白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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石の価値

2016年09月17日 21時15分01秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は石の価値についてお話ししてみましょう。

将棋と違って碁で打つのは全て同じ石です。
しかし一つ一つの石の価値はそれぞれ大きく異なります。
それを意識していないと価値の低い石を助けてしまったり、大事な石を捨ててしまったりします。
幽玄の間で中継された小林覚九段(黒)と許家元四段の対局が良いお手本なので、皆様にご紹介しましょう。



白△と打った場面です。
序盤の難解な戦いな結果は、お互いに4子を取り込む分かれになりました。
さらに黒にはこれから取られそうな石がありますね。
それを助けるかどうかは、石の価値で判断します。





黒1、3のように逃げてしまう方が多いですね。
しかしこの石は実は価値が低いのです。
石の価値の判断基準として取られた時に地が何目出来るかというのは二の次、大事なのは助ける事によって役割が生じるかどうかです。

ではこの場合どうかというと、周辺の白は非常に強いので黒から狙いがありません。
一方助ける事によって弱い石という大きな負債を抱えてしまいます。
この負債によって少なくとも左辺は黒地にならなくなってしまうでしょう。





という訳で捨てる事を考えるのですが、実戦の黒1とはうまい着点でした。
白Aなどと取ってくれれば、小さく捨てて左辺黒模様を広げられた事になります。
黒Bの大きなヨセも先手で打てるので、白地はさほど増えていません。





実戦は白が他に回りましたが、一転黒1、3と助けていきました。
石の価値は周囲の状況によって変わります。
今度は下辺白を封鎖して攻める形になるので、黒△は白を切り離す大事な石になっているのです。





白が生きている間に黒に強力な厚みが出来、隅も確定地になりました。
これなら助けた甲斐がありますね。





その後白△と打ち、黒4子を攻めて来た場面です。
黒は助けるべきでしょうか、捨てるべきでしょうか?





周囲の白が強いため、助けても狙いがありません。
一方白2から攻められる大きなマイナスがあります。
逃げている間に白8までとなると、大きな黒地が出来そうだった左辺が台無しになってしまいます。





という訳で実戦は4子を捨て、黒1、3と白△を飲み込みにいきました。
左辺の黒の方が遥かに大きいのですから、わざわざ価値の低い石を助ける必要はありません。
白も当然取らず、Aとハネ出して戦いになりました。





手順が進んで白△と打った場面です。
ここで黒△の価値をどう考えるかですが・・・





白2と取られると白が全部繋がってしまいます。
そして逆に黒△が危険になります。





という訳で実戦は黒1と助けました。
これによって黒△が強くなりますし、白△間の連絡の薄みを狙う事が出来ます。
黒4子は価値の高い石になっているのでした。





さらに手順が進み、ここで黒1と△の石を助けました。
先ほど助けた中央が取られてしまうのは勿体無いようですが・・・





黒1から左上の白全体を攻めるのが狙いでした。
こうなると黒△を助けておかなければいけなかったという事が分かりますね。





そして実は捨てた形の中央の黒にもまだ脈がありました。
当然計算に入っていたでしょう。
黒1から逃げ出して捕まえる事ができません。
これが決め手となり、ほどなく白投了となりました。


方針を決める際に石の価値を考える事は重要です。
いらない石を助けて延々攻められたり、要石を捨てて攻めのチャンスを逃してしまう方はしばしば見受けられますが、石の価値を正しく理解できていない事が原因です。
しっかり石の価値を判断できれば、捨てるべき石と助けるべき石を間違える事は無くなってくるでしょう。