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The Sword 最終話 (24)

2011-02-24 20:14:54 | The Sword(長編小説)
「こうしてはいられない!俺はやるんだ」
大樹が崩壊していく理由は分からない。澄乃の影響だろうとわかったがそれ以上は分からない。だが、一道にはやらなければならないことがあった。
「名も知らない少女よ!覚悟!」
「あ・・・あ・・・みんな・・・」
一道はソウルドを出して、彼女を斬りかかろうとした。目前に迫る少女。彼女は崩れる大樹を呆然としてみていたので動きはなかった。そして、ようやく自分のソウルドが当たる所までやって来て一道は迷わず振り下ろした。
ビジジィィィ!
「何と!?」
彼女に届く前にソウルドが止まったのだ。ソウルスーツを着ている訳でもない生身の彼女に対してであった。彼女の体には当たっているがそれは皮一枚という所で弾かれていた。このような事は今まで一度もなかった。理解できない現象であった。
『ダメだよ~。ママは僕らのものなんだ。ずっと僕らのものなんだ!』
『一緒じゃなきゃ嫌なんだ!一緒じゃなきゃダメなんだ!』
「今ので全ての魂が放出されたわけではないのか?」
それは彼女を守ろうとする強固な魂達であった。守ろうというよりは絶対に一緒でなければ気がすまないという強い気持ちが彼女を傷つけようとする一道の意思を排除した結果だろう。それは大樹が一道に襲った時、彼を守った慶や和子の意思と同じようなものだろう。
『絶対に離さない!渡さない!!』
『他の奴らはママから離れていったけど僕らはずっと一緒なんだ』
「くぅ!お前達、どけっ!」
何度も斬るがそのバリアは彼女を守りきっている。いや、斬れば斬るほどその力がますます強まってくる。
「ど、どうする!?このままでは何も!!」
『私をここから出して!』
自分を拒絶する魂達の奥から想いが伝わってきた。
『ダメだ!』
『ママはどこにも行っちゃダメだ!』
確かな意思が感じられた。その瞬間に、一道のソウルドは弾き飛ばされ、その勢いのまま一道の体ごと吹っ飛んだ。ゴロゴロと転がり、態勢を整えた。
「ちぃっ!」
すると、彼女は右腕を振り上げた。先ほどと同じように大樹を振り下ろせば一道はそのまま潰されていただろう。だが、大樹は発動していなかった。彼女の腕からはまだ多くの魂が放出され続けている。今はもう大樹を形成する事が出来ないのだろう。
「女の声でここから出せといった。出せだと?」
距離を取ったが落ち着いている暇は無かった。彼女の腕から発されるソウルドはみるみる形を変え、節の長い鎖状になった。それが一道に向かう。
『ちぃ!』
バチィ!!
ソウルドで弾くとその鎖が逸れていった。どうやら、大樹ほどの力はないようであった。勝機が見えてきた。
『もう一度、やってみるか?今のままなら接近することは出来るはずだ!!』
「どうして、あなたはそうやって激しくなろうとするの?そんな怒りの感情は捨て去ってしまえば安らかになれるのに」
一道に問いかける少女。一道は聞かない。ダメで元々であった。一道はソウルドを発し彼女に接近を試みた。長く伸びるソウルドを弾く。弾くごとに巻き込もうとこちらに襲い掛かってくる長いソウルドを見切って弾く。意識せずそのような事が出来た。
「もう一度!」
ビャッ!!
「何!」
一道が飛び込もうとした瞬間に彼女の体を包んでいるソウルドが急に変化し針のように伸びたのだ。一道は一瞬、怯んだがそのままソウルドを叩き込んだ。
「だがぁっ!」
一道に針が刺さる。そして先ほどと同じように彼女を包む魂達に完全に拒絶される。
『お前は悪い奴だ!本当に悪い奴だ!』
『ママを惑わすな!ずっと僕らと一緒なんだ!』
だが、一道も負けてはいない。
『うるさい!他人の女をママなどと抜かすな!お前達だって実の母親ではないだろう!俺の母親は今、死んだ!お前達を解き放とうとしてな!』
一道の声に魂達は反応した。それと同時に、再び女の声が聞こえた。
『お願い。私を!』
『ダメだぁぁぁぁぁ!』
また一道は引き飛ばされた。また態勢を整えて戦おうと思った瞬間であった。
「あなたはもう傷だらけ。痛い思いはしたくないでしょう?私と一緒になりましょう」
少女は再び、一道を惑わす波動を放ってくる。その場で切り裂く一道。違和感を覚える。
『あの喋っている体と出せといった魂は別だということか?』
今、喋っている優しい声は人を包み込み眠りに誘う怪しさを漂わせているものであったが先ほどの強い想いに比べればどこと無く空々しい。軽いのだ。
『本心は体の奥底にある。それに問い掛けるのが彼女を救う唯一の方法か・・・』
そう思うが逃げる事は一道の選択肢の中にはなかった。グッと拳に力を込めた。
「ぐぅ!結構、深い!」
さっきまでは夢中だったから気がつかなかったがソウルドの針に刺された一道の傷は深い。脂汗をかき、立ち上がるのも辛く体が震えていた。
『次、やるのが最後だな・・・』
一道は不思議な気持ちで一杯であった。物心付いた時から母親と一緒だった。その母親がいなくなり完全なる一人を味わう事となった一道。それは普通の人であれば当たり前の事であったが、一道にとっては違った。昔、もし母親がおらず一人だったらと考えようとした事があったがそれは考えられなかった。あり得ない事だった。怖い事だった。だから、一人の人を少し尊敬していた。
今、実際に独りとなった。だが、何故か今は溢れるほどに湧き出てくる闘志、勇気。寂しさや悲しさなど微塵も感じなかった。心が満たされている感覚。数多くの悲しみや痛みが一道を強くしたのかそれとも感覚を麻痺させているのか分からなかった。
『いや、これで死ねる兆しが見えてきたから喜んでいるのかもしれないな。もう沢山だ』
そのような事を思える余裕さえ出てきた。
『行くぞ!俺は一人。だが!』
「何度やっても同じなのに・・・でも、何度もやって満足したのならあなたを私が取り込んであげる。その突かれ切った魂を癒してあげる。皆と一緒になあれ」
一道は飛び出した。ソウルドは今までにも増して光り輝いていた。しなる鞭のような長いソウルドを弾き、くぐり、少女の下へと走る。先ほどの針のような一撃が来たらどうするなどという事は考えない。ただ、ひたすらソウルドを彼女にぶつける事、それ一点だけを考える。迫る彼女。針が来た。構わない。今度は一段と深く刺さるがその分、一道も芯からソウルドを彼女にぶつける事が出来た。すると同じ強い想いが伝わってきた。
『やめろぉぉ!ママの所に来るな!』
『お前は悪い奴だ!帰れぇぇぇ!』
強固な意志が彼女の元に行かせまいと邪魔をして来る。
『弱い魂どもが!どけぇぇぇぇい!俺は一番奥に用があるんだぁぁぁぁ!』
一道はそれ以上に魂を爆発させて妨害してくる魂達の中を突き進んでいく。それからゆっくりと進んでいくと、その奥にあるものが感じられてきた。
『ヤメロ・・・』
『サガレ・・・』
『キエロ・・・』
そこまで辿り着くともはや人間の意志ではなく感情が壁となって一道を遮った。
『助けて!あなたなら!私を』
壁はあるがその壁の奥から意思を感じた。確かな意思を。
『助けろだと!甘ったれるんじゃねぇよ!お前!誰の所為でこんな事になったと思っている!お前のその何でも受け入れようとする腐りきった優しさがどれだけの弱い心を惑わしたか!分かるか!』
『で、でも私は可哀想な人たちを救おうとして・・・私にはその力があるから・・・』
『だからその可哀想な魂をもっと惨めな形にしたのはお前のその心だって言っているだろうが!それで、もう嫌だからって自分を助けろだと!虫の良い事言ってんじゃねぇよ!責任を取れ!』
『け、けど・・・どうやったらいいの?』
『お前がここまで来い!お前を取り囲む魂達をかいくぐってここまで!』
『私がここから?』
彼女と心の会話をする。だが、じわじわと別の魂達が彼女を守ろうと一道に迫る。魂はすし詰め状態で押し返されそうになるが、想いだけは遠くから感じられて来る。
『でも、私がここから出てしまったらここの魂達は・・・』
『後先考えず、お前自身が出たいと望めぇぇぇぇぇ!』
一道の渾身の叫びであった。
『ママ、モドレ。ズット、イッショ。ズット、オナジ』
その魂の波は一道を一気に引き離した。だが一道も諦めていない。ここで離されればそれでもう終わりだろうと思ったからだ。しかし、その想いを大きさ、厚さ、重さは圧倒的だ。
『私はここから出たい!だから!連れて行って!』
奥から彼女の魂が近付いてきたのだ。一道と彼女、手を伸ばしあうような状態になった。
『やっと辿り・・・着いたぁぁぁ!』
一道は彼女の意思に触れ、そしてそれを斬った。
『何?何故だ!?おおおおああああああ!!おぁぁぁぁぁ!』
『うわぁぁぁぁぁぁぁ』
『ぎいぃぃぃぃ!!』
彼女の意思を斬ると同時にダムが決壊したかのように魂が溢れた。一道はその激流に身を晒すが全く気にならなかった。他の事が何もない夢のような所に立っているような気がした。
『君が・・・ママと呼ばれていた子か・・・何だ・・・普通の女の子じゃないか?』
彼女の魂を斬った事によって彼女の全てが分かってきた。その子の魂は院長の母親ではなく、本当にこの体の持ち主である魂であった。彼女の名前は『海藤 心』。そう。院長の実の孫だったのだ。院長は、孫が誕生した時に心底、喜び溺愛した。それはどこの祖父が見せる愛情であった。だが、いつしかそれは歪んだ愛情となっていった。
院長は日々の重圧で壊れそうになっていた。多忙なる日々、自分に媚を売り、どうにか利益を得たいと自分に近付く輩。そういう時に頼れるのが家族であるのだが彼の息子や娘は自分が未だ健在だというのに、既に遺産の分配方法などでもめていた。院長は精神的に疲れきっていたのだ。ただ、無為に毎日を送る日々に息子達家族が全員集まった。息子達は何としても自分に目をかけてもらいたいと必死であった。それを見て取れた院長はただただ悲しかった。
そんな祖父を見た心は
「おじいちゃん。大丈夫?元気出して」
と、言ってくれた。涙を流した。その無垢なる瞳と心底、心配してくれる優しさに・・・最初の方は、ただ、愚痴を言うだけであったが日々エスカレートしていった。幼い孫には分かりもしないであろう悩みを話し、自分を誉めてくれとか撫でてくれなどと常軌を逸した要求を始めた。だが、彼女はそんな祖父を嫌悪する事なく、言うとおりにした。
そんな孫に年老いた院長は死んだ母親を思い出させるものであった。そんな彼女には特別な力のようなものがあった。ひょっとしたら院長もその力に呑まれたのかもしれない。海のように広く何でも受け入れてくれる大きさに。彼女は年齢、性別問わずして優しくして、全ての人に受け入れられるというものであった。院長は心を自分の誇るべき孫として自慢し、周囲の者達にも顔を出させるようにした。政治家、議員、院長の周辺の有力者達である。心はそんな者達であっても誰も拒否するような事はなく、受け止めた。みんな何をやっても満たされず埋まらない隙間だらけの心を持った寂しい老人達だったのだろう。
そうする事で皆は、彼女を祭り上げていった。ある日、事件が起きた。いつものように彼女に撫でられている1人の男が彼女を独占しようと連れ去ろうとしたのだ。だが、その計画はすぐに失敗に終わった。連れ去られていると言うのに怯えず、怒らず、寂しがらず、笑顔を絶やさない彼女に男は涙を流し、彼女に抱きついて謝罪した。その直後、男の魂は消えうせたのだ。実際は彼女の魂に取り込まれていったのだ。
大事件であったが、彼女はこういった。
「あの人の魂は私の中で生きているんだよ。ずっと一緒なんだよ」
それを聞いた者達は恐れるどころか自分も彼女の一部になりたいと望んだ。それも1人ではなく大勢であった。1つ、2つと取り込まれていく魂。
そうする事で彼女の魂は次第に肥大化していった。だが彼女の魂も1つである。1つの肉体に複数の魂。暫くして飽和状態に陥り彼女自身でコントロールする事が出来なくなってしまった。そんな状態になってしまってはもう遅く、彼女の魂は多くの魂の中に塗れ、浮遊しているしかなかった。彼女自身の体は取り込んだ多くの魂達によって理想的な形で動かされていったのだ。それは歪んだ魂達の願望を体現したものであった。院長にとっては自分をいつでも愛してくれる母親として存在するようになっていった。そんな魂の存在を信じた院長であるからこそ、病院で魂研究を積極的に行わせたのだろう。だが、その院長も一道に追い詰められ、孫に取り込まれたいと願い叶ったという訳だ。
『ありがとう・・・私をあそこから出してくれて・・・』
『いや、俺はただきっかけを与えただけだ。君自身が出てきた頑張りのおかげだ』
『ちが』
『違わないよ。違わないんだ。これは君自身の頑張りのおかげ・・・』
何でも否定しようとする彼女に一道は彼女を誉めてあげた。
『私、ずっとあの子達の面倒をしていて、みんな増えてきてそのうち私一人ではどうしようもなくなって・・・』
肥大化し続ける魂に彼女の魂が追いつかなくなったのだろう。そして彼女自身が魂達に取り込まれる結果となってしまった。
『良く頑張ったよ。君は・・・』
『そんな事ないけど、ありがとう。本当にありがとう。ずっと私、一人だったから・・・』
『じゃぁ、今から友達にならないか?』
『いいの?』
『対等な間柄が欲しいんだろ?俺もさっきお袋を失い一人になっちまったからな。同じ立場だ』
『ありがとう。嬉しい・・・』
彼女が涙を溢れさせながら倒れた。
『終わったよ・・な?これで全部・・・』
バタッ・・・
一道も泣き、折り重なるようにして倒れた。彼女にまとわりついていた全ての魂は開放された。ずっとそこにいた拠り所を失い、不安や悲しみで消滅しそうな所であったが彼らは別のものを手に入れる事が出来た。それはかつて忘れかけていた自由であった。
魂達は宙を舞った。それは、彼女の魂にしがみついていただけではなく、病院でその魂を散らせていった無念の魂達。元気、慶、和子もそうだ。そして、間 要や志摩達病院の関係者などソウルドを使える使えないに関わらず全ての魂達である。もはや彼らを縛るものは何も無い。肉体、意地、拘り、感情、プライド、欲、それら人間の業といわれるようなものから解き放たれた彼らはお互いを無条件に受け入れ、混ざり合う事が出来た。自分の好きな事をし、誰一人として不満に思うことなく幸せ気持ちになって霧散していった。そこに負の感情の一切はない。

終わった。一道の言うように終わったのだ。これで魂を巡る戦いの全てがここに終結した。

一道が倒れた直後、救急隊や消防隊が雪崩れ込んできた。その頃には病院内は救助活動で錯綜していた。悠希が放った火によって自動的に通報された形になっていたのだ。当然、全国いや世界的に今回の事件は大々的に取り上げられた。
だがその事件は全く別物のように報道されたのである。
日本政府は今回の事件をこのように発表した。
『病院を標的とした信仰宗教集団のテロ行為』
一道達の行為は全て宗教集団によって洗脳されて行われたと発表したのだ。
『大地の輪』という実在する宗教法人に全ての責任をなすりつけた。この事件の全てが徹頭徹尾、シナリオがでっち上げられた。
その団体はお香や簡易的な催眠法によって集中力を高める事で信者を引き込むという手法をとっていた。それを利用された形となったのだ。教祖は、テレビ等に積極的に出て、事件との関与を否定したが情報操作され狂人という扱いを受け世間から一切信用されなかった。
魂やソウルドなどという言葉が登場する事はなく、ただのテロとして世に伝わった。一道達がその魂を賭してまで止めようとした物。病院側がその魂を賭してまで押し通そうとした物。それら全ては世間に触れられる事なく闇に葬られたのである。一部マスコミの人間がこの事件を不審に思い追究しようとしたが必ずその人物や家族等が必ず不幸に見舞われるという事態が発生した。それは決して明るみに出る事なく一部のマスコミの人間が知るにとどまった。まるでこの事件は呪われていると噂が広がり、次第に誰も調べる者はいなくなっていった。

一方、一道達の周囲の人間は誰の例外も無く迷惑を被った。戦いや殺し合いの後の結果は悲惨なものだ。当事者は自分がやりたい事ををやっているのだから満足かもしれない。だが、最も過酷なのはその人の周辺にいる者達だろう。
病院側にとって都合が悪い間 要等の人間は皆、病院側の人間としてではなくテロ行為の参加者として扱われた。
今回の事件に関与した一道、慶、AV女優である天ノ川 姫夜である香奈子の3人がいた施設は、いくら既に施設から出る手続きをしたからといって彼らがそこにいた事実はあるのだから嫌がらせの対象となり、その後閉園を余儀なくされた。施設の子供達はバラバラになるという運命を辿った。そんな厳しい仕打ちに晒され、一道達の所為でこんな事になったと怒っていたが皆、こう思っていた。
『いちどーはそんな事をするはずはない』
一道達が通っていた学校も同じようなものだ。一道達は退学届けを出していたがそれを世間は受け入れてくれる訳もなかった。ただ、都立の学校と言う事もあり廃校になるという事態は免れたが、生徒数は激減し学校の規模を縮小せざるを得なくなった。
一道達の家族は、洗脳されていたという事を差し引いても多くの人は嫌がらせをするというのは自然な流れなのかもしれない。家族は引っ越したり、ノイローゼになったり、最悪だったのは剛の両親であった。兄である隆が魂の脱け殻になり、弟も同様の状態になって、絶望した両親は死を選んだのだ。彼らの肉体を今、保護しているのは老いた祖父母だけである。祖父母達も残りの命は短い。その後彼らはどうなるのかそれはもう誰にも分からないが決していい方向に向かう事はないだろう。

彼らは一体どうする事が正しい選択だったのだろうか?病院の研究にその身を提供する方が良かったのかもしれないし、どんな仕打ちがあろうと家族や友達などと一緒に苦しむ方が良かったのかもしれない。だがそれはもう分からない事だ。

ただ、唯一、たった一つ、救いがあるとするのならば、今回の事件で二次的災害の被害者が出なかった事が奇跡的だといわれた。
病院で災害が発生した場合、避難の過程で何らかの事故が起こる。大勢の人間が一斉に逃げ出すのだからパニックにならない訳がない。避難の際に転倒したり、我先にと逃げようとして他人を突き飛ばしたり、押し合って将棋倒しなどになり、災害とは別に負傷者が出るものなのだ。殊に病院という体が一般人よりも弱い体をした人が大勢、移動するとなればなおさらである。それが1人も出る事がないというのはまさに奇跡であった。その避難する者達は口々にこういった。『何故か焦らず避難できた』と・・・
中には『慌てるなという人の声を聞いた』とか『人の姿を見た』などという声も出たぐらい。それらの話は公に出る事はなかった。
結局、今回の事件は『戦後最悪のテロ行為』だけが強調され、人々は世に存在している宗教集団に対して訳もなく不信感を抱くようになっただけであった。
数年、いや数ヶ月も経てば世間にとってこの出来事は、大きな事件として記憶されただけで世間はいつものように動いていく。
今日も学校は面倒だとか会社で頑張って働こうとか一人一人自分達の事だけを考えながら生きていく。
何時までも終わった事を考えても仕方がない。何時までも自分達に関係のない事を考えたところで意味はない。だったら目の前にある課題をクリアした方がよっぽど自分の為である。
だから、忘れていくのだろう。自分達が今を生きるために・・・

それが人間なのだろう。


The Sword 
Fin



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