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The Sword 最終話 (17)

2011-02-17 20:03:15 | The Sword(長編小説)

「あ?良かった?何?良かったというのか?君らの仲間がぶち殺されたのが良かったのか?やられすぎで遂に頭がおかしくなったのかい?」
「いや、それでよかったんですよ」
「何が良いものか!あんな無意味な死に方、完全なる犬死。私には恥ずかしくてとてもあんな形で死ねたもんじゃない!」
「田中さんはずっと娘さんの事を気にかけていました。嫌われてしまって忘れたいと思ってもそれでも心の中では切れなかったのが田中さんの父親としての絆。それを思い出せて死んだのならそれでいいんです。武田さんにとってだけは・・・」
一道は小さく頷く。それに対して藁木は大声をあげる。
「馬鹿が!そんな糞以上に何の足しにもならない感傷が何の意味がある!」
「人生は意味や成果じゃないんですよ。心を持った人間だから、心が満たされて死ぬのが理想だと俺は思っています」
「馬鹿か?心が満たされて死ぬのが理想だと?そんなものは弱者の敗北に対しての言い訳に過ぎない!全力を出しただとか心が充実しただとか納得しただとか!そんな事だから田中の大バカは努力する事を放棄し、立ち向かう事から逃げ続けた。何事も仕方ないとかしょうがないとかって心を慰めてな!だからあのバカは社会的にも大事な大事な家族にも認められなかった!その挙句の犬死。そんな人生が良かっただと?君の人生観は完全なる間違いそのものだ。優れた君ならば私のやっている事も理解できると思ったのだがな。残念だよ」
「あなたが死んだとき、一体、誰が泣いてくれるんです?」
一道は急に別の事を振ってみた。だが藁木は驚く素振りも見せなかった。
「いるとも。いるいる。私はこう見えても顔は広いんだ。私を愛した女から私を慕い必要とする同僚や部下。あんなカス野郎よりも多くの人間が私の死に涙し、嘆き、哀れんでくれるだろうな。死んだ後だったのにモテモテで困っちまうな~。君が言うように泣いてくれる奴がいたら死ねないって言うのなら当分、死ねんわな」
藁木はそれで一道は黙ると思った。だが、一道は続ける。
「その中にあなたが心から泣いて欲しい人はいるんですか?」
「泣いて欲しい奴だと?いないな。そんな奴は!」
「そう。あなたは人を見下し、利用する事しか考えていない。だから、泣いて欲しい人がいない」
「そりゃそうだ!人を利用して何が悪いか!!服は着るもの、靴は履くものだ!そこにあるものは利用して生きるのが人間だろうが!私の回りをちょろちょろしている人間も同じ!人を盾にし、囮にし、踏み台とする。それは才能が持った人間にだけ許される特権だ!無能な人間が同じ事をすれば別の人間に食われて終わる。しかし、私にはそれだけの価値がある!やってのける能力があるのだよ!!」
それこそ藁木が歩み続けてきた人生そのものだった。やや興奮し顔が赤くなっていた。
「それでは人同士のつながりなど到底持てません。何もかも欲するだけで死ぬまでずっと寂しいだけではありませんか?」
「寂しい?ガキじゃあるまいし、私の人生の全てはのし上がり、私以外の他人の全てを私の前に跪かせひれ伏させる事のみ!私は世界一であるエベレストから世界という景色を見下ろしたいと思っているだけだ!それをつながりだ絆だとほざいて同情し、慰めあうような何もしない奴らは山の麓で頂上を見上げているだけで満足して終わる人生の敗北者だ!そんな糞人生を送るために私は産まれてきたわけではない!私は人生の勝利者になる!だから誰がどうなろうと私がどうしようと道を進む!」
ここまで断定的に言われてしまうとお互い交わる事など決して無いだろう。
「しかし、死んだときに泣いてもらいたい人間がいるのかと私に聞いたが君こそそんな人間が存在するのかい?大親友だった羽端 慶は君自身がぶち殺し、片思いだった女はそこでマネキンのようにくたばっている。上にいった君の友達は恐らく、今頃、要さんに全滅されている頃だろう。あの人は強すぎるからな・・・だから、今の君は独りぼっち。誰も泣いちゃくれる人間なんていないじゃないか?ああ!後は、心の中にいる母親の人格がいたか?そいつだって君自身が死んだらアウト。結局、君も泣いてもらいたい人間なんていないじゃないかい?それとも他にいるのかい?クラスメート?同じ屋根の下で暮らす施設の子供かい?泣いてくれる人間探しもなかなか骨が折れるね」
一道達の情報は一通り得ている。
「いますよ。俺の心の中にアイツらの魂は生き続けていますから!」
「ハハハハハハハ!私の負けだな。素直に認めるよ。友達と慰めあうだけではなく遂に妄想で代用する域に来てしまっているとはな!こりゃ勝てんわ。ハハハハ!!」
一道は笑われても何とも思わなかった。考え方がまるで違うのだから・・・
「何でもかんでも自分にとって都合の良いように解釈する君が面白いのさ。思い込みとか妄想とかさ。そんなもん空気の重さすらないってのに・・・」
「そうです。都合が良いように解釈していますよ。だが、人間の想いは目に見えるようにすることが出来ません。例えば信じあうと言っても結局、お互いが相手は自分を信じているだろうという一つの思い込みから成り立たせているにしか過ぎません。それが実際に信じあっているのかは他人は勿論、本人達だって分かりはしないんです」
「なるほど・・・相手の考え方、感じ方でさえこちらの一方通行と言う事か・・・だから、相手が死んでいてもつながっているという思い込みが成立するか・・・理にかなってはいるがな・・・しかし、客観的に見るとそれはただの身勝手だ。こちらが愛しているのだから向こうも愛してくれているだろうという身勝手なストーカー的発想だ」
「しかし、俺は慶を剣で殺しました。その魂は、間違いなく俺を信じていました」
「信じて『いた』だろ?過去形なんだよ。羽端 慶はもうこの世にはない。既につながりなんて存在しない」
「あなたには俺と慶との間とのつながりは分からないでしょう。今までも、そしてこれからもずっと一人のあなたには・・・」
「はぁ・・・」
藁木は静かに首を振って構えた。呆れを通り越し、遂に一道と戦う気になっていたようだ。
「結局、自分の主義に殉ずる。そういう言い方をすると何だか様になった気もするが言い換えればただのバカだ。死んだらおしまい。いくら積み重ねてこようとそれで終わり。ただの自己陶酔で美しくもない。いい加減、気がついてもらいたいものだ」
「俺にとってはそれで十分すぎます」
「そうか。結局、君は死にたいだけなんじゃないか。色々、回りくどい言い方をして・・・悲しすぎる。さて、話し合いは終わりだ。では、お望みどおり君をあの世に送ってあげよう。大好きな帯野ちゃんや羽端君がいるであろうあの世にね。行くぞ!進藤!」
「ハイ!」
「最後に一つ。私からそんな君に相応しい言葉を送ってあげよう」
「?」
「酔生夢死。死ぬまでやってろ」
ビュオ!
「ちぃ!」
後方から藁木の適切な援護射撃が入った。避けざるを得ず、進藤は一道から離れて、射撃する。近い為、一道は避けた。
『やはり、あのガキ、やる。あんな殴られて傷だらけでしかも、親友や思い人を失ったというのにまだ希望を捨てていない。真面目タイプが諦めないというのは油断ならん証拠だ。ハッタリをかますほど気が利かないからな。何か企んでいるに違いない。子供の喧嘩のようにソウルドを振り回すだけの田中の方がどれだけやりやすかったことか・・・妄想だけであれだけの力を引き出すのか?』
様々な経験を経た藁木は用心深かった。
「アイツには接近させず遠距離で攻撃を続けて消耗させるぞ!」
「分かりました!ですが、慎重すぎませんか?彼は殆ど動けませんよ!」
「私の今まで勘がそう言っている!奴は間さんとは違った危険なタイプだ。安全に勝つ事が最優先だ!こういう奴は一体、何をしでかすか分からん!卑怯だとか非効率的とかそんな事は問題ではない!生きて勝たねば意味がないのだ!地下にいる連中はコイツ一人なのだから、コイツを倒しされすればそれで我々の勝利なのだ!それだけを考えていろ!進藤!」
「はい」
他人を見下す事をしながらも敵対する者に関しては抜かりなく分析する藁木。自分の能力は高いというだけの事はあった。一道はゆっくり近付こうとするが二人からの飛び道具は正確なもので一道の接近を許さない。藁木が撃って再装填している間に進藤が撃つといった連携も見事であった。弾は無限にある訳ではないから撃たせ続けて弾切れを起こすまで待つという手もあるが、体が思ったよりも言う事を利いてくれない。消耗してからソウルドで戦う事は困難であると思った。
『俺に、今、使えるのはこの一手だけだ』
一道は避け続けていたが、両手を腰の位置に持っていった。それはまるで武士が鞘から刀を抜こうという態勢のようであった。
『ソウルドで居合を使うつもりか?しかし、接近できなければ何の意味も為さないがな』
藁木はそのように思ったが一道に対しての不安感は拭えなかった。
『しかし、そんな事は本人が一番分かっているはずだ。何を企んでいる。まだアイツの目はまだ死んでいない。奴の目は今まで多くの人間と戦って来たことがあるが見たことがない。大体、あんな状態でまだ戦おうなんてのは意地やプライドで戦う目をギラつかせ獣のようなタイプが大半だというのに・・・もしくはさっきのバカ田中のように自暴自棄になるタイプ。今まで一番恐ろしいと思ったのは間さんみたいな凍てつくような冷たい目を見せるタイプ。あの瞳はこちらが気がつかないうちに吸い込まれるような感覚がした。それを気付いた時、身の毛がよだつほどだった。だが、コイツは静かでありながらそれでいて燃え盛る闘志を失っていない。まるでマグマか?音も無くゆっくりと流れる。それでも、近付いただけで火傷するぐらいの熱さを秘めている・・・侮れられん』
「あと一息です!このままソウルフルで押し切りましょう!」
すると、進藤は動きながらソウルフルを構える。一道は立ち止まり、その動きを目で追っていた。
「ん?何だ?」
その瞬間に一道の手から光が伸びた。それはソウルドのものだと言う事はすぐに分かった。だが、そんな位置で出したところでどうにもならないと思った。だが・・・
『何だ!何故、ソウルドが伸び続ける!おかしいだろ!』
通常ならばソウルドの長さは1~1.5mしか伸びないはずである。だが一道から伸びるソウルドは止まる事なく伸び続けた。それを理解するが目で見ている映像はスローモーションで展開されているので理解した所で体は殆ど反応出来ない。
『くお!来る!来る!』
なんとももどかしい事だろうか?来るのが分かっているのに避けられない現実。ソウルドがこちらに触れた瞬間にスローモーションが解けた。
バタッ!
『あれ?私・・・どうなるの?私・・・』
進藤は胸から背中にかけて貫かれ、バッと一気に魂を放出した。
『やられるの?でもいいか・・・殺されるのが良い男なら・・・』
それは即死と言えるほどアッという間の出来事であった。一道のマグマのような瞳を見て満足そうに思いながら倒れていった。そして、もう一方の藁木は、後ろに下がり、壁にもたれかかっていた。
「ハッ!ハァッ!ハァッ!!」
藁木は致命傷を免れていた。右腕を射抜かれはしたが致命傷ではない。一道の行動に警戒していたのが幸いしたのだろう。そして、やった一道の方は膝を突いていた。
「くぅっ!ハァッ!タイミングを見誤ったか!」
母親のソウルドと己のソウルドを合わせるという技はソウルドの長さを瞬間的に数倍にも伸ばす事が出来る技である。だが、そう簡単に出来る訳もなく精神的にかなり消耗する。一瞬でも気を抜くとそのまま気絶しそうになるほどである。一道は歯を食いしばり脂汗をかきながら耐えていた。
「フッ・・・動けないのか?残念だが、終わりだな・・・さぁ、仲間達が待つ夢の中に送って行ってあげよう」
藁木のソウルフルは一道のほうに向けられていた。技の失敗は死を意味する。
『や、やられる!訳にはいかないんだ!う、動けぇ!体ぁ!』
己の気合を奮い立たせ、ぎこちない動きながら右手を動かす事は出来た。が、ソウルドはまだ発動出来なかった。
『!!何!指に力が入らん!』
藁木の右手は先ほどの必殺の一撃に切り裂かれ、魂を放出しており、感覚が無くなっていた。
『ちぃ!ここは一旦、退いて右手の感覚が戻るのを待つ!せいぜい数分だろう!』
掃除機のノズルを模したライフルとなっている為、かなり長く片手で狙いを定めて射撃するのは難しい。増してやそれが負傷したのならばなおさらである。藁木は右手を抑えながら奥に進んでいった。
一道は命拾いし、少々、安堵で胸を撫で下ろし、1度、和子の前にしゃがみ込んだ。もう彼女の意識はなく微量なら出血は続き、魂もゆらゆらと陽炎のように漂っていた。
「・・・」
一道は無言でタオルを使って顔全体を拭いてやり、上着を彼女の顔にかけてやった。腫れ上がり醜くなった顔が晒されているという状況は一道には耐えられなかった。それから振り返らず前に向かって歩き出した。病院の最深部まで残りわずかである。

『あの・・・かずちゃん・・・』
母親が一道に話しかけた。
『私、謝らなければならないことがあるの・・・』
「ふぅ・・・」
一道は一息つく。その言葉に応じようとはしなかったが間違いなく伝わってはいる。
『あの時、かずちゃんの体を和子ちゃんから無理に引き離したんだけど、あれはあなたのん身を守るつもりだったからなんだけれど、きっと違うのよね』
一道が重傷の和子を介抱しているのを見て進藤がソウルフルを発射した後、一道は突き飛ばされるぐらいの感覚があった。それは母親が一道の肉体を動かした事という事だ。
「少しは楽になった・・・今なら普通に歩けそうだな」
一道は母親の言う事に応じず、深呼吸を続けていた。
『多分、私は和子ちゃんに嫉妬したんだと思う。かずちゃんの体に入ってからずっと一緒にいたかずちゃんの心が和子ちゃんに取られるんじゃないかなって思ってそれで・・・和子ちゃんあんな体だったのにね・・・私ってひどいよね・・・』
「・・・」
周囲に注意しつつ屈伸をしたり、背伸びをしたり、簡単な体操をする。
『かずちゃん?』
何も答えない一道を不審に思った。
『お袋。一つ質問して良いかな?』
『何?』
『どう考えても分からない事があってね。さっき帯野に聞こうと思って躊躇って結局、聞けずじまいだったんだけど同じ女であるお袋なら分かるかもしれないって思って・・・』
『どんな事?』
『和子は何で嘘をついたのかなって』
『嘘って?和子ちゃんは嘘なんてついていたかしら』
慶は以前、和子が襲われた時に一道が助けた事、そしてそれを一道が隠すように口裏あわせをみんなにさせたことを彼女に暴露した。だがその事を彼女は元気から聞いたと言った。それが嘘だったのではないかと思ったのだ。
『そんな事をしたって何の得にもならないわけなのに・・・俺を奮い立たせやしないし、慶だって離してはくれなかっただろう。一体何のために・・・』
一道はそれが引っかかっていたようだ。これから先に行くのに明らかにしておきたかったのだろう。もう本人から聞くことは叶わないのだから・・・
『あれは嘘じゃなくて本当に元ちゃんに言われて知っていたんだと私は思うわ』
『どうして!?本当に、あの時の話を知っていたのなら何故、今日も俺に対して素っ気無い態度を取り続けることもなかったはず。俺が黙っているのに合わせた所で誰にも何の得になる事なんてない。なのに何故』
『それは簡単よ。そんなに難しい事じゃない』
意外であった。ずっと考えていて答えが見つからなかったのに何故に母親はそんなすぐに思いつくのか?一道には不思議であった。
『きっとかずちゃんの口から真実を聞きたかったのよ』
『!?でも、知っている事を2回も聞いたところでなんにも・・・』
『だから言ったでしょ?かずちゃんの口から聞きたかったって・・・』
『俺の?俺の口から?俺の・・・口から・・・か・・・』
和子の顔や言葉が頭の中をよぎる。一瞬俯き、唇を噛み、一道は言った。
「慶の言うとおりだ・・・俺は・・・本当・・・」
「かずちゃん」
「行こう。約束は守らないと・・・」
一道は更に奥へと進んでいく。


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