進水式・イメージ・・陸奥ではない
進水式
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今日を晴と滿艦飾をほどこされたる三萬四千噸の大戰艦陸奥は、
海を後にして悠然と横たはれり。
果もなくすみ渡りたる大空、
はなやかに流るゝ日の光、
場に滿ちたる十幾萬の拜觀者の胸には、
まさに始らんとする進水式の壯快なる光景を豫想して、
唯をどりにをどる。
折しも起る「君が代」の奏樂。
皇后陛下の臨御と共に、式は始りぬ。
海軍大臣の命令書朗讀、
工廠長の進水命令、
續いて造船部長の指揮につれて吹く進水主任の號笛を合圖に、
着々と進み行く進水作業。
やがて工廠長のふりかざしたる金色の槌は、
二年間の苦心を此の一揮にこめて、
切斷臺上せつだんたいじょうの繫索けんさくをはつしと切る。
拜觀者の目は、一せいに艦にそゝがれぬ。
一秒又一秒、
七百尺に近き大船體は、寸、尺、間と音もなくすべり出づ。
艦首につるしたるくす玉ぱつとわれて、
紅白の紙片花ふゞきの如くに散る中を、羽音高く舞上る數羽の鳩。
拍手かつさい、
天地をとどろかす萬歳の叫、
勇壯なる軍樂の調、
工場といふ工場、
船といふ船の汽笛が一せいにあぐる歡呼の聲。
見る見る艦は速力を増して、白波高く海にをどり入る。
あゝ、海の戰士の勇ましき誕生。