扉を開けると、左側に靴箱があり右側にはシャワールームがある。
その斜め前には、小さなキッチン。その向かいにトイレがあり、
もう一つ扉を開けると奥はワンルームの部屋がある。
いわゆるワンルームマンションである。
しかもとても小さい。
わたしがここに引っ越してきたのには理由があった。
長年の夢だった一人暮らし。
60歳になったら南の土地で一人暮らしをするということ…
マンションの決め手は家賃と窓を開けると海が見えること。
最近のマンションはありがたいことに
家具、電化製品一式が備え付けである。
買うものといったら、ニトリや100円ショップで小物を揃える程度。
2万円もあれば十分揃う。
ベットはウオーキングクローゼットの上にあり
テーブルも小さいながら2個あり、パソコンもテレビも見えるようになっている。
”ちいさいおうち” どこかで聞いたことのあるフレーズ。
案外快適である。
60歳になったが、引っ越しをして直ぐ仕事を始めた。
といっても、ボランティアのような仕事である。
9時から4時位で、マンションの支払いと食費で消えていく位の給料を貰っている。
本当はボランティアでも良いのだが
それでは家賃が払えないので給料を貰っているといった感じだ。
子どもは、巣立っていった。
子どもが成長したら、自由に気ままに暮らそうと決めていた。
今でも仕事につけているのは、子どもたちがわたしに
働くことを許してくれていたからだと思う。
この暖かな土地で、これから暮らしていくのだ。
引っ越しをした日、荷物を片付けて、珈琲を飲んでいた時だった。
ピンポーンとインターホンがなった。
わたしは、こんな時間に誰だろうと思いながら扉を開けた。
そこには、小さな生き物がいた。
わたしは自分の目を疑った…
以前、一緒に住んでいたモグモグだった…
何十年前だったのか、定かではないがすごく仲良く暮らしていた。
怪獣モグモグ…
いつだって一緒にいた。
でも満月の夜、旅に出ると言ったまま帰ってこなくなった…
必ず朝には帰ってきていたのに、その日の朝は帰ってこなかった。
1週間経っても1ヶ月経っても1年経っても、帰ってこなかった。
そのモグモグが今眼の前にいるのだ。
わたしは、直ぐに家に入れた。
その日は、何も聞かずに一緒の布団で眠ったのだった。