1941年12月7日の朝、オーソン・ウェルズが全米向けラジオ番組で、詩を朗読していた。突然、番組が中断されて伝えられたのが、真珠湾攻撃だ。歴史的ニュースにもかかわらず、ほとんどの聴取者は信用しなかった。
理由はいうまでもない。3年前、ウェルズが手がけたラジオドラマ『宇宙戦争』によって、全米がパニックに陥ったことを、知らぬ者がなかったからだ。もっとも番組の冒頭では、ドラマだとことわっていた。
たまたま、他局の人気番組のゲストが、人気のない歌手だったために、数百万人もの聴取者が、ウェルズの番組に途中からダイヤルを合わせた。ドラマだと知らない多くの人が、火星人襲来を伝える“臨時ニュース”に、腰を抜かしたというわけだ。
ウェルズが、それを予期していたのかどうかは、わからない。13日夜、グルジアの政府系テレビ局「イメディ」の流した偽のニュースは、もっと悪質だった。ロシア軍が首都トビリシに侵攻し、サーカシビリ大統領を殺害した、との内容を30分間にわたって放映した。
「仮想シナリオ」だと釈明したのは番組の後だったという。2年前の8月に起こった、ロシアとの軍事衝突の記憶が生々しく残る市民が、パニックに陥ったのは当然だ。救急車の出動要請が相次ぎ、兵士の母親がショックシしたとの情報もある。野党側は、シナリオを書いたのは大統領、と批判するが、真相はわからない。
ウェルズは、一時は騒動の責任を問われたものの、才能を買われてハリウッド入りを果たす。『市民ケーン』で、製作、監督、脚本、主演の4役をこなし、世間を再びアッと言わせた。グルジアの偽ニュース事件の方は、誰が黒幕にしろ、ハッピーエンドにはなりそうにない。
産経抄 産経新聞 3/16
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