「洗面器みたいな、でっかい器でカツ丼を出す店がある」。そんなうわさを聞き、奈良市奈良阪町の「国境食堂」を訪れた。近鉄高の原駅から東へ車で10分ほど進むと、かわらぶきの建物。扉の前には「奈良と京都の国境」と書かれたのれんがかかっている。

 店に入ると「おーっ」と驚く声が聞こえた。知人と5人で訪れた日本社会事業大学4年生の孫宜燮(ソンウイソプ)さん(28)=東京都新宿区=の前に、カツ丼(大)が置かれた。税別で960円。

 直径約25センチの器に米が2合。その上に約200グラムの豚ロースカツ2枚が盛られ、卵3個でとじてある。思い切りほおばる孫さん。「カツはやわらかいし、脂っこくない。多いけど、いけそうです」。しばらくして平らげた。

 ログイン前の続き食堂でパートとして20年以上働く吉岡浩美さん(51)が教えてくれた。「だしが米にしみこんでいるから、ずっしりきますよ。でも、頼む人は8割くらいが完食しますね」。わざわざ大盛りカツ丼に挑もうと食堂を訪れる人が多いそうだ。

 国境食堂は、店主の京田秀一さん(71)の父、秀次さん(故人)が1978年に開店した。名前の由来は店の近くに府県境があること。メニューはうどんや丼モノが中心で、当初から盛り付けは多め。ゴルフ帰りの客が多かった。

 近くに遊園地「奈良ドリームランド」があったころは家族連れも見えたが2006年に閉園。客足が減った。そのころ、店主の秀一さんが「なにかびっくりするようなもんを」とカツ丼(大)を考案した。インターネットで大盛りカツ丼を知った客が集まるようになった。店主の妻里美さん(69)は「いつの間にか大盛りの店みたいになっちゃったね」。

 カツ丼の味付けに使うだしは毎朝、里美さんがとる。地下約100メートルからくみ上げた水を使い、日高昆布に、じゃこ、かつおなどをブレンドしてとった、こだわりのだしだ。熱々を食べてほしいから、調理は注文を受けてから。「遅いと言う方もいはるけど、40年近くずっと同じやり方。それが一番おいしいですから」と里美さん。

 記者もカツ丼(大)に挑んだ。器はずっしりと重いが、卵がからんでしっとりしたカツのおいしさで米が進む。10分ほどで半分まで食べた。そこからが進まない。60分ばかり丼と向き合ったが、食べきれなかった。

 里美さんは笑いながら「若いのにねえ。食べなきゃ」。自信のない方は、半分ほどのカツ丼(税別780円)をいただきましょう。

 午前11時~午後10時(午後9時半ラストオーダー)。問い合わせは国境食堂(0742・22・8725)。