白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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河野九段、先勝!(棋聖戦第1局2日目感想)

2017年01月15日 21時39分13秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
まずは昨日の記事について・・・。
投稿直後は河野臨九段の七番勝負登場が初めてと書いていましたが、2014年の第39期名人戦の挑戦者でしたね。
しかも、相手は井山裕太名人(当時)・・・。
お詫びして、訂正いたします。
記憶力が悪い棋士もいるのです。

さて、それでは棋聖戦第1局、2日目の模様を振り返って行きましょう。
穏やかな1日目とは一転、激しい戦いとなりました。

なお、1日目と同様、この対局は幽玄の間にて溝上知親九段の解説付きで中継されました。
また、囲碁プレミアムでも生中継されました。



1図(実戦黒39)
封じ手は、本命視されていた黒△でした。
皆様、当たりましたか?

この時点では、白がややリードしているかと思っていました。
黒の攻め方が難しいように感じるからです。





2図(実戦黒59)
しかし、出来上がり図は黒が外回り、白が内側に籠る形になっています。
こうなってみると、逆に黒を持ちたい感じがします。
白に失着があったのか、元々の私の判断が間違っていたのか・・・難しくて分かりません。

さて、黒△と踏み込んで来られた場面が分岐点です。
ノータイムなら、とりあえず白Aと受けるぐらいかと考えます。





3図(実戦白60~白68)
ところが、実戦は白1、3で隅を譲り、白9まで!
目先の地は損しますが、左辺と中央の黒、そして白Aの切りと、様々な狙いを持っているのです。
碁盤を広く使った打ち方ですね。
昔の河野九段は、物凄く地を重視する碁でしたが、最近はこういう打ち方が増えて来ました。
新しい世界に挑戦しているのでしょう。





4図(実戦黒69~黒75)
黒1以下は、左右の黒を繋げる狙いです。
白6でAと繋げば、黒は6の所に曲がる予定でしょう。
白はそれを防ぎましたが、黒7が見えています。
形を崩す手筋で、白が困ったように見えました。





5図(変化図)
白1と押さえると黒2、4と打たれ、白の形が崩れます。
白5の守りが必要ですが、黒6と急所をハネられては白がいけません。





6図(実戦白76~白80)
実戦は、なんと黒2の突き抜きを許しました!
こうなっては白が良くないと見るのが、一般的な感覚でしょう。
しかし、白5が気付き難い好手で、意外にも周囲の石との連携を保っています。
河野九段の碁には、こういう粘っこい手がよく出て来ます。





7図(実戦黒81~白94)
白12までと外側を止め、白14の攻撃に回りました。
中央の黒と、△の傷を両方睨んでいます。
こうなってみると、形勢はまだまだ分かりません。





8図(実戦黒95~黒101)
井山棋聖も負けていません。
中央の黒は、取られたら即負けになる程の大きさですが、放置して黒1とこちらを守りました!
中は好きなようにしてくれと、いう開き直りです。

そして、白2ともう一手打たせてから黒3以下と、おもむろに動き出しました。
中の黒が死ぬ訳が無いという、強気の態度です。
両者の気合がぶつかり、難解な戦いに突入しました。





9図(実戦黒145)
黒△と打った場面です。
AとBが見合いで、右上の黒は生きています。
次に白C、黒D、白Eと中に地を作れば穏やかですが、黒Fに回られると、形勢は黒が少し良さそうです。





10図(実戦白146~白150)
そこで、白1以下は河野九段の勝負手です!
黒の眼を奪い、取りに行きました!





11図(実戦白158)
白△と打った場面です。
例えば黒Aと打つのは、白Bと打たれていけません。
黒が死んでもおかしくない、際どい状況になっていますが・・・。





12図(実戦黒159)
黒1の切りが鮮やかな手筋です!
恐らく、井山棋聖が前々から読んでいた手でしょう。





13図(実戦白160~白164)
白1を打たせる事で、黒2が先手になりました。
そして黒4と1眼を確保し、凌ぎ形です。
次に白Aと眼を取りに来れば、黒Bから反撃して白の包囲網が持ちません。
白5と撤退したのは止むを得ませんでした。

さて、そこで黒Aと打っていれば生きています。
形勢も相当細かいとはいえ、恐らく黒が良いでしょう。
しかし、この黒Aはただ1目作るだけの手で、白に対する響きが全くありません。
常に最強手を求める井山棋聖は、こういう手は打ちたくないのです。
ましてや100%勝てる碁ではないとなれば、頑張りたくなるのでしょう。





14図(実戦黒165~白166)
そこで、なんと実戦は眼を作らず、黒1と曲がりました!
この手は左下白にプレッシャーをかけながら、中央の黒も凌いでしまおうという、目一杯の手です。
白Aなら黒B、白C、黒D、白E、黒Fと進み、逆に下辺の白2子が危なくなります。
この時に黒1が役立つという事なのです。

黒1を見た瞬間は、流石井山棋聖と感動しました。
しかし次の瞬間、おかしな事に気付きました。
「あれ、白2と打たれたら大丈夫・・・?」
果たして、白2とやって来ました。
この瞬間、逆転です。

黒1は井山棋聖の大ポカでした。
恐らく、打った瞬間に気付いた事でしょう。





15図(変化図)
黒1には白2が上手い手です。
黒3を待って白4と眼を取れば、大石が死んでしまいます。
黒A、白B、黒Cと切っても、白Dで当たりになっていけません。

井山棋聖にとって白2のような手は、本来読む必要すらありません。
形を見れば瞬時に分かるのです。
しかし、ポカというのは手の難易度には関係ありません。
一瞬生じた思考の空白に忍び寄る、悪魔のような存在です。
圧倒的に強い井山棋聖も、やはり人間でした。





16図(実戦黒167~白178)
止むを得ず黒1から変化しましたが、白8と切られてはいけません。
井山棋聖、白12を見て投了しました。


形勢が大きく離れる瞬間が無い、大熱戦でしたね。
特に河野九段の粘り強い打ち回しが印象的でした。
最後はポカで決着したとはいえ、見所の多い1局だったと思います。
第2局以降も、名勝負を見せてくれる事でしょう。

第2局は1月22日(日)、23日(月)に熊本県菊池市「笹乃家」で行われます。
お楽しみに!