「日本人の苦手な習慣」徹底した議論の末に結論を出す・・・ 産経抄 八葉蓮華
陳腐だと叱(しか)られるかもしれないが、裁判員制度のこととなると、どうしても米映画『十二人の怒れる男』を思い出す。殺人容疑の少年をめぐり、陪審員に選ばれた人たちが密室状態で有罪か無罪かの議論をする。異色の裁判映画だった。▼日本の裁判員制度でもそうするらしいが、互いに見ず知らずの陪審員たちは番号で呼ばれる。有罪で早く片づけたい他の陪審員に対しヘンリー・フォンダの「8番」だけが無罪の可能性にこだわる。息詰まるような議論を経て、とうとう12人全員一致で無罪の評決を出すのだ。 ▼その結論より印象に残っているのがラストシーンである。議論で最も激しく対立した「3番」と「8番」とが、すべて終わり裁判所を出たところで初めて名乗り合い、握手して左右に別れる。戦後の日本ではなじみの薄い陪審制度とはそんなものかと思った記憶がある。 ▼この陪審制度にならった日本の裁判員制度が半年ほどでスタートする。全国で30万人近い裁判員候補には早ければ昨日あたり、通知が届いているはずだ。その中から来年の裁判員が選ばれる。「裁判員になれば仕事ができなくなる」と戸惑っている人も多いだろう。 ▼そうでなくとも、制度に対する理解度はまだまだのようだ。そもそも「素人」が凶悪事件を公正に裁けるのか。刑がこれまでより重くなるのか、軽くなるのか。それもやってみないとわからない。これほどベールに包まれたままの新制度というのも珍しい。 ▼ただ、現代人にとって、見知らぬ者同士がコミュニケーションを図る機会にはなるのかもしれない。徹底した議論の末に結論を出すという、日本人の苦手な習慣が身につく可能性だってある。「3番」と「8番」のドラマを少し期待してみたい。
産経抄 産経新聞 11/30
八葉蓮華 hachiyorenge
陳腐だと叱(しか)られるかもしれないが、裁判員制度のこととなると、どうしても米映画『十二人の怒れる男』を思い出す。殺人容疑の少年をめぐり、陪審員に選ばれた人たちが密室状態で有罪か無罪かの議論をする。異色の裁判映画だった。▼日本の裁判員制度でもそうするらしいが、互いに見ず知らずの陪審員たちは番号で呼ばれる。有罪で早く片づけたい他の陪審員に対しヘンリー・フォンダの「8番」だけが無罪の可能性にこだわる。息詰まるような議論を経て、とうとう12人全員一致で無罪の評決を出すのだ。 ▼その結論より印象に残っているのがラストシーンである。議論で最も激しく対立した「3番」と「8番」とが、すべて終わり裁判所を出たところで初めて名乗り合い、握手して左右に別れる。戦後の日本ではなじみの薄い陪審制度とはそんなものかと思った記憶がある。 ▼この陪審制度にならった日本の裁判員制度が半年ほどでスタートする。全国で30万人近い裁判員候補には早ければ昨日あたり、通知が届いているはずだ。その中から来年の裁判員が選ばれる。「裁判員になれば仕事ができなくなる」と戸惑っている人も多いだろう。 ▼そうでなくとも、制度に対する理解度はまだまだのようだ。そもそも「素人」が凶悪事件を公正に裁けるのか。刑がこれまでより重くなるのか、軽くなるのか。それもやってみないとわからない。これほどベールに包まれたままの新制度というのも珍しい。 ▼ただ、現代人にとって、見知らぬ者同士がコミュニケーションを図る機会にはなるのかもしれない。徹底した議論の末に結論を出すという、日本人の苦手な習慣が身につく可能性だってある。「3番」と「8番」のドラマを少し期待してみたい。
産経抄 産経新聞 11/30
八葉蓮華 hachiyorenge