トヨタ自動車は、ガソリン1リットルあたりの燃費が40キロの次期プリウスを12月に発売する。最高水準の燃費に加え、きびきびした走りでもハイブリッド車(HV)をアピールする。独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正でライバルのディーゼル車がつまずく中、海外でも普及が進むのか。

 「本年12月、プリウスは生まれ変わる」。13日、トヨタは4代目プリウスを日本で初めて東京でお披露目し、開発担当の豊島浩二チーフエンジニアが胸を張った。

 威信をかけた看板車種の燃費は1リットルあたり40キロ。モーターなどの部品を軽くして、現行プリウスの32・6キロから2割引き上げた。

 ログイン前の続きトヨタのより小型のHV「アクア」や、スズキの軽自動車「アルト」などの37・0キロに首位を明け渡していたが、6年半ぶりの全面改良で、主にガソリンで走る車として国内最高の座を奪い返す。

 トヨタはこれまで地球に優しいイメージを強調するため、HVなどのエコカーは青いボディーでお披露目するのが通例だった。ところが、この日の車は赤。車の構造全体を見直して重心も数センチ低くし、より安定して曲がれるようにもした。「エコだけでなく車本来の性能もアピールするため」(幹部)だ。

 価格は12月の発売日にあわせて公表する予定。海外でも、米国を手始めに来年から順次発売していく。

■高価、新興国では苦戦

 トヨタが、燃費のよさだけでなく、車の性能も強調するようになったのは訳がある。「エコというだけでは、価値を見いだしてもらうのが難しくなってきた」(豊島氏)からだ。

 HVは1997年にトヨタが初代プリウスを発売し量産の口火を切った。今では欧米勢を含む10社が国内でHVを売り、14年に売れた新車販売台数の3割超を占める。国内ではエコカーの代表格に躍り出た。

 だが、世界市場全体では少数派だ。14年の世界全体の生産台数に占める割合はわずか2%。日本独自で進化した「ガラパゴスエコカー」とも揶揄(やゆ)される。

 HVはブレーキ時に捨てていたエネルギーで発電してモーターを回し、走行を補助する。このため、日本のように渋滞が多く加速や減速を繰り返す国ではメリットが大きいが、長距離を高速で走り続けることが多い欧米の郊外では小さい。

 電池やモーターなど高額な部品を使うため、価格が高いのも欠点だ。このため、所得水準が低い新興国では苦戦中。中国とタイでのプリウスの生産は、現地での販売不振も背景に今年に入って打ち切った。原油の値段が安くなって燃料代の節約効果が薄まっており、「HVが急速に売れなくなっている」(トヨタ幹部)という。

■世界の目は「HVの次のエコカー

 「VWによるディーゼル車のスキャンダルの真の勝者は誰か? それはHVだ」

 エコカー激戦地、米カリフォルニア州の雑誌「ワイアード」は、こう書いた。VWの排ガス不正問題が発覚した直後の9月下旬のことだ。「ディーゼル車の排ガスはもう汚くない」としてきたVWの主張が「台無しになった」と見る。

 VWの不正を受け、排ガス規制の強化に向けた検討が各国に広がる。野村総合研究所の風間智英氏は「規制が強まれば対応の費用がかさみ、ディーゼル車は不利になる」。HVの14年の世界生産はディーゼル車の10分の1。ライバルの不祥事は、HVに思わぬ追い風になる可能性がある。

 ただ、争っているのはディーゼル車だけではない。電気自動車(EV)の「リーフ」に力を入れる日産は今年、一回の充電で走れる距離を2割長い約280キロに伸ばした。電池切れという弱点を小さくする。

 VWは20年までに、EVとプラグインハイブリッド(PHV)を合計で20車種以上売り出す計画だ。燃料電池車(FCV)も、昨年末のトヨタに続き、来春にはホンダも市販する予定。

 世界の目は「HVの次のエコカー」に向き始めている。米カリフォルニア州は17年から各メーカーに販売を義務づけるエコカーの種類から、HVを除いた。

 みずほ銀行産業調査部の斉藤智美氏は「地域や使い方で適したエコカーは違う。一つに集約されず、複数のエコカーで競争し合うことになる」とみる