「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの現代陶芸入門講座(8)…鈴木蔵の志野ぐい呑み

2008年03月31日 | 陶芸
今回の志野のぐい呑みは、鈴木蔵の作品です。



鈴木蔵の志野ぐい呑み


蔵の作品の中では、ちょっと小振りでおとなしい作品ですが、発色も良く、ぐい飲みの内側の底の釉の下に、鈴木蔵のぐい飲みでは珍しく、鬼板(おにいた)で書いた「香」という文字が浮き上がっています。

鈴木蔵(おさむ)、鈴木治(おさむ)と同姓・同名(訓読みが同じ)なので、一般的に陶芸ファンは、鈴木蔵を「すずきくらさん」、鈴木治を「すずきはるさん」と呼んでいます。

皆さん知っての通り、鈴木治は「走泥社」の創立メンバーで、八木一夫とともに前衛的な陶芸運動の中心的な存在の陶芸家です。



鈴木蔵箱書き この人の箱は板目を使った立派なものです


鈴木蔵は、1934年生まれで、六十才そこそこで、数多くの優秀な陶芸家が手掛けている「志野」で、人間国宝になった陶芸家です。

「志野」の初代人間国宝は、現代に桃山時代の志野焼を復興させた巨匠荒川豊蔵です。荒川豊蔵の作品は、いつかこのブログで紹介したいと思います。

鈴木蔵は、若くして数々の陶芸展で受賞を重ね、志野の作品において、確かな腕前を評価され続けました。

私は、この作家が、多治見工業高校窯業科を卒業後、釉薬や土の研究をしていた父が勤める、丸幸陶苑試験室に入社したことが、この作家が二十代から頭角を現したことと、密接に関係すると思っています。

また彼は、陶器の焼成に一貫して「ガス窯」を使用していますが、丸幸陶苑試験室で蓄積したデータを、確実に焼き物の制作に活用するためだろうと思います。

釉薬および焼成温度等、豊富なデータをもとに、緻密な作陶を行っていますが、焼き物の目利きであれば、鈴木蔵の作品を見れば、その確かな力量を感じ取ることができることでしょう。





彼の作った湯飲みも私は持っていますが、志野の焼き物としては、限界に近い薄手の素地の作品です。

その湯飲みは、その上に掛けられた長石釉を、波紋状の文様に掻き落としています。

その作品を持ったときに感じる作家の力量は、清水卯一の驚くほど薄手の蓬莱鉄耀茶碗を持ったときに感じるものに匹敵します。

彼は、1982年には日本陶磁協会金賞、1987年には芸術選奨文部大臣賞を獲得し、1994年重要無形文化財「志野」保持者に認定されました。

彼の確かな力量と、豊富なデータに基づいた作陶は、優等生的作品を多く生み出すことは可能でしょう。

しかし、もう一つ突き抜けたもの、そうした作品を円熟期に至ったこの作家に求めたいと、私は感じるのですが。





ブログでは、「志野」の作品は、初めてなので、志野について簡単にまとめておきます。

志野焼は、室町時代の茶人・志野宗心が美濃の陶工に命じて作らせたのが始まりとされています。

千利休(1522~1591)によって茶道が確立された安土桃山時代に、我国で初めて文様が施された白釉陶器として、志野焼の茶碗は、注目を集めました。

しかしその後、古田織部(1544~1616)が茶道に影響を与えていく時期に、緑釉を意匠の基調にした自由奔放な織部焼が生産されると、志野は急速に衰退してしまいました。

現代に至って、それまで瀬戸で焼かれていたと思われていた志野焼が、岐阜県の美濃地方で焼かれていたことを荒川豊蔵が発見し、桃山志野の復興に努め、再び志野焼が現代に蘇りました。

志野焼は、耐火温度が高く、焼き締りが少ない五斗蒔粘土や、もぐさ土という鉄分の少ないやや紫色やピンク色がかった白土を使います。

その素地に、志野釉と呼ばれる長石を砕いて精製した白釉を厚めにかけて焼きます。

釉肌には肌理(きめ)の細かい貫入や、柚肌と呼ばれる小さな孔が多くあり、釉のかかりの少ない釉際や口縁には、緋色の火色と呼ばれる赤みのある景色ができます。





また、志野の最大の特徴は、絵付けがされたと言うことです。これは日本陶器史上画期的なことでした。

たっぷり厚く掛けられた長石釉の白さ、柚子肌の中から浮き上がって見える下絵が、志野の最大の魅力とされています。

志野には、他に絵のない無地志野、鬼板(自然の酸化鉄)と言われる物を水に溶かし、それを素地に化粧がけし長石釉をかけた鼠志野があります。

鼠志野にも無地鼠志野と、化粧がけの後へらで文様を彫り、長石釉をかけることによって、鼠色の素地に白色の象嵌を施したように、白い文様を浮きだたせたものがあります。

そして鬼板の鉄分含有分が少なかったり、化粧がけが薄かったり、その他窯の調子で赤く発色したものは、赤志野と呼ばれています。





最後に「志野」の作家として、記憶すべき人たちを物故も含め列挙しましょう。

志野中興の祖とでも言うべき荒川豊蔵。

荒川豊蔵に師事しその影響を強く受けた作風の加藤 孝造。

鼠志野を得意とし、琳派の影響を受けた装飾的な作風の若尾利貞。

その他、林 正太郎・玉置保夫・安藤日出武・堀一郎等の作家がいます。

堀一郎は、陶芸ブログに最初に登場しました。林 正太郎や玉置保夫の志野の湯飲みは、日常使っていて、とても魅力的です。

また、かの有名な紫匂(むらさきにおい)志野の加藤唐九郎や、北大路魯山人の志野の器やぐい呑みなどは、コレクター垂涎の的と言って良いでしょう。



志野焼について、関連した私のブログは、以下のものがあります。
参考に、ご覧頂ければ幸です。


マッキーの現代陶芸入門講座(23)…堀一郎の志野焼

マッキーの現代陶芸入門講座(22)…鈴木蔵・加藤孝造・若尾利貞の志野焼』

マッキーの現代陶芸入門講座(20)…林正太郎・玉置保夫・安藤日出武の志野焼

マッキーの現代陶芸入門講座(14)…荒川 豊蔵のぐい呑み




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