自動車のボディーで、鉄の代わりに「炭素繊維」や石油からつくった「樹脂」が使われ始めた。各国が燃費の基準を厳しくするのを見こし、車体を軽くして燃費をよくしたり、走りをよくしたりするためだ。化学メーカーも開発に力を入れており、今後は量販車にも広がっていきそうだ。

 ダイハツ工業が6月に売り出した軽自動車のスポーツカー「コペン」は、ドア部分を除いて外板(ボディー表面の板)のほとんどが樹脂でできている。車の骨格部分で安全性を保てるよう設計し、実現した。燃料タンクも樹脂製で、鉄だけでつくるより車の重量は10キロ近く軽くできたという。

 ダイハツは、昨年10月にモデルチェンジした軽自動車「タント」でも、後ろにあるハッチバックのドア部分を樹脂にして軽くした。

 樹脂を使うねらいは、車を軽くすることだ。軽くなればより少ないエネルギーで走れるようになるため、燃費が良くなる。自動車メーカーはエンジンなどの性能と同じように、車を軽くすることも競っている。

 高額な材料を使うことができる高級車では、鉄より10倍は丈夫とされる炭素繊維が使われ始めた。重さは鉄の4分の1だ。

 イタリアのランボルギーニが日本で7月に売り出した新型スーパーカー「ウラカン」(消費税抜き2750万円)はボディーなどに炭素繊維を使い、重量をこれまでより1割軽くした。ステファン・ビンケルマンCEO(最高経営責任者)は「ここ5~10年で、自動車の素材には革命が起こるだろう」という。

 炭素繊維は鉄の数十倍のコストがかかり、量産が難しいとされた。日本の化学や繊維メーカーは、できるだけ安く量産するための研究や開発を進めている。

 ドイツのBMWが日本で4月に売り出した電気自動車(EV)「i3」(同499万~546万円)は、量販車で初めて骨格に炭素繊維を使い、外板は樹脂にした。重量は、サイズがほぼ同じ日産自動車のEVリーフに比べて約200キロ軽い1260キロになった。

 BMWに炭素繊維を売り込んだのは、三菱ケミカルホールディングス傘下の三菱レイヨンだ。強度を保ちながら、炭素繊維を効率よく加工できるようにして価格を下げた。

 三菱ケミカルの小林喜光社長は、「航空機向けでは(ボーイング787に採用された)ライバルの東レに遅れた。自動車を強化する」と意気込む。今後2年間で、この材料の製造能力を今の2・5倍に増やす。

 帝人も米ゼネラル・モーターズ(GM)と組み、外板に使う炭素繊維の開発を急いでいる。板の形をつくるのに10分近くかかっていたのを1分ほどに短縮するなど、生産効率を上げてコストを下げる。

 鉄鋼メーカー側は、すでに高級車のボディーや足回りなどに使われているアルミで対抗する。神戸製鋼所は2016年に中国・天津で、17年に北米で、自動車向けアルミ外板の生産を始める計画だ。鉄とアルミを組み合わせた商品を開発するため、社内に専門の研究チームもつくった。