それら全てを話した。
「コイツが・・・昌成ちゃんの魂を奪った・・・コイツが!!」
悠希の手からソウルドが伸びた。満生はソウルドを使えないという話であったがこれから自分がどう言う事になるのかは分かるようである。
「俺は、和良に言われてやっただけであって、本気でお前達を殺そうだなんて思っちゃいなかった!本当だよ!信じてくれよ!」
満生は周囲を見回して言うが誰も何も言わなかった。悠希は近付き、満生の上にやって来た。ソウルドは構えたままであった。
「話が違う!約束しただろうが!全てを話せば殺さずに置くってよ!」
「そんな約束はしていない。動けないお前が勝手に喋っただけだ」
「だからって普通は言わなくても分かるだろ!それにまともな常識人としてこんな身動きも取れない人間を殺すなんておかしいだろ!なぁ?お前達に良心はねぇのかよ!」
ソウルドがゆっくりと満生の首元に持っていく。満生の息は荒くなった。一道達は正義の味方ではない。マンガなどでは主人公が止めるのかもしれないが、みんなそんな気にはならなかった。この満生の所為で全員傷つけられたのだから・・・だから拘束されてどうしようもない男が殺されそうになっても誰も止めようとしなかった。一道も、和子も、剛も、港も、元気もただ悠希がやろうとしている事を見守っているだけであった。
「コイツのせいで・・・コイツの・・・」
ゆっくりと進む悠希のソウルドが止まり、ゆっくりと消失し、そして、崩れ去るように膝を着いた。
「で・・・出来な・・・い。出来ないよぉ・・・こいつが・・・こいつが昌成ちゃんを殺したのに、殺したのに・・・殺せないよぉ・・・」
悠希は手で顔を覆った。全身がガタガタと震えていた。
「私には殺せないよぉぉぉ!!ゴメンねぇ!昌成ちゃん。誰か、誰か殺してよぉぉ~。仇を取ってよぉぉ~。あああああぁぁぁぁ!!」
悠希は泣き崩れた。和子が無言で悠希の肩を優しく擦ってやった。
「あ・・・あぁ・・・あ・・・」
一方の殺されかけた満生は力が抜けたようで涎や涙が出ていて、顔はびっしょりと汗だくになっていた。他の者達はそんな一部始終を黙ってみているだけであった。悠希が落ち着くまで10分ぐらいの時間は経った。
「さてと・・・これから、どうするよ・・・」
「そんなの決まっています。その和良って人の自宅に皆で乗り込むんです!」
住所も聞いたので今から乗り込む事も可能である。
「早まるなよ。笹本君。コイツは俺達をおびき出そうとしたんだぜ。迂闊にそいつの話に乗ったらまんまと罠にはめられたって事も考えられる」
港が慎重な姿勢を見せた。以前、一道に突っかかるばかりであったが今は異なるようだ。
「港が言うとおり、乗り込むのは少し様子を見た方がいい。俺達が行かなければ、その和良って奴も焦るだろうしな」
「それって何時なんです?」
全員が話し合っていた。ただ一道はまだ心ここにあらずという状態であったが・・・
亮は大の字に縛られたまま放置されていた。
『俺はこのまま死ぬのかよ・・・冗談じゃねぇ・・・こんな所で・・・こんな体のままで・・・』
何か彼らに対して反撃の一つも加えたかったが青くなるかもしれないぐらいにきつく縛れた手足は固定されており、動きのしようがなかった。壁が薄いアパートのようだから大声を上げて隣の部屋や近所に知らせるなんて事が出来るだろうが、布を猿轡代わりに噛まされている為に大声も出せない。完全に彼の自由は殺されていた。
『チャンスはあるはずだ。次、何か聞かれたとき、この忌々しい布を緩めるからその瞬間だけ騒ぐ。この体がどうなろうと知った事か!このまま誰かも分からん奴の体で死ぬなんて俺には耐えられねぇ。変えようとしなければ何も変わらない。奴らの思い通りに事が運ぶ。それだけは・・・それだけ・・・』
首だけ自由は聞いたから、元気達が相談している中、にらみつけていた。狭いアパートで、彼らの声さえも聞こえそうな所だが、明確に声が聞こえるわけではない。
30分ぐらいしただろうか?体が自由ではない彼にとっては数時間、いや半日ぐらいの長さに感じられた。痒い所があってもかけないというぐらいの状態だからそれぐらい長く感じても不思議ではない。
ようやく、話し合いが終わり、こちらに向かってきた。全員が一斉にこちらに向かってきた。
『ようし・・・チャンスは一度だけだ・・・この次は多分ない・・・』
鼻の穴を大きく広げて息を吸い込んだ。
「ほどいてやるよ」
「!?」
何と、彼らは男の手足を縛っているビニールテープやガムテープをはがし始めたのだ。あまりにも意外な事に元気達に反撃する事を忘れていた。最後に、自分で猿轡を排除した。
「勝手に好きなところにいけ」
「行けだと?お前達、何を考えているんだ?」
言ってみて一旦、冷静になろうとして頭を整理する。元気達が何を狙っているのか・・・
「だから好きなところに行ってっていったでしょ?あなただって被害者だったんじゃないですか?訳も分からず戦いを強要されて、それに従っただけなんでしょ?」
確かに和子が言う事を満生は行っただけであった。だがこうもアッサリと逃がすのはおかしいと満生は思った。
『そうか!こいつらは自由にさせるなんて言っているが俺を泳がせるつもりか?それなら好都合じゃないか!こちらの思惑は外れたが、結果オーライ。良し!俺はまだ運に見放されちゃいなかった!』
満生は冷静さを装いながらも、内心、思惑通りに事が進んで喜んでいた。
「だが、今回限りだぜ。次、また奴らに従って俺達を襲うような事があればその時は、覚悟してもらうぞ。満生」
「勿論、分かっているとも・・・」
亮の体をした満生という男は立ち上がって、手足を回してみて調子を確認する。さっきまできつく縛られていたのだから体がおかしくなるのは不思議ではない。
「じゃぁな・・・」
亮の体をした満生はそのまま帰っていった。何度か後ろを振り返りながら・・・
「さっきも言ったけど、何で逃がすの?利用してないじゃないの!!アイツが!アイツが!昌成君や亮って人を殺した張本人なんでしょ?だったらアイツを殺してしまったほうが!」
「汚れ役を人に任せるんじゃねぇよ」
元気が言い放った。斬れなかった悠希が言う資格はないだろう。
「お前だってアイツの目を見て斬れなかっただろうが・・・みんな同じさ」
重苦しい空気が漂う。元気に言われて暫く誰も言葉を口にする事が出来なかった。魂を扱うもの達に課せられた肉体と魂と関係。分かっているからと言ってそう簡単に割り切れるものではないのが普通の肉体を持つ人間である。
「彼らがやっている事は私達の想像を絶するんでしょうね。魂が抜けた人の体に別の人の魂を植え付けるなんて・・・」
魂が入れ替わるなんて事はアニメやマンガで両者が勢い良く衝突する事で簡単に行われる手法だ。が、今回の場合は少し異なる。入れ替わるのではない。空っぽの体に別の魂を入れるのだ。まるで、洗った皿の上に前とは別の料理を乗せるように・・・
「それだけの問題じゃねぇ・・・親しかった奴の体に別人の魂。しかも俺達を殺そうとした奴の魂を入れて俺達に差し向けてくるなんて普通の人間のやる事じゃねぇ・・・」
だが、それが最も効果的な作戦といえるだろう。別人が言う事と同一人物が言う事ならばどちらが信用できるかなどとは考えるにも値しないものだ。
「でも、元気さん。良くそれを見抜けましたね」
「大した事はないさ。アイツが二回舌打ちするなんて癖をしたからだよ」
「最初、亮さんを見たとき、誰だって言ったのは見抜いていたからですか?」
「いや、あれは・・・俺だって訳が分からなかった。意識して出た言葉じゃない。誰だって言った後で、コイツは正真正銘、亮じゃないかって思ったんだよ・・・すっげ~混乱した。説明は出来ないけどな・・・アイツを見た瞬間に口から言葉が勝手に出たんだよ」
「魂のおかげですか?亮って方と、あの人との違いが分かったと言う事で・・・」
港は冷静に聞く。自分は使えないものであるからこそ、その物を良く知りたいのだろう。
「多分、そうだと思うが・・・だけどそれが本当なら、いちどーや和子ちゃんや剛でも分かったはずだろ?一応。亮と一番接していたのは俺のはずだけどな。後、舌打ちの他にも、俺に確信に至らせたのはアイツの事を考えたらな・・・アイツが自分から俺達の前に姿を現すかってな・・・」
「言われてみれば・・・」
基本的に人嫌いであった亮が呼ばれもせずに元気達の前に現れるとは考えにくかった。後は喋り方や物腰などで元気なりに判断したのだろう。この者は亮ではないと・・・
「これからどうするんです?あいつら・・・次も来ると思いますよ。そのソウルフルなんて物を持って・・・壁も貫通するんでしょ?外から狙い撃ちされたら終わりですよ」
ソウルフル。満生が使っていた魂を銃弾としたライフルと言う事だ。射程は100mほどで、1発の銃弾が大きく、大人の拳ぐらいある。当然、連射など出来ず、1発ずつ銃弾を交換しなければならなかった。ソウルフルの性能と使用方法だけは分かったがただの実行役にしか過ぎない満生には内部の事や開発、製造までの経緯について一切、知らなかった。
「分かっているさ・・・にしてもあんなものを作ってどうするんだろうな」
「銃に代わる人殺しの道具になるとか?」
「日本では拳銃は禁止されているからな・・・」
3人が色々と話している中、悠希は非常に苛立っているようであった。
「そんな事を話し合っていても埒が明かないよ!あいつ等を全員、殺すしかないのよ!でないと解決なんて出来やしない!私達だっていつあいつ等に殺されるか分からないんだから!違うの?」
悠希に徹底して反対すると言う事はしなかった。苛立つ悠希があからさまに感情論を言ったがあながちそれが間違っているとも思えなかったからだ。本当ならば彼らもまた満生たちに対して悠希のようなストレートな反応をしていたかもしれないのだから・・・だからというのか、彼女は全員の感情を代弁していたようで彼らの怒りを抑えていたのかもしてない。
「相手側の全容がまるでつかめていない。全員というのは早計だ」
「そんなのん気な事を言っていたら私達、殺されるよ。いいの?私は嫌よ。迷っているうちに死んでいましたなんてさ」
「お前が言う殺すにしたってどうするつもりだ?無策のまま行ったら返り討ちになるのがオチだ。そんな事じゃ、昌成君に笑われるぞ」
「それは・・・」
「何かひっくり返すチャンスがあるはずだ。それまでは一人で行動を起こさない。いいな?全員の約束だ」
元気が言う言葉に、声を出してOKと言うものはいなかったが皆、静かに頷いていた。
「いちどーもいいな?」
「あ!ああ・・・はい」
相変わらず殆ど話を聞いて無さそうな様子であった。こんな一道では役に立たないだろう。近いうちに和良の所に行くという事が決まったが具体的な日程などは決まらず、話は平行線を辿り、家に帰っていくことになった。
「次、一人も欠ける事無くうちに集合できるんかな?」
そのように思う元気の思いは悲しい。
いつも後手後手に回る今の状態が嫌だった。相手に先手を取られればその分、こちらが被害を受ける可能性が高くなる。だが、そんな状態を打開させるような出来事がその日に起こったのだ。
その始まりは1本の電話があった。元気が受話器を取った。
「もしもし?どちら様ですか?」
最近は、驚くような事ばかりが続いているのでまた何かあったのかと思っていた。
「アンタは!!何故、電話なんかしてくる!」
その声を聞いて元気は激昂していた。暫くして冷静になって話を聞いていた。そして、元気はその日、いそいそと動き出した。相手が場所はどこがいいかと尋ねて来たので元気が指定した場所は駅近くにある公園であった。子供や親がいて周囲も見通しが利くような場所である。ここでは何もしようがないと思ったのだろう。
「急に会いたいというのはどうしてなんです?まさかまた、協力しろとでも言うんですか?亮をあんな風に送り込んできて・・・」
そこに現れたのは先日、こちらに協力しろと申し出た冴えないサラリーマン、田中 勇一郎であった。スーツケースほどあるようなバッグを引きずっている。
「違います。その逆です」
「は?逆?」
「あなた方に協力したいと思ったからこそ私はここに来たのです」
「一体、何の協力ですか?」
「我々の正体を知りたいのではないのですか?それを伝えに来たのです」
「!?」
とんでもない申し出だと思った。何かの罠ではないかと周囲を見回す。田中はこちらを信用してないだろうと言う事で場所の指定を元気自身に頼んだのだ。
「正体を伝えに来た?何故そんな事を・・・」
「彼らは異常です。他人の肉体に魂を宿らせて、あなた方に会わせるなどと・・・」
「彼らって誰です?」
「計画の参加者。このバッグの中にその人達のデータが入っています。あなた方もご存知の通り、間 要さんなどもね。それにあなた方のデータも・・・」
「話が全然見えてきません。計画って何なんです?」
「私は計画の末端のそのまた末端の人間ですから計画については何も知らされていませんので良く分かりません。ですが、彼らの行いは狂った事を考えてそれを実行しようとしているという事は確実です」
「狂った事?他に何か企んでいるんですか?」
「具体的には分かりません。ですが、あなた方の友人の体に別人の魂を植えつけて会わせて誘き出すなどと、あなた方を油断させ、こちらの術中にはめるには一番の方法だと言えますがそんな事をする人達が正気であるとは思えません。私はそんな人達のやる事に耐えられなくなったのです」
「それだけの理由で俺達に情報を渡そうと?」
「私は数年前に鬱病になりまして、その際に病院の方々に大変お世話になりました。もし誰からも処置されずにいたら私は今頃、天国でしょう。ですから、命の恩人と言っても過言ではありません。だからその恩を返す為に尽力してきました。彼らが言う無理難題もこなして来ました。これは悪いことではないかと疑いながらも、それがお世話になった方々の為ならばきっと何か正しい事のだろうと従ってきました。ですが、今回の石井さんの事を見て、さすがについていけなくなりました。私は今まで十分、働いただろうと思ったのです。恩はちゃんと返したのではないかと・・・もう自分の好きにしていいのではないかと思えた私は彼らを裏切ったのです」
石井 亮の件はかなり心を痛めているように見えた。だが、魂を入れ替えるような事をする連中である。裏切ったなどという言葉だけですぐに信用できる訳がない。疑いの眼差しを向け続けた。
「信じてくださいと言いたいのですが・・・そんな事を言えた立場ではありませんね。ただ、信じていただく材料はお持ちしました。こちらです」
カバンを開くとそれは雑然としまわれた紙の束であった。
「急いでいたので、めちゃくちゃですが・・・見てください」
元気は紙を見てみた。それは印刷されており、内容は事細かに仕切られており、非常に見やすくなっていた。田中 勇一郎。1953年生まれ。
「まるで履歴書のようですね」
率直に見た感想を言う。確かに学歴や職歴、資格、特技、好物などあり、確かにここまでは履歴書と似たようなものである。が、それからが違った。
『4人兄弟の末っ子で、出来のいい兄や姉に比べて見劣りする。その為、家族や世間から比較され、疎まれさえする。結婚し、女児をもうけた物のその性格や能力により見限られ、これと言った落ち度がなかったにも関わらずほぼ一方的に妻側から離婚される事となる。それでいて慰謝料や養育費は要らないという屈辱的な事もあった』
「こ・・・これはあなたの?」
「そうです。私の過去をまとめたものです。ソウルドの発動にはその人の過去が大きく関係しているそうですからね。我々、計画の参加者全員の過去の情報がここにあります」
しかし、ここまで来てこの田中と言う人物がまだ信用出来なかった。これ、全てが真実なのか、もしかして嘘で塗り固めたものではないのかと・・・
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと何か引っかかるんですよ。ちょっと・・・ん!?こ、これは!」
ペラペラと何枚もある紙を見ていると元気が固まった。
『福西 鉄夫?どことなく聞いたことがある名前・・・あ!ポチッ鉄!!』
そうである。ポチッ鉄の元々、人の名前であった。その人の情報も書かれている。そして、その詳細の欄の最後は・・・
『間 要のソウルドによって魂が抜かれてしまい、平達に引き取られ、最終的に肉体は、埋葬される』
「くっ!」
このように箇条書きで書かれると自分達が軽んじられていると思えて来て怒りがこみ上げてきた。
「あなた方はソウルドの情報提供者として認識されています」
「情報・・・だと?」
「ハイ。どのような行動を取るのか?考え方をするのか?ソウルドの発動条件などを知る上で、手掛かりになると思われています。ですから今まで、協力を求めてきたのです。ですがあなた方は応じなかった」
今まではそのような事で協力を求めてきたのか、何故それを隠す必要があったのか、今の元気達にそんな事は問題ではない。
「そんな事を断ったぐらいで俺達は魂を狙われて殺されたのかよ・・・」
彼らにとって自分達の存在はデータを調べるモルモットなのだろう。実際に生きている人間に対してそのように扱う奴らなど人間ではないと思えてきた。
悔しかった。何故そんな事でこちらは狙われるのか、そして、そんな事で魂を殺そうとしてきた奴らに対して怒りがこみ上げてきた。
「あなた方の多くの情報は羽端 慶さんから提供されています」
「やはり慶か・・・」
やはり慶は自分達にとって裏切り者でしかないのかと失望と怒りが芽生えてくる。だが、それと同時にこの男は何者なのか疑問に思えてきた。
「あなた方の過去によってソウルドの発動条件が見えて・・・」
「あなたはそんな事を俺達に教えてどうするんです?」
「あなた方に伝えたかったのです。私の少しの正義感がそうさせたのでしょう」
「いや、そうじゃなくてその所為で、あなたも狙われますよ」
「それは、さっきも申し上げたとおり承知の上です。私はね。産まれて、出来の悪い少年でしたから子供の頃は一家の恥さらしと疎まれ、成人して、成り行きで結婚してみれば甲斐性無しと家族に愛想をつかされ、仕事は仕事で無能な奴だと同僚や上司からも白い目で見られ、今まで、夢や目的もなくただ周りに流されて生きて来ただけの私です。自分の意思もなくやってきただけですから、何一つ実になる事はなかった。だからここで一つだけ、男として自分自身を通したかったのです。こんな事が理由なんて簡単すぎるかもしれませんが・・・」
自分でも分かっている事のようだ。だが、こんな所で赤の他人に等しい元気に言うべき事なのかと元気は驚いていた。
「あなたにとってそこまでするほどの重要な事なんですか?魂を失うかもしれませんよ?」
「私の名前、勇一郎。勇気が人一倍ある男になるようにと両親が付けてくれた名前です。ここに来て、勇気が持てそうと思えたのです。あなた方を知って何とか間違いを正させる・・・」
「ちょ!ちょっと待ってください!あなたは俺達にその計画潰させようとでも思っているんですか?」
「あ・・・」
勝手に話を進められているようだったので止める必要があると思ったのだ。そう言われて勇一郎はあっけに取られていた。
「すいませんが、この件は保留にさせてもらえませんか?俺だけで決める訳ではありませんし」
「!!そうでしたね。コレを教えればあなた達も戦うだろうと早合点していました。ただ、私はあなた方に知ってもらいたかった。様々な苦しみを我々から受けてきたあなた方には・・・これを知ってどうしたらいいかあなた方で決めてください。知りさえすれば対処する事も出来るでしょうからね」
「すいませんが俺はコレを見せられても完全にあなたを信じる事ができない。あなたが以前、出会った田中 勇一郎さんの魂であるという確証もありませんし・・・」
「私は正真正銘!?それもそうですね。完全に見落としていました」
「でも、少し話してみてあなたが田中さんって思えます」
「何故?」
「話し方、態度からです。結構特徴的でしたから」
「そうですか?」
ちょっと照れたような顔をし両手をつないで自分の手の甲を見つめていた。こういった細かい仕草は演技できないだろう。
「あなたはどうするつもりなのですか?俺達が戦うのを拒否した場合は?」
「さぁ?分かりません。どうするか考えていませんでしたから・・・そうですね・・・逃げ回って、ソウルドを使える同士を探すのかもしれません。それともソウルドを忘れ、ひっそりと暮らせる土地を探すのか・・・」
当ては外れてしまったがとても晴れ晴れとしたスッキリした顔をしていた。この情報を何としてもこちらに伝えたかったのだろう。その目的が達せられた今、とても満足そうである。
「答えを出すのは早いと思います。俺もこれを知ってどうするかまだ決めていません。まずはみんなに会ってみませんか?」
「え?」
「それでこれからどうするのか決める。市川の事もありますからあなたの事を全面的に信用できません。お互い信頼しあうにはお互いどうなるか分からんという賭けをしなければ・・・」
「そ、そうですね。もう少し賭けてみるのもいいのかもしれません。私は危ない事から逃げ続けてきましたから・・・」
そのまま2人は分かれた。
「コイツが・・・昌成ちゃんの魂を奪った・・・コイツが!!」
悠希の手からソウルドが伸びた。満生はソウルドを使えないという話であったがこれから自分がどう言う事になるのかは分かるようである。
「俺は、和良に言われてやっただけであって、本気でお前達を殺そうだなんて思っちゃいなかった!本当だよ!信じてくれよ!」
満生は周囲を見回して言うが誰も何も言わなかった。悠希は近付き、満生の上にやって来た。ソウルドは構えたままであった。
「話が違う!約束しただろうが!全てを話せば殺さずに置くってよ!」
「そんな約束はしていない。動けないお前が勝手に喋っただけだ」
「だからって普通は言わなくても分かるだろ!それにまともな常識人としてこんな身動きも取れない人間を殺すなんておかしいだろ!なぁ?お前達に良心はねぇのかよ!」
ソウルドがゆっくりと満生の首元に持っていく。満生の息は荒くなった。一道達は正義の味方ではない。マンガなどでは主人公が止めるのかもしれないが、みんなそんな気にはならなかった。この満生の所為で全員傷つけられたのだから・・・だから拘束されてどうしようもない男が殺されそうになっても誰も止めようとしなかった。一道も、和子も、剛も、港も、元気もただ悠希がやろうとしている事を見守っているだけであった。
「コイツのせいで・・・コイツの・・・」
ゆっくりと進む悠希のソウルドが止まり、ゆっくりと消失し、そして、崩れ去るように膝を着いた。
「で・・・出来な・・・い。出来ないよぉ・・・こいつが・・・こいつが昌成ちゃんを殺したのに、殺したのに・・・殺せないよぉ・・・」
悠希は手で顔を覆った。全身がガタガタと震えていた。
「私には殺せないよぉぉぉ!!ゴメンねぇ!昌成ちゃん。誰か、誰か殺してよぉぉ~。仇を取ってよぉぉ~。あああああぁぁぁぁ!!」
悠希は泣き崩れた。和子が無言で悠希の肩を優しく擦ってやった。
「あ・・・あぁ・・・あ・・・」
一方の殺されかけた満生は力が抜けたようで涎や涙が出ていて、顔はびっしょりと汗だくになっていた。他の者達はそんな一部始終を黙ってみているだけであった。悠希が落ち着くまで10分ぐらいの時間は経った。
「さてと・・・これから、どうするよ・・・」
「そんなの決まっています。その和良って人の自宅に皆で乗り込むんです!」
住所も聞いたので今から乗り込む事も可能である。
「早まるなよ。笹本君。コイツは俺達をおびき出そうとしたんだぜ。迂闊にそいつの話に乗ったらまんまと罠にはめられたって事も考えられる」
港が慎重な姿勢を見せた。以前、一道に突っかかるばかりであったが今は異なるようだ。
「港が言うとおり、乗り込むのは少し様子を見た方がいい。俺達が行かなければ、その和良って奴も焦るだろうしな」
「それって何時なんです?」
全員が話し合っていた。ただ一道はまだ心ここにあらずという状態であったが・・・
亮は大の字に縛られたまま放置されていた。
『俺はこのまま死ぬのかよ・・・冗談じゃねぇ・・・こんな所で・・・こんな体のままで・・・』
何か彼らに対して反撃の一つも加えたかったが青くなるかもしれないぐらいにきつく縛れた手足は固定されており、動きのしようがなかった。壁が薄いアパートのようだから大声を上げて隣の部屋や近所に知らせるなんて事が出来るだろうが、布を猿轡代わりに噛まされている為に大声も出せない。完全に彼の自由は殺されていた。
『チャンスはあるはずだ。次、何か聞かれたとき、この忌々しい布を緩めるからその瞬間だけ騒ぐ。この体がどうなろうと知った事か!このまま誰かも分からん奴の体で死ぬなんて俺には耐えられねぇ。変えようとしなければ何も変わらない。奴らの思い通りに事が運ぶ。それだけは・・・それだけ・・・』
首だけ自由は聞いたから、元気達が相談している中、にらみつけていた。狭いアパートで、彼らの声さえも聞こえそうな所だが、明確に声が聞こえるわけではない。
30分ぐらいしただろうか?体が自由ではない彼にとっては数時間、いや半日ぐらいの長さに感じられた。痒い所があってもかけないというぐらいの状態だからそれぐらい長く感じても不思議ではない。
ようやく、話し合いが終わり、こちらに向かってきた。全員が一斉にこちらに向かってきた。
『ようし・・・チャンスは一度だけだ・・・この次は多分ない・・・』
鼻の穴を大きく広げて息を吸い込んだ。
「ほどいてやるよ」
「!?」
何と、彼らは男の手足を縛っているビニールテープやガムテープをはがし始めたのだ。あまりにも意外な事に元気達に反撃する事を忘れていた。最後に、自分で猿轡を排除した。
「勝手に好きなところにいけ」
「行けだと?お前達、何を考えているんだ?」
言ってみて一旦、冷静になろうとして頭を整理する。元気達が何を狙っているのか・・・
「だから好きなところに行ってっていったでしょ?あなただって被害者だったんじゃないですか?訳も分からず戦いを強要されて、それに従っただけなんでしょ?」
確かに和子が言う事を満生は行っただけであった。だがこうもアッサリと逃がすのはおかしいと満生は思った。
『そうか!こいつらは自由にさせるなんて言っているが俺を泳がせるつもりか?それなら好都合じゃないか!こちらの思惑は外れたが、結果オーライ。良し!俺はまだ運に見放されちゃいなかった!』
満生は冷静さを装いながらも、内心、思惑通りに事が進んで喜んでいた。
「だが、今回限りだぜ。次、また奴らに従って俺達を襲うような事があればその時は、覚悟してもらうぞ。満生」
「勿論、分かっているとも・・・」
亮の体をした満生という男は立ち上がって、手足を回してみて調子を確認する。さっきまできつく縛られていたのだから体がおかしくなるのは不思議ではない。
「じゃぁな・・・」
亮の体をした満生はそのまま帰っていった。何度か後ろを振り返りながら・・・
「さっきも言ったけど、何で逃がすの?利用してないじゃないの!!アイツが!アイツが!昌成君や亮って人を殺した張本人なんでしょ?だったらアイツを殺してしまったほうが!」
「汚れ役を人に任せるんじゃねぇよ」
元気が言い放った。斬れなかった悠希が言う資格はないだろう。
「お前だってアイツの目を見て斬れなかっただろうが・・・みんな同じさ」
重苦しい空気が漂う。元気に言われて暫く誰も言葉を口にする事が出来なかった。魂を扱うもの達に課せられた肉体と魂と関係。分かっているからと言ってそう簡単に割り切れるものではないのが普通の肉体を持つ人間である。
「彼らがやっている事は私達の想像を絶するんでしょうね。魂が抜けた人の体に別の人の魂を植え付けるなんて・・・」
魂が入れ替わるなんて事はアニメやマンガで両者が勢い良く衝突する事で簡単に行われる手法だ。が、今回の場合は少し異なる。入れ替わるのではない。空っぽの体に別の魂を入れるのだ。まるで、洗った皿の上に前とは別の料理を乗せるように・・・
「それだけの問題じゃねぇ・・・親しかった奴の体に別人の魂。しかも俺達を殺そうとした奴の魂を入れて俺達に差し向けてくるなんて普通の人間のやる事じゃねぇ・・・」
だが、それが最も効果的な作戦といえるだろう。別人が言う事と同一人物が言う事ならばどちらが信用できるかなどとは考えるにも値しないものだ。
「でも、元気さん。良くそれを見抜けましたね」
「大した事はないさ。アイツが二回舌打ちするなんて癖をしたからだよ」
「最初、亮さんを見たとき、誰だって言ったのは見抜いていたからですか?」
「いや、あれは・・・俺だって訳が分からなかった。意識して出た言葉じゃない。誰だって言った後で、コイツは正真正銘、亮じゃないかって思ったんだよ・・・すっげ~混乱した。説明は出来ないけどな・・・アイツを見た瞬間に口から言葉が勝手に出たんだよ」
「魂のおかげですか?亮って方と、あの人との違いが分かったと言う事で・・・」
港は冷静に聞く。自分は使えないものであるからこそ、その物を良く知りたいのだろう。
「多分、そうだと思うが・・・だけどそれが本当なら、いちどーや和子ちゃんや剛でも分かったはずだろ?一応。亮と一番接していたのは俺のはずだけどな。後、舌打ちの他にも、俺に確信に至らせたのはアイツの事を考えたらな・・・アイツが自分から俺達の前に姿を現すかってな・・・」
「言われてみれば・・・」
基本的に人嫌いであった亮が呼ばれもせずに元気達の前に現れるとは考えにくかった。後は喋り方や物腰などで元気なりに判断したのだろう。この者は亮ではないと・・・
「これからどうするんです?あいつら・・・次も来ると思いますよ。そのソウルフルなんて物を持って・・・壁も貫通するんでしょ?外から狙い撃ちされたら終わりですよ」
ソウルフル。満生が使っていた魂を銃弾としたライフルと言う事だ。射程は100mほどで、1発の銃弾が大きく、大人の拳ぐらいある。当然、連射など出来ず、1発ずつ銃弾を交換しなければならなかった。ソウルフルの性能と使用方法だけは分かったがただの実行役にしか過ぎない満生には内部の事や開発、製造までの経緯について一切、知らなかった。
「分かっているさ・・・にしてもあんなものを作ってどうするんだろうな」
「銃に代わる人殺しの道具になるとか?」
「日本では拳銃は禁止されているからな・・・」
3人が色々と話している中、悠希は非常に苛立っているようであった。
「そんな事を話し合っていても埒が明かないよ!あいつ等を全員、殺すしかないのよ!でないと解決なんて出来やしない!私達だっていつあいつ等に殺されるか分からないんだから!違うの?」
悠希に徹底して反対すると言う事はしなかった。苛立つ悠希があからさまに感情論を言ったがあながちそれが間違っているとも思えなかったからだ。本当ならば彼らもまた満生たちに対して悠希のようなストレートな反応をしていたかもしれないのだから・・・だからというのか、彼女は全員の感情を代弁していたようで彼らの怒りを抑えていたのかもしてない。
「相手側の全容がまるでつかめていない。全員というのは早計だ」
「そんなのん気な事を言っていたら私達、殺されるよ。いいの?私は嫌よ。迷っているうちに死んでいましたなんてさ」
「お前が言う殺すにしたってどうするつもりだ?無策のまま行ったら返り討ちになるのがオチだ。そんな事じゃ、昌成君に笑われるぞ」
「それは・・・」
「何かひっくり返すチャンスがあるはずだ。それまでは一人で行動を起こさない。いいな?全員の約束だ」
元気が言う言葉に、声を出してOKと言うものはいなかったが皆、静かに頷いていた。
「いちどーもいいな?」
「あ!ああ・・・はい」
相変わらず殆ど話を聞いて無さそうな様子であった。こんな一道では役に立たないだろう。近いうちに和良の所に行くという事が決まったが具体的な日程などは決まらず、話は平行線を辿り、家に帰っていくことになった。
「次、一人も欠ける事無くうちに集合できるんかな?」
そのように思う元気の思いは悲しい。
いつも後手後手に回る今の状態が嫌だった。相手に先手を取られればその分、こちらが被害を受ける可能性が高くなる。だが、そんな状態を打開させるような出来事がその日に起こったのだ。
その始まりは1本の電話があった。元気が受話器を取った。
「もしもし?どちら様ですか?」
最近は、驚くような事ばかりが続いているのでまた何かあったのかと思っていた。
「アンタは!!何故、電話なんかしてくる!」
その声を聞いて元気は激昂していた。暫くして冷静になって話を聞いていた。そして、元気はその日、いそいそと動き出した。相手が場所はどこがいいかと尋ねて来たので元気が指定した場所は駅近くにある公園であった。子供や親がいて周囲も見通しが利くような場所である。ここでは何もしようがないと思ったのだろう。
「急に会いたいというのはどうしてなんです?まさかまた、協力しろとでも言うんですか?亮をあんな風に送り込んできて・・・」
そこに現れたのは先日、こちらに協力しろと申し出た冴えないサラリーマン、田中 勇一郎であった。スーツケースほどあるようなバッグを引きずっている。
「違います。その逆です」
「は?逆?」
「あなた方に協力したいと思ったからこそ私はここに来たのです」
「一体、何の協力ですか?」
「我々の正体を知りたいのではないのですか?それを伝えに来たのです」
「!?」
とんでもない申し出だと思った。何かの罠ではないかと周囲を見回す。田中はこちらを信用してないだろうと言う事で場所の指定を元気自身に頼んだのだ。
「正体を伝えに来た?何故そんな事を・・・」
「彼らは異常です。他人の肉体に魂を宿らせて、あなた方に会わせるなどと・・・」
「彼らって誰です?」
「計画の参加者。このバッグの中にその人達のデータが入っています。あなた方もご存知の通り、間 要さんなどもね。それにあなた方のデータも・・・」
「話が全然見えてきません。計画って何なんです?」
「私は計画の末端のそのまた末端の人間ですから計画については何も知らされていませんので良く分かりません。ですが、彼らの行いは狂った事を考えてそれを実行しようとしているという事は確実です」
「狂った事?他に何か企んでいるんですか?」
「具体的には分かりません。ですが、あなた方の友人の体に別人の魂を植えつけて会わせて誘き出すなどと、あなた方を油断させ、こちらの術中にはめるには一番の方法だと言えますがそんな事をする人達が正気であるとは思えません。私はそんな人達のやる事に耐えられなくなったのです」
「それだけの理由で俺達に情報を渡そうと?」
「私は数年前に鬱病になりまして、その際に病院の方々に大変お世話になりました。もし誰からも処置されずにいたら私は今頃、天国でしょう。ですから、命の恩人と言っても過言ではありません。だからその恩を返す為に尽力してきました。彼らが言う無理難題もこなして来ました。これは悪いことではないかと疑いながらも、それがお世話になった方々の為ならばきっと何か正しい事のだろうと従ってきました。ですが、今回の石井さんの事を見て、さすがについていけなくなりました。私は今まで十分、働いただろうと思ったのです。恩はちゃんと返したのではないかと・・・もう自分の好きにしていいのではないかと思えた私は彼らを裏切ったのです」
石井 亮の件はかなり心を痛めているように見えた。だが、魂を入れ替えるような事をする連中である。裏切ったなどという言葉だけですぐに信用できる訳がない。疑いの眼差しを向け続けた。
「信じてくださいと言いたいのですが・・・そんな事を言えた立場ではありませんね。ただ、信じていただく材料はお持ちしました。こちらです」
カバンを開くとそれは雑然としまわれた紙の束であった。
「急いでいたので、めちゃくちゃですが・・・見てください」
元気は紙を見てみた。それは印刷されており、内容は事細かに仕切られており、非常に見やすくなっていた。田中 勇一郎。1953年生まれ。
「まるで履歴書のようですね」
率直に見た感想を言う。確かに学歴や職歴、資格、特技、好物などあり、確かにここまでは履歴書と似たようなものである。が、それからが違った。
『4人兄弟の末っ子で、出来のいい兄や姉に比べて見劣りする。その為、家族や世間から比較され、疎まれさえする。結婚し、女児をもうけた物のその性格や能力により見限られ、これと言った落ち度がなかったにも関わらずほぼ一方的に妻側から離婚される事となる。それでいて慰謝料や養育費は要らないという屈辱的な事もあった』
「こ・・・これはあなたの?」
「そうです。私の過去をまとめたものです。ソウルドの発動にはその人の過去が大きく関係しているそうですからね。我々、計画の参加者全員の過去の情報がここにあります」
しかし、ここまで来てこの田中と言う人物がまだ信用出来なかった。これ、全てが真実なのか、もしかして嘘で塗り固めたものではないのかと・・・
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと何か引っかかるんですよ。ちょっと・・・ん!?こ、これは!」
ペラペラと何枚もある紙を見ていると元気が固まった。
『福西 鉄夫?どことなく聞いたことがある名前・・・あ!ポチッ鉄!!』
そうである。ポチッ鉄の元々、人の名前であった。その人の情報も書かれている。そして、その詳細の欄の最後は・・・
『間 要のソウルドによって魂が抜かれてしまい、平達に引き取られ、最終的に肉体は、埋葬される』
「くっ!」
このように箇条書きで書かれると自分達が軽んじられていると思えて来て怒りがこみ上げてきた。
「あなた方はソウルドの情報提供者として認識されています」
「情報・・・だと?」
「ハイ。どのような行動を取るのか?考え方をするのか?ソウルドの発動条件などを知る上で、手掛かりになると思われています。ですから今まで、協力を求めてきたのです。ですがあなた方は応じなかった」
今まではそのような事で協力を求めてきたのか、何故それを隠す必要があったのか、今の元気達にそんな事は問題ではない。
「そんな事を断ったぐらいで俺達は魂を狙われて殺されたのかよ・・・」
彼らにとって自分達の存在はデータを調べるモルモットなのだろう。実際に生きている人間に対してそのように扱う奴らなど人間ではないと思えてきた。
悔しかった。何故そんな事でこちらは狙われるのか、そして、そんな事で魂を殺そうとしてきた奴らに対して怒りがこみ上げてきた。
「あなた方の多くの情報は羽端 慶さんから提供されています」
「やはり慶か・・・」
やはり慶は自分達にとって裏切り者でしかないのかと失望と怒りが芽生えてくる。だが、それと同時にこの男は何者なのか疑問に思えてきた。
「あなた方の過去によってソウルドの発動条件が見えて・・・」
「あなたはそんな事を俺達に教えてどうするんです?」
「あなた方に伝えたかったのです。私の少しの正義感がそうさせたのでしょう」
「いや、そうじゃなくてその所為で、あなたも狙われますよ」
「それは、さっきも申し上げたとおり承知の上です。私はね。産まれて、出来の悪い少年でしたから子供の頃は一家の恥さらしと疎まれ、成人して、成り行きで結婚してみれば甲斐性無しと家族に愛想をつかされ、仕事は仕事で無能な奴だと同僚や上司からも白い目で見られ、今まで、夢や目的もなくただ周りに流されて生きて来ただけの私です。自分の意思もなくやってきただけですから、何一つ実になる事はなかった。だからここで一つだけ、男として自分自身を通したかったのです。こんな事が理由なんて簡単すぎるかもしれませんが・・・」
自分でも分かっている事のようだ。だが、こんな所で赤の他人に等しい元気に言うべき事なのかと元気は驚いていた。
「あなたにとってそこまでするほどの重要な事なんですか?魂を失うかもしれませんよ?」
「私の名前、勇一郎。勇気が人一倍ある男になるようにと両親が付けてくれた名前です。ここに来て、勇気が持てそうと思えたのです。あなた方を知って何とか間違いを正させる・・・」
「ちょ!ちょっと待ってください!あなたは俺達にその計画潰させようとでも思っているんですか?」
「あ・・・」
勝手に話を進められているようだったので止める必要があると思ったのだ。そう言われて勇一郎はあっけに取られていた。
「すいませんが、この件は保留にさせてもらえませんか?俺だけで決める訳ではありませんし」
「!!そうでしたね。コレを教えればあなた達も戦うだろうと早合点していました。ただ、私はあなた方に知ってもらいたかった。様々な苦しみを我々から受けてきたあなた方には・・・これを知ってどうしたらいいかあなた方で決めてください。知りさえすれば対処する事も出来るでしょうからね」
「すいませんが俺はコレを見せられても完全にあなたを信じる事ができない。あなたが以前、出会った田中 勇一郎さんの魂であるという確証もありませんし・・・」
「私は正真正銘!?それもそうですね。完全に見落としていました」
「でも、少し話してみてあなたが田中さんって思えます」
「何故?」
「話し方、態度からです。結構特徴的でしたから」
「そうですか?」
ちょっと照れたような顔をし両手をつないで自分の手の甲を見つめていた。こういった細かい仕草は演技できないだろう。
「あなたはどうするつもりなのですか?俺達が戦うのを拒否した場合は?」
「さぁ?分かりません。どうするか考えていませんでしたから・・・そうですね・・・逃げ回って、ソウルドを使える同士を探すのかもしれません。それともソウルドを忘れ、ひっそりと暮らせる土地を探すのか・・・」
当ては外れてしまったがとても晴れ晴れとしたスッキリした顔をしていた。この情報を何としてもこちらに伝えたかったのだろう。その目的が達せられた今、とても満足そうである。
「答えを出すのは早いと思います。俺もこれを知ってどうするかまだ決めていません。まずはみんなに会ってみませんか?」
「え?」
「それでこれからどうするのか決める。市川の事もありますからあなたの事を全面的に信用できません。お互い信頼しあうにはお互いどうなるか分からんという賭けをしなければ・・・」
「そ、そうですね。もう少し賭けてみるのもいいのかもしれません。私は危ない事から逃げ続けてきましたから・・・」
そのまま2人は分かれた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます