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髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

「口の周りに毛が生える」という呪いを受けたオッサンがファミコンレビューやら小説やら好きな事をほざくしょ―――もないブログ

The Sword 第八話 (1)

2010-08-01 18:30:42 | The Sword(長編小説)
隆の出来事の2日後、朝のニュース番組のトップでこんな事をキャスターが騒いでいた。
「朝のモーニングモーニングの時間です。人気漫画『空から降る夢』の作者、重 友良さんこと野村 友之さんが交通事故により病院に運ばれましたが死亡が確認されました。昨日、夕方、野村さんが乗るスクーターが右折しようとしていたワゴン車に激突。全身打撲と脳挫傷の為、運ばれた病院で5時間後、死亡が確認されました。野村さんが信号無視をした可能性があると見て、事故の詳しい原因を調べています」
「・・・」
一道は遠い国の事件のようで呆然と聞き流していた。他のチャンネルを回しても全部、その内容で、持ち切りであった。人気漫画家の突然の死である。取り上げれば視聴率が取れる。各局挙って取り上げていた。しかし、その内容もいずれ聞かなくなるだろう。話題性がなくなれば終わるのがテレビである。そして、その話題性が無くなったときは一般人の意識からも遠くなった事に他ならない。人の意識はどんどん薄れていく構造になっている。それは、一つの事にとらわれて生きないようにする人間の便利な機能なのか、悲しい習性なのか・・・
「人は死ぬ・・・か・・・」
一道は施設の別の子供たちが騒いでいる中、ボーッと眺めながら朝食を食べていた。

話は戻るが、剛は友人から病院の場所を聞くとそれ以上、静止を聞かず、飛び出していった。一道、慶、和子の3人は、早歩きで行く。元気は怪我をしている悠希を送る事にした。隆の事が気になったがポチッ鉄は犬であるため、病院の入場が出来ない。仕方ないので元気についていく事にした。
「いちどー。どう思う?」
慶が、聞いてきた。何か喋らずにはいられないという様子だ。
「どうって何の事だ?」
「今は隆の事だよ。一体何が起こったのか・・・」
「行ってみなければわからないさ。ただの事故なのか剣によって何かされたのか・・・それとも何か別の理由で倒れたのか分からないからな・・・」
「剣でやられたとするのなら、刑事の仕業か悠希って姉ちゃんが言っていた6人にやられたかだよな?」
既に4人の青少年達は遭遇していたが残り2人がどのような人物なのか何者なのか分からない。今はそんな分からない人間の事はどうでも良かった。
「刑事ではないだろ?アイツは、剣を悪用しない奴は倒さないはずだ」
「お前はそう思うのか・・・同じ強いものとしての感覚みたいなものなのか?」
「そんな達人の域じゃないさ。剣をあわせてみてそういう人間だと思った。それだけだ」
そんな二人のやり取りを聞いていてそれまで黙っていた和子が急に口を出した。
「アンタ達!良くも平然とそんな事を言ってられるわね?友達が倒れたのよ!それなのに友達の心配よりもそんな得体の知れない奴の事に気を取られているなんて!」
「もし剣を扱った奴が何らかの目的がって隆を倒したというのなら次の狙いはほぼ間違いなく俺達だ。その対策を打たねば第二の隆が出てくるんだぞ」
一道が冷静な意見で反論する。和子は一道のいう事など聞こうとはしない。
「今は隆君の事を気にかけていればいいじゃない!自分達の事なんて後でじっくり考えれば!」
「もう起こってしまっているんだ。今更、隆の心配をしたところで自体、好転するわけじゃない」
「あんたは自分さえ良ければそれでいいの!?」
「そんな事を言っているわけじゃない!」
いつも以上に感情の高ぶりを見せる一道。慶が入る余地がなかった。
「だったら今は最優先で考えてあげたっていいじゃないの!でないと隆君可哀想でしょうが!」
言われて見れば和子の方が正常な人の反応だろう。だが、自分や慶は戦う事ばかり考えすぎているという気がした。
『俺は間違っているのか?いや!目の前の事ばかり見ていて何になる!』
「だから!今、隆の所に向かっているんだろう!」
「それって、結局、自分達と関係があるかどうか調べるためだけじゃない!隆君の事なんて二の次なんでしょうが!」
「俺がそんなに!」
「いちどー。あまり大きな声を出すな。お前の声は響く」
剣道で鍛えられた喉である腹から出されている声でかなり響いた。だから慶は一道を止めた。一方の和子の方も負けていなかった。それから何か喋ろうとした一道であったがぐっとこらえ3人はそれから一言も会話することなく歩いていった。

病院について、ナースステーションで隆の部屋を聞き、上ってみるとそこにはベッドで横たわり、瞬きをして、半開きの口をパクパクとして隆がいた。涎を流し、完全なる廃人と化し、前のように大きくしっかりとした精悍な姿はそこにはいなかった。
「ううぅ・・・何でうちの子がこんな事に・・・」
「嘘だ・・・こんなの嘘だ・・・」
母親は横ですすり泣いており、呆然と剛は立ち尽くして何かブツブツと言っているが殆ど、聞き取れなかった。
『同じだ・・・』
一道は隆を見て同じ事を思った。それから、何故か一道自身は妙に頭が冴えて来るのが分かった。一道が思う『同じ』とは慶が斬った和子を襲おうとした弟。その弟の姉貴を斬った時と同じ症状であった。一道が剣で斬った弟に関してはすぐにその場を立ち去ったので良くは分からなかったが、姉貴の方は慶が剣で斬り、救急に通報して、そのまま姉貴の様子を見続けたのだ。だから、その時の状況を思い出していたのだ。
「こんな事ってないよ・・・」
和子はその状況に涙を流していた。皆、暫く、その部屋から動く事は出来なかった。
『何だ?この感覚は?何か遠くからものを見ているような・・・』
一道は、そんなおかしな感覚に戸惑っていた。そのまま時間が過ぎ、夕方になって看護婦が来て、場が動いた。
「本当に申し訳ありませんが、面会時間がそろそろ終わりますのでご家族以外の方は・・・」
「分かりました・・・」
3人は、挨拶をしてそのまま帰る事にした。元気は結局現れる事はなかった。

和子が途中で何も言わずにいなくなり、一道と元気だけになった。
「こんな事、言っちゃいけねぇんだろうけどよ・・・」
帰っている時はずっと無言であった慶がぼそっと言って立ち止まった。一道は、慶に構う事なく歩き続けていた。
「人ってよ・・・やっぱ、死ぬんだな?」
「ああ?」
一道が振り返った。慶が言った事を聞き取れなかった気がした。もしくは聞き間違いではないかと思えた。
「いや!分かる!分かるぜ!!自分で言っていておかしい事ぐらいはな・・・誰だって生きていればそんな事は当たり前の事を何で言うのかって事ぐらいはよ」
慶はとても動揺していた。ちゃんと説明する上で一道は何も言っていなかったが慶は自分の感情を分かってもらうために喋り続けた。それはまるで自分自身で一語一語、確かめるように・・・
「第一、俺も一人、既に人を殺っちまっているしさ。人が死ぬって事は分かる!分かる!けどよ。実感としてはさ・・・やっぱ、身近な人が死んだって思えないんだよな。ただ寝ているだけなんじゃないかってよ。ちょっと前に話をしていた人間だったんぜ。それが寝ているなんてさ。ドッキリをしているんじゃないかってよ。不謹慎ってのは十分、分かっているんだけど・・・素直に言うとだな・・・なんて言うんだろうかな?」
必死に取り繕うともしている。その焦りや動揺が伝わってきた。
「ああ・・・お前が言いたい事は分かるよ」
一道は頷いた。慶が舌足らずであったが何が言いたいのか一道は分かった。
『そうか・・・そういう事だったのか・・・あの感覚は?』
隆が倒れ、悲しむ者達を見て現実味を感じなかったのだ。どこか遠くの事で起きている事件なのではないのかと・・・目の前に広がる光景さえも何か映像のように見えた。慶も同じだからこそ、そんな自分自身の感覚を再確認しているのだろう。
生きていれば必ず死ぬ。そんな当たり前の事だから誰であっても分かっている事だ。だが、それ以上に、『生きている』という事の方が当たり前と化している現代人に、死を受け入れろという感覚は難しいかもしれない。
ニュースで毎日のように殺人の話題が挙がるがあれは赤の他人がテレビと言う世界の中での出来事のように認識してしまって、現実とは違うと思わせてしまう所がある。その為、実際にそのような事態が起こると心が対応できないのだろう。殺した相手は赤の他人。死んだ奴は親しいと言うほどではなかったが無関係ではなかった。だからこそ未だに隆が殺された事実を頭で分かっていても完全には受け入れられなかった。
「マンガなんかならさ。何か適当にとってつけたような理由で復活する事なんてあるんだろうけどよ・・・無いんだよな?ここにはさ・・・」
「ああ・・・ない。それっきりだ・・・」
それ以上、何かいう事もなく、二人は施設に戻っていった。

隆は死んだ。しかし、それは魂だけが抜け落ちたと言うだけで肉体は今でもしっかり生存している。心臓も動き、体温もある。だから生きている。それが世間の認識である。ただ単に、意識不明になった一種の植物人間状態というのが医師の見解で世間の理解の仕方だ。両親や親族も隆が倒れた事にショックを受けていたが、いつか目覚めるのではないかと言う一縷の望みをかけていた。だが、魂が無い隆が起き上がる事はもう2度と・・・ない。

「うおおおおお!何で死んだんだぁ!!俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ!」
沢 竹伸が朝から絶叫していた。そうである。彼が心の底から愛するマンガの作者が亡くなったからだ。『空か降る夢』の台詞を覚えるのは当たり前で一人でマンガのシーンを忠実に再現して周りの笑いを取るぐらいの熱狂的な愛好振りだった。それが突然、亡くなったというのだから発狂するぐらいの勢いであった。そのマンガが連載している『週間ヤングダッシュ』を叩きつけて言う。
「俺は認めねぇぞ!俺が崇拝する重 友之様が死んだなんて事は!!絶対に来週には何事もなく掲載されているに決まっているんだ!そうだろ?昨日の夜に死んだなんて話が出て、今日こうして本人のマンガが出ているなんてよ!おかしいだろ!?今週号にだって続くって書いてあるじゃねぇかよ!今、すっげぇ盛り上がっているんだぞ!何で続かないんだよ!何で勝手に終わっているんだよ!!そんな訳ねぇよ!あってたまるか!これはただ単に作者の演出だ!そうに決まっている!」
その日の発売の週刊ヤングダッシュ。本に1枚の紙切れが挟まっていた。既に本は印刷され、本屋やコンビニ等に配送されていた状態だったのだ。それから回収し、印刷しなおすなんて事をやれば莫大な費用となるだろう。だから急遽、その紙を挟む事で作者死亡を報告していた。
「この度、ヤングダッシュに掲載されていた『空から降る夢』は作者である重 友之さんが事故により亡くなったため、急遽、連載を終了する事となりました。今までのご愛読ありがとうございました」
だから、内容等は全くいじっておらず竹伸が言うとおり、マンガの最後には『次週21号に続く』なんて言葉がちゃんと載っている。しかし、物語はここで停止する。何があろうとここで停止する。生き生きと動いていたキャラクター達も、そんなキャラクター達を生かした世界も皆、そこで強制的に停止させられてしまう。なぜなら作者が死んだのだから・・・
竹伸のようにショックを受ける者は日本中に溢れ、涙に暮れている事だろう。テレビでも追悼特別番組を放送する事が決定したようだ。暫くはその事で話題は持ちきりだろう。
「人は死ぬさ・・・」
一道は、慶が言った言葉をまた思い出していた。
先の事を言えば次の週に発売された週刊ヤングダッシュ。特別版と称し、普段よりも1.5倍ぐらいの厚さであり、開いてみると、『空から降る夢』は載っていた。しかし、それは過去を振り返るダイジェストや他の重 友之と縁があった沢山の漫画家達が書いた突然の訃報に対する悲痛なメッセージなどが載っているだけで、当たり前の事であるが先週の続きは載っていなかった。

「嫌な事ってのは続くもんだな。俺、めちゃくちゃ好きだったんだぜ。『空から降る夢』」
元気が寂しそうに言った。隆が倒れた次の日、一道、慶、元気、和子、ポチッ鉄達は小屋に急遽、集まっていた。昨日の出来事の後である。剛はさすがに呼んでいなかった。
「うちのクラスにも大好きな奴がいましたよ。名場面と言って一人で何人もの役を演じていましたけどね」
一道は本気で泣いている竹伸の顔を思い出していた。
「そうだろ?それぐらい熱狂的に好きな奴がいるんだよ。あのマンガにはさ・・・それが事故って死ぬなんてよ・・・信号無視なんだろ?馬鹿な死に方だよ・・・どれだけの人達が悔しがっていると思うんだよなぁ・・・作者はきっと地獄行きだな・・・」
元気はとても悔しそうな顔をしていた。全員、黙って俯いていた。話す言葉も見つからない。暫くの沈黙が続き、和子が口を開いた。
「剛君。これからどうするんですか?お兄さんがああなってしまって・・・」
和子は、直接的に言うのを避けた。
「そっとしておくしかないんじゃないか?変に俺達が励ましても怒らせるだけだと思うしな。どう思うっすか?元気さん?」
慶がそのように言う。他のポチッ鉄を含めた男達も賛成のようで特に反対意見を言うわけでもなかった。
「それって冷たすぎませんか?双子の兄が亡くなっているんですよ!剛君からすれば生まれてからずっと一緒でやってきたというのに、もういない。それって相当寂しい事ですよね?だからこういう時こそ、何かしてあげた方がいいじゃないですか?何もしないなんてそれじゃ友達っていえないですよ」
和子が反論した。しかし、男達は、乗り気ではないようであった。
「和子ちゃん。俺達は何もしないんじゃない。そっとしておく事をしてやるんだよ」
元気の説明に一道や慶はとても共感できた。
「それって言い方を変えただけで何もしないのと一緒じゃないですか!」
和子としては理解できないらしく反論していた。
「剛の事を重要ですけど、隆をやったのは一体、誰なんでしょうね?」
一道は話を変える事にした。
「またアンタ!そうやって関係ない話を!」
「関係はある!これも大事な話だ」
和子の声を遮って強引に話を始めた。和子は膨れ面をしていた。そして大声で叫んだ。
「彼が自殺したらあなた達、責任取れるの!?」
『自殺』という衝撃的な言葉にさすがに3人は固まった。
「!?」
「彼女や兄弟を立て続けに亡くしているんだから、十分、考えられるじゃない!」
彼女と言ってもそれは隆の彼女であって、剛には片思いの相手でしかないのだがその片思いの相手も自暴自棄になった挙句、事故に遭って亡くなっているんだ。剛が兄の隆と偽って肉体関係を結んだ事が引き金となっている。そう考えれば今、剛が自殺しても不思議ではないと言える。
「だったらどうする?俺達が剛に対してどうしてやれる?」
一道は和子に聞いた。
「今すぐ行ってやって励ましてやって・・・」
「そんな事は、既に剛の友達や家族がしてやっているだろう?じゃ、俺達は何をしてやれる?俺達なら何をしてやれる?」
「・・・けど!そんな、何をするなんて事は関係ないよ!行ってあげなければ何もしてやれないじゃない!あなた達、見損なったわ!私、剛君の所に行ってくる!」
言い返すことが出来なかったからか?一道たちに失望したのか?そう言って、和子は飛び出していった。残された男達は沈痛な面持ちであった。
「俺達だって・・・何か出来るのならやっているさ・・・」
元気が苦虫を噛み潰すような表情でつぶやいた。
「今は、第二の隆を出さない事を考えなければならないでしょう?元気さん」
一道が言って、ため息を吐きながらも気を取り直す元気。
「そうだな・・・それにしても一体、誰が何のために、隆を・・・」
暫く、発言が出ないが、一道が話し始めた。
「逆恨みという事ではないのですか?子供を取られたからという事で?」
「でも、それならその現場にいたのは隆ではなく剛だよ。一道」
「そうか・・・しかし、剛と隆が双子であるという事を連中は知っていたのか?似た顔だからよく見ないと判断つかないのではないか?」
一道の疑問に、慶は驚いたように頷いていた。
「!?剛と隆を間違えて!?それは考えられるな!」
「おいおい!奴らを犯人と決め付けるな。電話番号を出してくる奴らだぞ。そんな奴らが何で隆をやる必要がある?」
「じゃぁ、連中との関連はシロって事っすか?」
「俺はそう思っているけどな」
まだ、決定の期限は時間がある。その期間内に行動をしてくる事は考えられない。
「いちどーはどう思う?」
「無関係な者なら何故、隆は殺されなければならなかったのか?隆は剣を使って人を殺した事はありませんから、やはり金田 直に襲われたという事は考えにくいですし・・・」
「でも、何らかの事情で金田に狙われたって事は考えられないか?お前らの友達って事でな?」
「自分はそうは思えません」
金田と剣を交えた一道だからこそ分かる事であった。自分と関係を持っているという事で殺すと言うような真似を金田がするとは思えなかった。
「何でそんなに信用できるものなのか?一度出会って戦ったきりなんだろ?」
「はい。でも確証はありません。ただ、何となくです」
一道は、自信がなさそうに言った。だが、剣を扱った事がある全員は一道の言いたい事が分かるようでそれ以上は何も聞かなかった。
「そうか・・・そう考えると何も関係ない通り魔の犯行なのかもしれないな。いちどーが始めて倒した和子ちゃんを襲おうとしたレイプ魔のような奴のような人間なのかもしれないな」
和子が怒って帰っていった事は却って都合が良かった。そんな話も気兼ねなく話せる。
「殺された隆は男だからレイプ目的ではないだろうが、気をつけないといけないな」
「気をつけるってどう気をつけるんすか?一道は剣道が強いから戦えるでしょうけど俺らはどうするんすか?警察では役に立たないっすよ?」
「んな事言ったってよ。毎日固まって行動するわけいかねぇんだから各自、守るしかないだろ?」
例えば、ナイフを持った普通の通り魔であったとしても警察に守ってもらうにしても、警察を呼ぶまで時間が掛かるのだから結局、自分を守るには自分しかいないのである。
結局、通り魔の犯行としてしか結論が出ず、解散して、各自帰っていった。

「ええぇぇ!?この近くじゃない?」
「怖~い!!」
「最近じゃこの辺りも物騒になって来たんだね」
朝のニュース番組を聞いて、施設の子供達は騒いでいた。
「またニュースか・・・」
決まっていい報告をしないのがニュースである。人が殺された。事故で人が死んだ。有名人の訃報。人々の不正など、1日の始まりが暗い事ばかりだ。報道はそういう事ばかり取り上げる。その方が重要であるし、興味があるからだ。例えば子供が新たに生まれたとか夢が実現したとか明るい事はなんとも思わない。どちらも他人事だというのに・・・
『朝なんだからもっと楽しくなる報道をすれば日本はもっと明るくなるのにな』
慶は、普段とは違うようにテレビに食い入るように見ている子供達が気になった。
「この辺もって何かあったのか?」
ニュースは既に別の話題を取り上げていて慶が聞くと、高校生のみどりが顔を青ざめてそのニュースにについて答えた。
「河川敷の公園でホームレスが襲われて殺されたんだって・・・」
「殺された?それはどっちなんだ?」
慶は剣によるものなのかと疑った。しかし、マスコミに取り上げられるという事は殴ったり刺したりと言った物理的な殺人に限られた。その証拠に隆の件に関してはまるで取り上げられず、一部の関係者にしか知られておらず、施設内にいる人たちが隆の件を知らないようであった。
「何がどっちなの?」
「ああ・・・単独でやられたのか複数でやられたのかってな・・・ちょっと気になってな」
「何十回も鈍器で殴られて殺されたって言っていたぐらいだけど、何でそんな事が気になるの?」
「複数だったら一人捕まったって安心できないだろ?」
「そうだね」
「当分の間、その公園には行かない方がいいな」
「でも、そんな公園なんかに行かないよ」
運動をやっているような女子高生でもなければ近づくような場所ではないだろう。
『考える事は剣、剣、剣だな』
慶は自分の発想が嫌になっていた。他の人は別の事を考えているのに、何故、自分は剣の事を考えているのか?世間と自分達との間に大きな隔たりが出来てしまっていると強く思った。だが、今更、どうにも出来ないという事が慶には悲しかった。


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