10月11日まで上野の東京芸大の美術館で開催されているシャガール展を、9月23日(秋分の日)に観に出かけました。
今回のシャガール展は、『ロシア・アヴァンギャルドとの出会い~交錯する夢と前衛~』と銘打って、シャガールをロシア美術史上の系譜に位置づける企画です。
出展された作品は、パリのポンピドー・センターの収蔵品で、シャガールの初期から晩年までの絵画・素描・版画に加え、同時代のロシアの前衛芸術家(ロシア・アヴァンギャルド)たちの作品も展示されています。
シャガール展の図録・表紙絵は、1954年作の『日曜日』
シャガール…この芸術家は、日本人に好まれる人気画家と言えます。
小さな子どもが、自分の描きたいものを時間も空間も制約を受けずに楽しく描いた絵と、シャガールの夢の世界を描いたような絵に、共通したものを感じるからかも知れません。
私が今まで感じてきたシャガールの印象を端的に言えば、その色彩の美しさ・幻想的に描かれた構図、そして夢のような遠近法の倒置に特徴があると思っていました。
しかし、シャガール自身と彼の絵の底流に流れるロシアの大地とロシアのアヴァンギャルドとの交流を、今回のシャガール展で感じ取ることができた点で、貴重な美術鑑賞ができました。
ロシアのアバンギャルド・ナターリヤ・ゴンチャローワ(1911年)
シャガールは、1887年現ベラルーシ共和国のヴィテブスクで、ユダヤ人の息子として生まれています。
図録巻末の年譜を見ると、この同じ年、デュシャンとル・コルビュジェが生まれています。
今回のタイトルの文脈は、この生誕の地の人々や家々の風景や家畜たちをシャガールの原風景として捉え、ロシアのアバンギャルドの人たちからの影響がシャガールの創作活動の源流となって晩年まで影響を与えたということを重視して、ロシアの作家の中にシャガールを位置づける試みです。
シャガールは、ミハイル・ラリオーノフ、ナターリヤ・ゴンチャローワなどロシアの前衛作家(ロシア・アヴァンギャルド)の影響を受けつつ、年代を追って作品を観ていくと、明らかにファン・ゴッホ(印象派)、ゴーギャン((ポスト)印象派)、セザンヌ((ポスト)印象派)、マティス(フォービズム)、キュービズム(ピカソ・ブラック)などの影響を受けていることが分かります。
この時代のさまざまな芸術の潮流に影響されながらも、シャガールがロシアのバナキュラーなアイデンティティを失わずに、彼独自の絵画が形成されていく軌跡を、この企画展で垣間見ることができました。
立体派の風景(1918~1919年)
シャガールのパリ時代初期の大作「ロシアとロバとその他のものに」は、彼にとってもエポックといってよい作品ではなかったかと思います。
その絵は、ロシアのバナキュラーな雰囲気を持ち、そして独特の構図や色使いなどが、彼のその後の絵の展開を暗示させるようです。
ロシアとロバとその他のものに(1911年)
1940年前後から、私たちがシャガールに抱く雰囲気を持った作品群を、数多く製作しているように思います。
1944年、最愛の妻ベラが亡命先のアメリカで急逝し、その悲しみの中、1945年に1933年に描いた「サーカスの人々」を二つに分割し、左半分を描き直した作品が下の「彼女を巡って」です。
左に顔が反転して描かれている人物はシャガール本人で、右にベラが涙を流す姿で描かれています。
そして、中央にはヴィテブスクの町並みを映し出した水晶球が描かれ、シャガールとベラの望郷の念がひしひしと伝わってきます。
彼女を巡って(1945年)
1933年に描かれた『サーカスの人々』の左半分を元に『彼女を巡って』は描かれた
「家族の顕現」もかつて描かれた作品を、かなり手直しをして完成されています。
左に画家自身を描き、その背後に追憶の家族や最愛のベラを描き、その足元には月夜の故郷ヴィテブスクの町並みが描かれています。
絵の中に、時空を越えて、彼の愛する対象を彼の周囲にちりばめた作品と言えます。
家族の顕現(1935~1947年)…シャガールはかつて描いた絵を、何年も後まで手を加え、時には異なる作品としている
1966年から1967年、ニューヨークにあるリンカーン・センターのメトロポリタン歌劇場の演目であるモーツアルトの『魔笛』の装飾と衣装などの舞台芸術をシャガールが担当しました。
今回、その時にシャガールがデッサンした素描が展示されていて、タブローとは異なる活き活きとした作品として、目を楽しませてくれます。
シャガールが担当した歌劇モーツアルトの『魔笛』の素描
二十数年前、金鈴画廊の岡田さんから購入したシャガールのリトグラフ「魔笛Ⅰ」を、私は自宅の廊下に飾っています。
エディションとサインが入ったリトグラフで、このシャガールの版画を目にしながら生活しているので、シャガールは私にとって身近に感じる作家の一人です。
自宅に飾られているシャガールのリトグラフ『魔笛Ⅰ』
シャガールのサイン
シャガールのリトグラフには、エディションやサインが入っていない挿画やポスターが出回っています。
それらはかなり部数を刷っているので、購入する場合は注意が必要です。
今回のシャガール展で実際にその作品を間近に観て、シャガールの魅力はまずその色使い、その彩色のすばらしさであることが再確認できました。
反対色を対比させる大胆な色使いと、単純化された簡潔な構図や遠近法の倒置が、シャガールの絵の特徴といえます。
またシャガールの絵には、シャガール本人や親しい人たちが登場し、重層的で神秘的な空間が絵の中に広がっているように私は感じます。
後世に残り、且つ芸術史上に影響を与えた芸術家に共通する、一目見てその作家と判るアイデンティティが、シャガールの絵にはあります。
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今回のシャガール展は、『ロシア・アヴァンギャルドとの出会い~交錯する夢と前衛~』と銘打って、シャガールをロシア美術史上の系譜に位置づける企画です。
出展された作品は、パリのポンピドー・センターの収蔵品で、シャガールの初期から晩年までの絵画・素描・版画に加え、同時代のロシアの前衛芸術家(ロシア・アヴァンギャルド)たちの作品も展示されています。
シャガール展の図録・表紙絵は、1954年作の『日曜日』
シャガール…この芸術家は、日本人に好まれる人気画家と言えます。
小さな子どもが、自分の描きたいものを時間も空間も制約を受けずに楽しく描いた絵と、シャガールの夢の世界を描いたような絵に、共通したものを感じるからかも知れません。
私が今まで感じてきたシャガールの印象を端的に言えば、その色彩の美しさ・幻想的に描かれた構図、そして夢のような遠近法の倒置に特徴があると思っていました。
しかし、シャガール自身と彼の絵の底流に流れるロシアの大地とロシアのアヴァンギャルドとの交流を、今回のシャガール展で感じ取ることができた点で、貴重な美術鑑賞ができました。
ロシアのアバンギャルド・ナターリヤ・ゴンチャローワ(1911年)
シャガールは、1887年現ベラルーシ共和国のヴィテブスクで、ユダヤ人の息子として生まれています。
図録巻末の年譜を見ると、この同じ年、デュシャンとル・コルビュジェが生まれています。
今回のタイトルの文脈は、この生誕の地の人々や家々の風景や家畜たちをシャガールの原風景として捉え、ロシアのアバンギャルドの人たちからの影響がシャガールの創作活動の源流となって晩年まで影響を与えたということを重視して、ロシアの作家の中にシャガールを位置づける試みです。
シャガールは、ミハイル・ラリオーノフ、ナターリヤ・ゴンチャローワなどロシアの前衛作家(ロシア・アヴァンギャルド)の影響を受けつつ、年代を追って作品を観ていくと、明らかにファン・ゴッホ(印象派)、ゴーギャン((ポスト)印象派)、セザンヌ((ポスト)印象派)、マティス(フォービズム)、キュービズム(ピカソ・ブラック)などの影響を受けていることが分かります。
この時代のさまざまな芸術の潮流に影響されながらも、シャガールがロシアのバナキュラーなアイデンティティを失わずに、彼独自の絵画が形成されていく軌跡を、この企画展で垣間見ることができました。
立体派の風景(1918~1919年)
シャガールのパリ時代初期の大作「ロシアとロバとその他のものに」は、彼にとってもエポックといってよい作品ではなかったかと思います。
その絵は、ロシアのバナキュラーな雰囲気を持ち、そして独特の構図や色使いなどが、彼のその後の絵の展開を暗示させるようです。
ロシアとロバとその他のものに(1911年)
1940年前後から、私たちがシャガールに抱く雰囲気を持った作品群を、数多く製作しているように思います。
1944年、最愛の妻ベラが亡命先のアメリカで急逝し、その悲しみの中、1945年に1933年に描いた「サーカスの人々」を二つに分割し、左半分を描き直した作品が下の「彼女を巡って」です。
左に顔が反転して描かれている人物はシャガール本人で、右にベラが涙を流す姿で描かれています。
そして、中央にはヴィテブスクの町並みを映し出した水晶球が描かれ、シャガールとベラの望郷の念がひしひしと伝わってきます。
彼女を巡って(1945年)
1933年に描かれた『サーカスの人々』の左半分を元に『彼女を巡って』は描かれた
「家族の顕現」もかつて描かれた作品を、かなり手直しをして完成されています。
左に画家自身を描き、その背後に追憶の家族や最愛のベラを描き、その足元には月夜の故郷ヴィテブスクの町並みが描かれています。
絵の中に、時空を越えて、彼の愛する対象を彼の周囲にちりばめた作品と言えます。
家族の顕現(1935~1947年)…シャガールはかつて描いた絵を、何年も後まで手を加え、時には異なる作品としている
1966年から1967年、ニューヨークにあるリンカーン・センターのメトロポリタン歌劇場の演目であるモーツアルトの『魔笛』の装飾と衣装などの舞台芸術をシャガールが担当しました。
今回、その時にシャガールがデッサンした素描が展示されていて、タブローとは異なる活き活きとした作品として、目を楽しませてくれます。
シャガールが担当した歌劇モーツアルトの『魔笛』の素描
二十数年前、金鈴画廊の岡田さんから購入したシャガールのリトグラフ「魔笛Ⅰ」を、私は自宅の廊下に飾っています。
エディションとサインが入ったリトグラフで、このシャガールの版画を目にしながら生活しているので、シャガールは私にとって身近に感じる作家の一人です。
自宅に飾られているシャガールのリトグラフ『魔笛Ⅰ』
シャガールのサイン
シャガールのリトグラフには、エディションやサインが入っていない挿画やポスターが出回っています。
それらはかなり部数を刷っているので、購入する場合は注意が必要です。
今回のシャガール展で実際にその作品を間近に観て、シャガールの魅力はまずその色使い、その彩色のすばらしさであることが再確認できました。
反対色を対比させる大胆な色使いと、単純化された簡潔な構図や遠近法の倒置が、シャガールの絵の特徴といえます。
またシャガールの絵には、シャガール本人や親しい人たちが登場し、重層的で神秘的な空間が絵の中に広がっているように私は感じます。
後世に残り、且つ芸術史上に影響を与えた芸術家に共通する、一目見てその作家と判るアイデンティティが、シャガールの絵にはあります。
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最も身近な音楽、そして絵画や焼き物などの芸術に接すると、その時々の心持ちによって、様々な心情が沸き上がってきます。
上等の芸術に接することは、人生をより深く、意義深いものにするのに役立ちますね。
独特のライン と 色彩 すごいです。
こないだ シャガール展へ 行きました。
天井壁画~舞台衣装~ 映画 舞台 そんな歴史風景 なんとなくダリをモネの壁画を 思い出しました
こないだピカソの16歳のころの作品を見て びっくり
シャガールの若きころの作品を見たいなぁ
絵画同好会(名前検討中