『書斎の競馬』元編集長のひとりごと

馬・車券歴40年以上50年未満。いつの間にかいい歳になった。

騎乗数に限界があるのか?

2006-09-19 17:40:48 | 競馬
先週ちょっと気になるコラムを目にしたので一言。東スポ日曜の清水成駿氏の人気コラムに「ここまで騎手の寡占化が進めば、そろそろ騎乗制限も考える時だろう」という一文があった。1日10鞍、11鞍といった騎乗は体力の限界を超えているから、地方競馬のように1日何鞍までという騎乗制限をせよということらしいが…

その理由としてひいている話が先々週の中山最終レースの安藤勝己の騎乗。
「(前略)単勝1.8倍のマイネルギルトに跨った安藤勝己。札幌から直行の46歳とはいえ“職人”と称された男にあの騎乗はない。ファンが生き残りをかける最終をナメちゃあ、末代までの不覚。うがった見方をすれば“一人時間差”であり善意に解釈すれば、すでに肉体の限界を超えていたことになる。(後略)」
これはずいぶん極端な見方である。
マイネルギルトはたしかに近況とか対戦相手を見ると不動の本命だったが、パドックを見ると玉袋が3倍くらいに膨れた完全な夏負け兆候が出ていて、走らなくともまったくおかしくない状態だった。
内田が乗ろうが豊が乗ろうがあれではたぶん無理、清水氏は3Fか4Fでパドックを見ておられるようだがその兆候にお気づきではなかったのだろうか。
夏場函館で3戦、札幌1戦という使い方を見て、状態を観察すると納得がいくはず、それでなけりゃ勝ち馬から10馬身も離されるわけはない。

騎手の体力、気力についても誤解されているところがあると思う
生涯通算9530勝、世界最多勝記録を持つラフィット・ピンカイJRは57歳まで米西海岸のトップジョッキーとして君臨した。
落馬事故で首の骨を折って引退を余儀なくされたが、事故がなければ前人未到の1万勝をも達成していたであろう。
それまで最多勝記録を保持していたビル・シューメイカーも57歳くらいまで現役だった。日本では60歳で引退した佐々木竹見が39092戦7153勝、地方競馬の騎乗制限は全盛期505勝(2384戦)した。
これらの記録は騎乗数が多かったからこそで、南関の騎乗制限(今は1日8鞍、当初は6鞍)は、表向きはともかく佐々木竹見が勝ちすぎたから生まれた制度で勝てない騎手にチャンスをという互助会発想だった。

いったい1日何鞍の騎乗が肉体的に可能なのかはよくわからないが、アメリカあたりでは昼間ニューヨークで乗って夜はニュージャージーのナイター、毎日15Rや16Rに乗る騎手はザラだ。
昼頃から12時間くらいは競馬場にいて、朝4時ころからは調教、まさに「From dark to dark」で1日中働きづめです。
疲労うんぬんなどという話は聞いたことがない。
女性騎手だって同じ、全盛期のジュリー・クローンだってそのくらいは乗っていた。
たしかデザーモだったと思うが、日本で重賞勝ってアメリカにトンボ帰りし、同日に重賞勝ったなんてことも何年か前にありました。
彼らの体力は常人以上だし、あくまで競走馬の扶助者だから数も乗れる。
インサイドワークも含めた技量がものいうわけだから、反射神経が劣化しない限りはかなりの高齢まで乗ることが出来ます。

それにJRA競馬は週2日(たまに先週のような変則はあるが)という特殊施行形態、たまに地方にいったって1鞍や2鞍、香港のぞく競馬先進国に比べれば楽な稼業です。
衰えて勝てなくなれば、有力馬の騎乗依頼は自然に減るだけの話。
一流騎手の騎乗を妙な規制で縛って、それこそ買える馬が買いづらくなるような事態になったら馬券の売上だって落ちますよ。

人気馬が飛んだからといって騎乗制限せよというのはあまりの短絡。
予想屋に対して12レースも予想するから当たらない、脳力の限界超えているから予想制限せよというのと同じような暴論に聞こえます。