打てません。
黒1と丸飲みにしたい所ですが、白6まで進んで黒は困ります。





黒1と押さえると当たり当たりから白6で黒潰れです。
左辺の黒大石に眼がありません。





2子を取られないように黒1と打つのもダメです。
白8まで黒潰れです。





実戦は黒1、3と大石が切れないように打ちましたが、白4、6で包囲網が破れました。
黒Aと逃げたいのですが、やはりダメ詰まりの黒3子が足枷になって思うように戦えません。





結果白2となって凌ぎに成功しました。
黒の弱みを衝いた力強い凌ぎでした。


如何でしょうか?
プロの対局は一手一手は難しい手も打ちますが、基本的な考え方は単純です。
何を考えて打ったのか、大雑把にでも想像して頂くと良いでしょう。
それがプロの対局を楽しむ事にも繋がりますし、上達にも役立つでしょう。