昨日は、春の陽気でした。今日は、春雨に煙っている東京です。
街路樹のコブシの花。(3/13)
以前のブログではつぼみだった、ジンチョウゲの花。(3/13)
まず、この湯飲みをよくご覧下さい。
しばらく、わたしの拙文を読んで頂く前に、この作品を見つめてください。
本当は、この湯飲みにお茶を入れて、この作品とともに味わって頂けないのが残念です。
全体に荒削りに作られた湯飲みです。この作品の良さが分かるでしょうか。
磁器物の器と異なり、ざらざらした触感と、荒い土の粒子の上に施された彩陶や象眼は、とても土着的な印象を受けます。
土物を強調した荒々しい高台と、湯飲みの表面の幾何学的に彩色された文様とが織りなすハーモニーは、絶妙としか言いようがありません。
とても愛着の湧く、素晴らしい作品です。
(湯飲みの高台と、箱書き 1988年 銀座黒田陶苑にて購入)
この作品の作家名は、加守田章二です。陶芸に興味のある方には、大変知られている作家です。
この天才的な腕の持ち主が、手捻りで形成したこの湯飲みは、幾何学紋様であるにも関わらず、土の中から忽然と現れたような印象があります。
板谷波山の葆光彩磁において、いわば陶芸家が制作した、近代陶芸の磁器物の技術的頂点を見ることができます。
また、伝統的な伊万里、鍋島、九谷の磁器物についても、伝統の上に新しい技法を駆使したその地場の代表的作家の作品にも、高度な技術力を感じます。
しかし、日本独特の土物の陶器は、作り手の技術だけではなく、その人の精神性や焼成段階の偶然性が累乗され、より複雑な焼き物となっているように思います。
土物の焼き物は、技術を越えたなにか…作家の独創性や偶然性や他への依存性などが、むしろ現代美術に一脈通ずる側面を持っているようにも考えられます。
こうした土物の焼き物に、象眼し彩色するこの作家は、日本の伝統的な陶芸から一つ飛躍し、現代陶芸に大きなインパクトを与えました。
加守田章二によって、日本の現代陶芸、すなわち世界の現代陶芸が、より大きな広がりを獲得したと言っても、過言ではないと思います。
以前、加守田章二の花器等もコレクションしましたが、価格も高いのですが偽造も多いので、しっかりとした販売店で購入することをお薦めします。
(1989年・京王百貨店 遠野で制作された作品)
陶器の「用の美」を越えて、次々と新しい展開を見せたこの作家の作品は、曲線刻文や彩陶や象眼に見られる技法に目が奪われがちです。
しかし、私は、加守田を技法の作家と言うよりは、土の可能性を広げた芸術家、もしくは土の持つ生命力を引き出した陶芸家として、記憶にとどめたいと思います。
遠野で、土に向けたこの作家の情熱が、その作品から、オーラのように沸き立ってくるように、私には感じられるからです。
加守田は、遠野において修行僧のような作陶を続けましたが、49才の若さで1983年に亡くなりました。
常に鬼才加守田は、独創的な作陶の新展開を、多くの熱狂的な陶芸ファンに期待されました。
そのことも、彼の命を短くした要因ではないかと、私は感じています。
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3月、落葉樹の小道を、日だまりハイクする楽しさを知っていますか。
3月笹尾根の登山道(2007年)
私のような汗かきは、この時期の山登りで、爽快な気分に浸れます。
落葉樹の林は、暖かい春の日差しに、満たされています。
落ち葉の上に寝ころんでみると、ついウトウトしてしまいます。
春の笹尾根 檜の登山道(2007年)
今日の私の焼物コレクションは、第十一代三輪休雪の萩焼のぐい呑みです。
三輪休雪の萩焼のぐい呑み
休雪という名跡は、三輪窯の当主が襲名してきた由緒ある名前です。第十一代三輪休雪は1910年生まれで、現在は隠居して「壽雪」と名乗っています。
箱書き
萩焼は、豊臣秀吉の朝鮮出兵の折、朝鮮から陶工を連れ帰り、その人達が現在の山口県の萩に開窯したのが始まりです。この秀吉の朝鮮出兵で、西国の大名を中心に、多くの朝鮮の陶工を日本に連れ帰りました。その人達が、萩・高取・唐津・薩摩などで焼き物を生産し、現在の焼物産地が発生しました。
日本の陶芸の礎を築いた人たちは、多くは朝鮮から連れてこられた人たちだったわけです。
萩焼の名門窯元では、「俺の所は何代目、おまえの所は何代目」と言った家系や伝統のみを誇っていたように思います。そのような話が、まことしやかに私の耳にも伝わってきました。
そうした中で、三輪窯は伝統の上に、作家として新しい工夫を積み上げている家系ではないかと思います。
先代の休雪は、萩の白釉である藁灰釉に工夫を凝らした「休雪白」を作り出した人で、隠居して休和と名乗りました。人間国宝の三輪休和です。
第十一代休雪も、後に人間国宝となり、現在に至っています。十一代休雪というと、鬼萩割高台の茶碗を思い浮かべる方が多いと思います。どんなに荒々しくとも、その茶碗には格調が伴っていて、萩焼の代表選手と言って良いと思います。
このぐい呑みも、落ち着きがあり、伝統ある品格を漂わせ、酒を注いで手に持つと、たまらない魅力を感じます。
地場の伝統工芸の継承者として、人間国宝の指定があるわけですが、萩焼において、三輪窯が続けて指定されているのは、備前など他の地域とは異なっていて、興味をそそります。
萩焼というと、物故を含めて他に思い浮かべる作家として、三輪龍作、三輪和彦、坂田泥華、坂倉新兵衛、坂高麗左衛門、田原陶兵衛、吉賀大眉、吉賀 將夫、大和保男、新庄貞嗣、波多野善蔵、岡田裕、兼田昌尚などが挙げられます。
この中では、三輪龍作、波多野善蔵と兼田昌尚の作品が私は好きです。波多野善蔵と兼田昌尚の湯飲みを日常使っていますが、萩焼独特の焼のあまさもあり、使い込むほどに味が出て愛着も湧いてきます。
現在は、三輪窯を継がないのではないかと思われていた、三輪家の異端児・三輪龍作が第十二代を襲名しています。現代陶芸の作家の中で、その個性が光り輝いていた龍作ですが、伝統ある窯元の当主となり、どういった作風になっていくのか、今後を注目したいと思います。
萩焼については、以下のブログで紹介していますので、参考にしてください。
マッキーの現代陶芸入門講座(18)…坂田泥華と吉賀大眉のぐい呑みと湯飲み
マッキーの現代陶芸入門講座(24)…坂倉新兵衛と田原陶兵衛と坂高麗左衛門の萩焼
マッキーの現代陶芸入門講座(29)…萩焼・坂田泥華さん死去
マッキーの現代陶芸入門講座(30)…萩焼・波多野善蔵と兼田昌尚のぐい呑と湯呑
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オオバコのロゼット葉が、春の日に照らされていました
ローラーで踏みつけられたように、ぴったりと地面に着いていたロゼットも、少しずつ地面を離れ、春の太陽の暖かさを感じ始めているようでした。
今回の、私のコレクションは、加藤卓男の赤絵湯飲みです。

加藤卓男の赤絵湯飲み
加藤卓男は、1995年に「三彩」の技術保持者として、重要無形文化財保持者(人間国宝)に指定され、2005年亡くなられた陶芸家です。
彼は、陶芸家の中でも理論家肌の人でした。正倉院三彩の復元にとどまらず、ペルシャ陶器の研究を通して、技術的に途絶えていた「ラスター彩」の再現に成功しました。
彼の作品では、ラスター彩の器が最も評価が高く、青釉と三彩についても、技術的に優れた作品を残しています。
いつか、彼のラスターの作品や青釉の作品を、紹介したいと思います。
ところで彼は、本来は日展系の作家でした。多少美術に関心のある方はご存じでしょうが、日展系の作家は、芸術院会員→文化功労者→文化勲章と「進級」していきます。
日本工芸会系の作家は、人間国宝→まれに文化勲章と進みます。したがって、加藤卓男は、日展から日本工芸会に移籍し、人間国宝になりました。
様々な分野に残る、こんな変な日本独特の因習は、芸術の分野こそまず率先して、よしにしたらどうかと思いますが、みなさんの考えはどうでしょうか。
それらのしがらみを嫌って、若い作家には、そうした団体に所属しないで、活躍している人たちも多く出てきました。
今回の作品が、赤絵の湯飲みですので、「赤絵」について少し整理しておきます。
赤絵は、赤色を主調とする多彩の上絵付のことであり、釉薬の上に、赤・緑・青などの透明ガラス質の上絵具で文様を彩色した焼物です。
赤以外は、透明なガラス状の上絵具で、少し盛り上げて彩色されています。赤色だけは、薄く不透明な上絵具を使用して、大胆に文様が描かれています。
加藤卓男のこの湯飲みは、白磁の生地に、平行脈の草文を、赤を主体に、緑と薄いブルーを使って勢いよく描いたものです。
また、白磁ではなく、土物の生地に、白泥の釉薬(一般的には、黄色味がかっている)を施し、その上に赤絵を描いた作品も見かけます。
この様な土物の赤絵には、藤本能道の茶碗や湯飲みなどがあり、その達者な筆使いが魅力でした。
赤絵の良さは、この作品に表れているように、大胆で勢いのある簡素な文様が、食器等にマッチしていることでしょう。 赤絵の食器は、年とともに摩耗して、薄くなってきますが、それも味わいの一つです。
私は、実は以前この赤絵の食器が好きではありませんでした。しかし、ある時、食卓に置かれた赤絵の皿が、その場の雰囲気を大変艶やかに、明るくすることを発見し、赤絵の食器が好きになりました。
赤絵の食器ばかりですと、落ち着かない印象を受けますが、食器の一部にちょっと赤絵の器を使うと、和んだ雰囲気を演出することができるでしょう。
最近の赤絵の食器は、伝統の文様を離れ、現代的にアレンジした簡素な文様を使ったり、ワンポイントで赤絵を使用したりして、若者にも親しまれるような作品が多いように感じます。
日常使う食器に、赤絵の食器を取り入れて、和んだ食卓を演出してみては如何でしょうか。

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