日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (4)

2024年09月25日 03時20分33秒 | Weblog

 理恵子達同級生三人は、進学や就職のため連れ立って一緒に上京した。
 江梨子は東京駅で列車から降りた途端一瞬ドキッとし足がすくんた。
 広い ホームの人混みの中ほどで、マイクで自分の名前を連呼しながら、”歓迎”の大文字の下に”二人の名前”を並べて墨書した、紙のプラカードを高だかと掲げて目をキョロキョロして辺りを見回している社員を見つけ、予想もしていなかったことにビックリするやら恥ずかしやらで、理恵子や奈津子の手前顔を曇らせてしまった。
 江梨子は、列車から降りると内心怒りを覚え不機嫌な顔をして、迎えの若い社員と簡単な挨拶を交わしていたが、小島君は最初ひとごと思ってボヤットしていたが、そのうちに目をこらしてよく見ると間違いなく”達夫”と書かれているので、唖然として言葉も出なかった。
 彼女達は生活に慣れたら日にちを見計らって後日再開することを約束し、互いに「頑張ろうね」と明るい顔でエールを交換して別れた。

 小林江梨子と小島君は、一抹の不安を抱いて出迎えの社員に促されるままに、会社が手配した自動車に乗せられ蒲田駅近くのホテル前に到着して降りると、運転してきた若い社員の阿部さんが、広いロビーに彼女等を案内し、普段から大事な顧客を案内して慣れているのかカウンターで宿泊手続きをすますと戻ってきて、彼女に部屋の鍵を渡し
 「お部屋はボーイがご案内します。夕食の6時30分にお迎えにあがります」
と言って爽やかな笑顔を残して帰っていった。
 二人はボーイの案内で5階の部屋に行くや、部屋は隣どうしに2室用意されており、中に入ってみるや、TVは勿論、高級ベットに冷蔵庫等調度品が備えられた豪華な部屋に圧倒されてしまったが、ボーイが説明を終わって出てゆくや、彼等はお茶を飲みながら眺望の良い窓から景色を見ていたが、そのうちに彼女が
 「面接試験に来たわたし達をこんなに接待すなんて、この会社は一体どうなっているんだろうね。チョット不気味だわ」
と呟くと、小島君も不安な表情で
 「そうだよなぁ。江梨ッ 怒るなよ。僕の予想では明日は恐らく<ハイッ  ご苦労様でした。御両親様に宜しく>と慰められ、一言でお払いだな」
 「それにサァ~。アノプラカードを見て、俺達いくら親が認めている仲だといっても、果たして一緒になるかどうか確率的には極めて低いしなぁ」
とボソボソとした声で答えると、江梨子は少し肩をおとして元気なく頷いていたが、少し間をおいて気を取り直したのか沈んだ声で
 「そんなぁ ~ ”林”と”島”の一字違いじゃない。いずれ”島”になるんだから、そんなこと、どうでもいいわ」
と突き放したあと、予め考えていたかの様に、落ち着いて
 「でも、君が言う様になったら、わたし、社長に対してきっぱりと、<田舎者に対し、ご丁重なおもてなしをして頂きまして誠に有難う御座いました。母にも早速電話で御丁寧な接待をして頂きましたと報告したあと、入社は難しいようです>と、社長さんの前で電話を借りて言ってやるわ」
と、採用されない以上、社長が叔父でも、へりくだるのは嫌なので皮肉の一つでも言って、さっさと会社を出て、二人で大坂か名古屋にでも行って働きましょうよ。と、普段強気な彼女らしく小島君を励まし、うなだれている彼に対し、その次の行動について計画していることを力強く話すと共に、併せて抜け目なくあくまでも一緒になることを念を押していた。 
 彼女は、母親がどんなに心配しても、今更、田舎になんか帰る気がしないわ。と、語気鋭く言い出だし、それでも不安なのか冷蔵庫からビール瓶を出すとコップに注いで一気に飲むとベットに寝転んでしまった。

 約束の時間に阿部さんが現れ、階上のレストランに案内してくれたが、窓際の眺めの良い席に座らされると、阿部さんが注文のためか席をはずした隙に、小島君がまたもや江梨子の耳元で小声で
  「江梨ッ 洋食かな?」「俺 今晩くらい定食屋で思いっきりカツ丼を食べようと思っていたのにさぁ・・」
  「田舎者の俺なんて、洋食なんて食べ方もマナーも判らんし嫌だなぁ~」
  「もう、腹もペコペコだし、神経が クタクタ に疲れてしまったたよ」
と、言い出したので、江梨子も
  「わたしだって、洋食の作法なんて判んないわ」
と返事をしたあと、部屋での不安な話しの尾を引いているのか、都会の夜景を見ながら不機嫌そうな顔で捨て鉢気味に
  「いいのよ、こうなったら旅の恥は掻き捨て言うじゃない、そんなに心配することないわ」
  「見渡したところ、お客さん達の中で若いのは私達だけだし、若者らしくマナーを気にすることなく、食べたいものから、ドンドン自由に食べるのよ」
  「わたしも その様にするからさ。君もそうしてね。クヨクヨしてないで、しっかりしてよ」
と、ナプキンを胸に掛けて平気な顔をしていた。

 阿部さんが戻ってくると、まもなく料理が運ばれてきたが、阿部さんは座るとすぐに
  「いやぁ~ 僕までご馳走にあずかり申し訳ありません」
  「僕は、結婚して3年目ですが、こんな綺麗なレストランに一度はワイフを連れて来たいと日頃思っていますが・・」 
  「なにしろ給料が安いので、今晩はお陰様で夢みたいですわ!」
と、ニコニコ笑いながら愛想よく気さくに話だしたので、二人は阿部さんの一言で気が楽になり、三人が気侭に食事を始めると、江梨子もやっと笑みを浮かべて
  「そうなのですか、私達、こんな立派なお店に入ったことはないし・・」
  「阿部さんも大変なのですね」  「奥様もお勤めなのですか?」
と、ワインを遠慮なく飲んだせいか饒舌になり、三人は会社の話などに感心がなく、専ら都会の生活の話をしながら、珍しい料理に目を奪われて夢中になって食べながら愉快に会話がはずんだ。 
 江梨子はその間に、どうせ会社のおごりならと考えたのかボーイを手招きして呼び「お土産にするので、いま戴いているワインを一本、綺麗な包装紙に包んで袋に入れておいてください」と注文した。 
 食後、別れ際に感謝の意を込めて、それを阿部さんに渡すと彼は遠慮したが、江梨子の強い勧めで恭しく受け取り、江梨子が
  「奥様と二人で、お飲みになって下さい」
  「なんと言っても、妻は御主人様のさりげない思いやりが、一番嬉しいものなのですよ」
と、大人びいて気分よさそうに話すと、阿部さんも嬉しそうに「明日は9時にお迎えに上がります」と言い残して深々と頭下げ明るい笑顔を残して帰って行った。

 小島君は、江梨子の如才ない行動をみていて、部屋に戻るころになって、今日の出来事は全て彼女の母親の仕組んだことだ。と、やっと気ずき、それにしても、彼女も母親同様に勝気で機敏な態度に感心してしまった。
  

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河のほとりで (3)

2024年09月25日 03時19分01秒 | Weblog

 理恵子は、江梨子達と手を握りあって再会を約束して別れたあと、用心深く周囲に気配りして駅の正面口を出ると、毎年夏休みに家族揃って飯豊山の麓にある自宅に遊びに来ていて、すっかり顔馴染みになり気心の通じ合った城珠子と大助が出迎えに来ていたので少し不安な気持ちが和らいだ。
 彼等は、母親の節子と同郷の城孝子の子供達で、都会生活に不安を覚える理恵子にとって、今後いろいろとお世話になる下宿先の姉と弟である。

 明るく闊達な中学生の大助が、姉の制止を気にすることもなく理恵子に近よってきて愛想よく笑いながら
 「天気も良いし、宮城付近を散歩して行きましょうよ」
 「きっと、昨夜の雨に洗われて松の緑が綺麗だと思うので・・」
と、普段は何かと小言を言う姉の顔を横目でチラッと見ながら素早く理恵子の大きなバックを持ってやると、理恵子と珠子を誘って歩き出したが、何時のまにか理恵子の左手を握って手を振り、楽しそうに二重橋方面に向かった。

 理恵子は、乾いた舗道にコツコツと心地良く響く靴の音に都会にきたんだなぁ。と、田舎より1ヶ月くらい早い春たけなわの心地よい風と行き交う人々の群れに、都会の雰囲気を肌身に実感しながら、中学生のときの修学旅行以来、久し振りに二重橋を見て
 「大ちゃんの言う通り、緑が本当に鮮やかだわ」
 「田舎の方は、今頃、やっと、遅れて来た春が終わりかけたばかりで、松や杉の葉はこんなに鮮やかな緑色に輝いていないわ」
と呟いたら、大助が
  「理恵姉さんも、眩しいくらいに輝いているよ。 それに背も高くスタイルが良いので、こうして手を繋いで宮城前を揃って散歩できるなんて、まるで夢みたいだよ」
  「ホラッ!すれ違う人達が、次々に僕達の方を羨ましそうに振り向いて行くよ」
  「キット、僕達が背も高くスマートなので、素晴らしい恋人どうしのアベックだと思っているんだろうなぁ・・」
と、理恵子の顔をチラッと覗きこみ、片目を神経質にパチパチさせてウインクして話しだしたら、珠子が
  「大ちゃん、誰も振り向いていないわ」
と呟くと、彼はシマッタと思ったのか
  「今日の珠子様も、松の緑のせいか何時もよりず~と美しく見えるよ」
と、またもや、片目でウインクしたので、珠子は
 「松の緑とか修飾語は余計よ」「黙っていれば可愛いんだけれど・・」
と言って、理恵子と二人して声を上げて笑いだした。

 乾いた歩道に響く革靴の音が、雪国から来た理恵子には心地よく聞こえ、大助のユーモアに満ちた話が緊張気味の気分をやわらげてくれ明るい気分になった。 
 三人は日比谷公園を通り過ぎて道角のモダンな造りの喫茶店の前に差し掛かると、大助が珠子に
  「姉ちゃん! 僕たちで、理恵子さんの第一次歓迎会とゆうことで、アン蜜を食べてゆこうよ」「僕 喉が渇いちゃったし、いいでしょう」
と言って、珠子が返事をしないうちに、こじんまりしたお洒落な喫茶店にさっさと入り、窓際の景色の良く見える席を見つけて二人を手招きして呼び、ニヤット笑いながらアン蜜を注文してしまった。
 珠子は、理恵子に対し
 「今日の大ちゃんは、あなたに逢えて嬉しいらしく、いつもにもなくテンションが上がっているわ」
と、笑いながら弟の屈宅のない行動の素早さを説明していた。

 夕方の5時ころ、池上線の久ケ原駅近くの自宅に着くと、母親の城孝子が玄関先に出てきて零れそうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。
 理恵子が下宿する城家は、駅からそれほど離れていない、閑静な住宅街にあり、少し古風だが低い生垣に囲われ、狭いながらも庭には、芝生がありキンモクセイやサルスベリの木が植えられている。 
 城孝子は40歳代半ばで、理恵子の母親である節子と同郷で、同じ高校に通い2年後輩だが、高校卒業後、節子を頼り上京して看護学校に通い、資格取得後は節子と同じ都立病院に看護師として勤めているが、3年前に夫を胃癌で亡くし、一人で珠子や大助を育てている気丈な人である。

 珠子は、高校2年生で、母親の孝子に似たのか背丈はあまり高くないが、色白で丸顔に笑ったときの笑窪が可愛く、温和な性格であるが、毎日母親に代わり家事をしているせいか芯は強い。 大助はおそらく亡くなった父親に似たのであろう、同級生の中でも細身だが背丈は高い方で、時々、夕食後の家族団らんの際に、珠子が冗談交じりに
 「大ちゃんと背丈が逆ならばよかったのに・・」
と、背の高い同性に憧れる愚痴をこぼすことがあるが、母親に背丈ばかり高くても、頭が悪くては良いお嫁さんになれないのよ。と、はぐらかされているが、勉強は一生懸命で成績も良く、大学への進学をめざしている。  それに反し、弟の大助は中学1年生だが、どうも勉強にはあまり熱が入らない様だが、運動神経は抜群で学校や町内の球技大会には積極的に参加している、明るく陽気な人懐こい性格で、町内の若者達からも好かれている。

 理恵子は、挨拶したあと自分にあてがわれた2階の部屋に案内されたが、事前に節子母さんが来ていて荷物などを整理しておいてくれたため、部屋は整然と整えられていた。
 隣の部屋は、珠子が利用することにしたので、二人で何でも工夫して自由に使う様にと、孝子から親切に説明された。 
 孝子は説明の合間に冗談めかして
 「近頃、妙に色気ずいてきた大助は、下の部屋に寝かすので・・」
と言って意味ありげに笑っていた。

 孝子小母さんの心尽くしの手料理で夕飯を済ませ、皆がくつろいでお茶を飲みながら、思い思いの雑談を交わしている途中で、大助は珠子と理恵子が隣合った二階の部屋を使用すると聞いて羨ましく思い、つまらなそうに
 「あぁ~ 今夜から、姉ちゃんに就寝中に腹を蹴飛ばされなくて助かるなぁ~」
と皮肉まじりに悪戯ぽく話した。
 以前、隣に寝ていた珠子が夜中に突然彼の腹に足を勢いよく乗せたので、彼はビックリして姉の足をそ~っと彼女の布団に手で押し戻したら、いきなり珠子が 
 「コラッ! H ナコトヲスルナッ!」
と怒り、拳骨で殴られたエピソードを話して、皆を笑わせていた。
 珠子は照れ隠しに
 「理恵子さん、彼は漫画の読み過ぎで混同しているのょ。わたしこそ、汗臭い大助と別の部屋になるので嬉しいゎ」
と、懸命に弁解していた。

 理恵子は、そんな二人を見ていて、話の真偽はともかく、姉弟がいることが羨ましく思えてならなかった。

 

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