二宮正治の短編小説 ジョージの涙（ぼくは日本人だ）第９回

「今からは、日本で暮らすんねえ」
　マキの言葉に、
「うん、日本人じゃけえ当然じゃろう」
　とジョージが言葉を返した。
しばしの沈黙の後、ジョージが口を開いた。
「マキちゃん、あんたあ私のお母ちゃんがどうしとるか知らんか」
　ジョージは呉の空を見つめてこう言うのである。
「和庄のほうでお好み焼き屋をしとっちゃった言うのは聞いとったけど。今はどうか」
　マキはこう答えた。
「その場所、一緒に行ってくれんかのう」
「ええよ」
　二人は和庄へと向かった。
「昔と変わらんのう」
「変わったよ」
「いいや、変わってない。今にも友達が現れてきそうじゃあ」
「あれがら五十年近い月日が経っとるんよ」
「ほいでも変わらん」
　二人の会話がはずんだ。
細い道にさしかかった時、ジョージは懐かしそうに、
「この道を上がると、和庄小学校じゃろう」
　とマキに聞いた。
「ほうよ」
　マキの返事に、
「やっぱり変わらんのう」
　とジョージは答えたのである。二人は五十年前に返っていた。