白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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棋士紹介第1回・杉内寿子八段

2019年01月02日 23時59分59秒 | 棋士紹介
<本日の一言>
本日の箱根駅伝は、中央大学がいきなり目立っていてビックリしました。
それが長続きしなかったのは予想通りでしたが・・・。
ともあれ、明日も頑張って欲しいですね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は新コーナー「棋士紹介」の第1回となります。

棋士は皆、公式のプロフィールページを持っています。
日本棋院の棋士についてはこちらからご覧頂けます。
ただ、容姿や年齢、実績などのデータはありますが、個人の特徴などはあまり載っていません。
そこで、ここでは独断と偏見により、それぞれの棋士について語ってみたいと思います。

とは言え、私は全ての棋士を詳しく知っているわけではありません。
そこで、
棋譜をどれだけ見ているか?
特徴的な活動をしているか?
私と対局したり話したりしたことがあるか?
といったことなどを考慮しながら紹介していきたいと思います。
かなり偏りが出るかと思いますが、ご理解のほどよろしくお願いします。
基本的には若手を中心に紹介していきたいですね。

などと言いつつ、第1回は杉内寿子八段です。
第1回に誰を紹介するかは悩みどころでしたが、最年長の杉内八段ならどこからも文句が出ないだろうというわけです(笑)。
もっとも、今回は個人というより、大ベテラン代表という形で紹介したいと思います。

<杉内寿子八段(公式プロフィール)
昭和2年(1927年)3月6日生まれの91歳、現在断トツの最年長ですね。
ご主人の杉内雅男九段は97歳まで現役でしたが、その記録を抜けるとしたら杉内八段しかいないと思います。

将棋棋士と違い、囲碁棋士は強制的に引退させられるということがありません。
しかし、多くの棋士は自ら引退を申し出ます。
病気などの事情でどうしても続けることが難しくなるケースもありますが、一番の理由は対局への意欲を失っていくことではないでしょうか。
なにしろ、年齢を重ねれば成績はどうしても落ちていきますし、対局による収入も減っていきます。
そうなれば引退して囲碁普及や指導に専念するか、あるいは悠々自適の隠居生活に入りたくなる人が多いでしょう。

にもかかわらず、高齢で現役を続ける棋士には共通点があると思います。
それは囲碁をこよなく愛しているということです。
囲碁を打つことそのものが、人生において極めて大きなウエイトを占めているのでしょう。

そして、その中でも杉内夫妻は筋金入りでした。
80を過ぎても90を過ぎても勉強を続け、立派な棋譜を残しています。
たとえどんなに体が元気でも、真似できる人はなかなかいないでしょう。
ところで、大ベテランのイメージとして、碁が枯れていくイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
しかし、実際の傾向としては全く逆だと思います。
杉内夫妻はもちろん、他の大ベテランの多くも非常に若々しい打ち回しをしています。
むしろ、年齢を重ねるごとに碁が若返っていくのではないかと思うぐらいです。
意欲100%で対局を続けているとすれば、それも当然なのかもしれません。

ちなみに、年齢と共に成績が落ちると言いましたが、それは碁の質が悪くなることとイコールではありません(勉強しないとそうなるでしょうが・・・)

一番の原因は計算が遅くなることと、読み抜けが多くなることですね。
計算が遅くなると、形勢判断に基づいた着手選択ができなくなり、優勢の碁で相手にチャンスを与えるようなことにつながります。
また、寄せで間違えることも多くなります。
そして、読み抜けは単純に大きな失点につながりますね。
それがいつ出るか分からないのも怖いところです。

このような理由で、どうしても勝ちにくくなっていく面はあります。
しかし、年齢を重ねるごとに経験も増えていきます。
それを生かして、大ベテランになっても良い碁を打つことができるのです。

なんだか一般的な話ばかりになってしまいましたが、最後に杉内八段自身についてお話ししましょう。
杉内八段は、本当の意味で男性棋士と互角に戦えるようになった、初めての女流棋士かもしれません。
囲碁棋士の段位は男女共通ですが、その中で八段まで昇りました。
全盛期と思われる時期に、出産・育児で10年間休場したにも関わらずです。
この休場期間が無ければ既に九段になっていたでしょうが、雅男九段の活躍を支える道を選んだということでしょうね。
当時の雅男九段も打ち盛りでした。

現在、杉内八段の対局の大半は日本棋院ネット対局幽玄の間で中継されており、いつも楽しく観戦しています。
今年はどんな活躍を見せてくれるでしょうか?