白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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棋聖戦、開幕!

2017年01月14日 21時32分55秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンで指導碁を行いました。
非常に寒い中お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日から第41期棋聖戦挑戦手合七番勝負が始まりました!
井山裕太棋聖に挑戦するのは、河野臨九段です。
河野九段の紹介の前に、まずはこちらの表をご覧ください。



過去15年の七大タイトルホルダー一覧です。
所謂四天王(羽根直樹九段山下敬吾九段高尾紳路名人張栩九段)を緑色で示しています。
2003年から2011年にかけての9年間は、四天王の時代でした。
計63タイトルのうち46タイトルを占める、圧倒的な強さでした。

そして、四天王時代を終わらせたのが井山棋聖です。
2009年に名人位を獲得してから僅か3年後、2012年には5冠を制し、早くも碁界の頂点に君臨しました。
2012年から2016年にかけての5年間は、完全に井山時代でした。
35タイトルのうち27タイトルを占める、恐ろしい強さを発揮しています。
日本で一番強いのは誰かと聞かれ、誰もが張栩九段と答えるような時代が1、2年ありました。
しかし、井山棋聖は絶対的な存在になってから既に5年です。
まだ27歳ですから、井山時代がいつ終わるのか、なかなか想像できませんね。

圧倒的に強い、四天王と井山棋聖に挟まれ、その間の世代は虐げられて来ました。
大きなタイトルを取った棋士は、殆ど存在しません。
唯一の例外が河野九段です。
2005年から2007年に天元を3連覇、その後も挑戦手合に度々登場するなど、常に活躍しています。
獲得タイトルが天元3期に止まっているのが不思議なぐらいです。

その主な原因が、井山棋聖です。
これまでの成績が河野九段から見て13勝26敗、タイトル戦は4回戦って全敗と、酷い目に遭わされています。
この棋聖戦という大舞台で、今までの貸しを取り立てたい所でしょう。
河野九段には2日制の経験は無く、その実力は未知数です。
<追記>2日制の対局は2014年の第39期名人戦以来です。
井山棋聖が大きく勝ち越しているといっても、過去のデータはあまり当てにならないでしょう。

さて、前置きが長くなりました。
第1局1日目の模様を振り返って行きましょう。
なお、この対局は幽玄の間にて、溝上知親九段の解説付きで中継されています。
また、囲碁プレミアムでも生中継があります。



1図(実戦黒15)
井山棋聖の黒番で、黒△と押した場面です。
定石が進行中で、次は白Aの一手です。
形良く守っておき、例え黒Bと先行されても白Cから仕掛け、ほぼ互角の進行です。
・・・というのがプロの常識でした。
が現れるまでは・・・。





2図(実戦白16)
実戦は、白1のブツカリ
これを見た時、河野九段は宇宙人かと思いました。
常人には絶対に思い付かない手なのです。
と言っても、あくまでアマ高段者やプロレベルの話です。
アマの皆さんの中には、こういう手を打たれる方も当然いらっしゃるでしょう。

黒△が待っている所に白1と頭をぶつけて行く手は、筋が悪いのです。
手筋を身に付けて行くと、こういう手は候補に上らなくなります。
先手を取って白3に回れるという利点はありますが、経験上こういう筋の悪い手はダメだと感じるのです。





3図(参考図)
例えば、このような形で白1と頭をぶつけて行く手は大悪手です。
やはり2目の頭と尻尾を両方ハネられており、白はダメ詰まりで不自由です。
実戦もこの図と同じように感じるのです。





4図(変化図1)
ただ、考えてみれば筋悪のブツカリにも利点はあります。
例えば白1に黒2と守られた形は、右上の黒石が全て繋がっています。





5図(変化図2)
白1のブツカリだと、後に白Aの切りが残ります。
白の形が悪いので、有効打になる可能性は低いですが、黒の弱点には違いありません。

後で知りましたが、この白1を最初に打ったのは、実はAIの「Master」でした。
なるほど、河野九段はそれを見て研究したのですね。
河野九段宇宙人説は払拭されました。

しかし、何度見ても凄い手です。
私には絶対に真似できません。





6図(実戦白20~白26)
さて、布石の続きです。
白1に黒2は、黒Aのツケコシを打つためのシチョウ当たりです。
対する白は、白3一本で黒Aの厳しさを緩和しておいて白5に受けて頑張る、機敏な打ち回しを見せました。
黒6と守られると、結果的に白3が悪手になっていますが、その代わり白7とまた先行できました。
右上から一貫して、白はスピード重視の作戦です。

白7には黒Bと伸びるのが素直な手ですが、左上は石数が1対3です。
白C付近に挟まれると、黒は苦戦必至です。
そこで実戦は・・・。





7図(実戦黒27~白32)
左上の1子に構わず、黒1、3と先行しました。
相手の強い所なのでかわして打つ、柔軟な発想です。

また、右辺白4、6も似たような発想です。
上下の黒が強い石なので、打ち込んだりすると苦しい戦いになる可能性が高いのです。
そこで、辺に地を囲うならどうぞと、穏やかに打ちました。





8図(実戦黒33~白38)
逆に言えば、黒としても何とか戦いに引きずり込みたいのです。
黒1、3は地を囲う手では無く、白の根拠を奪った意味でしょう。
そして、黒5と背後から迫って行きました!

対する白も6の押しとは、強気な対応です。
白AやBを強調しており、攻撃的なサバキと言えます。
さて、ここで封じ手となりましたが・・・。





9図(封じ手予想)
黒△を補強しながら、白4子に厳しく迫りたい所です。
そこで、封じ手予想は黒1の2間トビ(ボウシ?)にします。
恐らく大半のプロが真っ先に考える手であり、本命でしょう。
他には一路下の1間も十分考えられますが、やや足が遅い事が気になります。

それにしても、39手目で封じ手とは、かなりのスローペースです。
3時間の碁だと、昼食休憩の時点でももう少し進みます。
長考派の両者が、思う存分考えた結果ですね。
その長考でどんな深い構想を描いたのか、2日目の進行が楽しみです。
明日もぜひご覧ください!

なお、「幽玄の間」では封じ手予想クイズシリーズ勝敗予想クイズを実施しています。
ぜひご応募ください。