キヤノンのEOS Rは有効約3,030万画素の35mm判フルサイズ(以下単にフルサイズと表記)CMOSセンサーを搭載したミラーレスカメラだ。
1987年に銀塩一眼レフカメラとして始まったEOS(EOS 650)は、2003年にデジタル一眼レフカメラ(EOS Kiss Digital)となり、2012年にはAPS-Cサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ(EOS M)となった。
ここ数年のミラーレスカメラの盛り上がりの中、「キヤノンはいつフルサイズミラーレスのEOSを出すのか?」という期待に誰もがヤキモキしていたもの。そんなキヤノンが満を持して発売したフルサイズミラーレスカメラのEOSが、今回紹介するEOS Rなのである。
ライバル
同クラスのフルサイズミラーレスカメラといえば、価格帯で考えて、ソニーのα7 III、ニコンのZ 6ということになるだろう。
すでに3世代目に突入している実績のソニー、初出ながらクオリティの高いニコン、といった違いこそ見られるが、保有するレンズ資産の問題などもあって、おいそれとブランドシフトできず悩んでしまうのが実際のところではないだろうか。
その点、EOS Rは、ユーザーが新たに同じEOSのフルサイズミラーレスカメラにシフトしやすいように設計されているところが上手いと思う。一眼レフEOSを使っていた人が、例えレンズを更新する必要に迫られても“やっぱりEOS”となるように作られているのである。
現実的に画質にどれほどの影響があるかは別として、同価格帯でありながら、2,000万画素代の同クラスカメラを尻目に、画素数を3,000万画素超えに設定してくるあたりも、キヤノンらしい粋な戦略といえるのかもしれない。
ボディデザイン
EOS Rのボディサイズは約135.8(幅)×98.3(高さ)×84.4mm(奥行)、重さ約580g(本体のみ)となっており、同じフルサイズの一眼レフEOSであるEOS 5D Mark IV(150.7×116.4×75.9mm、800g)やEOS 6D Mark II(144×110.5×74.8mm、685g)よりも大幅に小型・軽量化が図られていることが分かる。なお、奥行きが一眼レフカメラの両機よりも長くなっているが、これは後述する大型グリップによるもので、グリップを除いた厚みは圧倒的にミラーレス機であるEOS Rの方が薄くなっている。
一見した外観は、間違いなく銀塩時代から連綿と続くEOSのデザインを踏襲したものであるが、カメラ上面部の縁には目立ったエッジが施されており、歴代EOSやAPS-C判ミラーレスカメラのEOSとも異なる、EOS Rならではの特徴的なデザインを醸し出している。
これがEOSとしては小型な部類のサイズながら、これまでとは違う“新しいフルサイズミラーレスのEOSだぞ”ということを力強く主張しているようにも見え、どこか頼もしさすら感じてしまうものである。ボディはもちろん、信頼性の高い防塵・防滴構造だ。
操作部
カメラ上面右側(カメラを構えた状態で)のボタン・ダイヤルは、基本的に同社のEOSデジタル一眼レフカメラとよく似た配置となっている。シャッターボタン周りはEOSの象徴のひとつにもなっているスプーンカットとなっているため、指が素直にシャッターボタンに届き、なおかつ押し具合も極めて自然である。
細かなローレットが施されたメイン電子ダイヤルは金属製、その横に配置されたマルチファンクションボタンはEOS-1D XやEOS 5D Mark IVなどと同様の仕様となっている。カメラの基本的な操作系が同じなので、EOSデジタル一眼レフカメラユーザーがEOS Rに転向しても、大きな違和感を覚えることなく使うことができるだろう。
ただし、後ろ側から見るとボタン・ダイヤルの配列が、これまでとは大きく異なっていることに気づく。特に目につくのがカメラ上部に移動したサブ電子ダイヤルと、その中央部分に配置されたMODEボタンの存在。従来EOSデジタル一眼レフではカメラ背面に大きく配置されたサブ電子ダイヤルが特徴となっていたが、小型化による機動性を重視したであろうEOS Rでは上面に移され、なおかつカメラ上面左側にあった撮影モードダイヤルが廃止された代わりに、ボタンとなってこの位置に移されたものである。
しかしダイヤルの位置が大きく変わっても、操作性を損なうことがないのはさすがEOSといったところ。サブ電子ダイヤルはカメラ上面とほぼ面を合わせるようスタイリッシュに埋め込まれていながらも、親指が当たる部分には大きく切り込みが施されているため、ダイヤルを回すという操作に支障をきたすことはまったくない。また、MODEボタンは押すと同時に表示パネルに大きく現在の撮影モードが表示されるので、分かりやすく親切にな仕様となっている。キヤノン初のフルサイズミラーレスカメラに向けて、新しく配置された操作系ではあるが、自然に親指が届くという意味では、むしろこの新しい操作体系の方に馴染みやすさを感じる人も多いのではないだろうか。
さらに、キヤノンが「EOSの新操作部材」と銘打つマルチファンクションバーが搭載されていることにも注目したい。これはバーを左右にスライドする操作と、両端の「<」「>」部分をタップする操作で、撮影者が好みで割り当てた機能を簡単に設定できるという機能。AF、ISO、WB、動画撮影、ピント確認などの撮影設定や画像送り、機能ショートカットといったアクションを割り当てることが可能で、小型化する分だけ機能の搭載面積が減少してしまい、ひいては操作性が劣化しかねなくなるというミラーレスカメラの宿命を、見事に克服している。これも慣れないうちは使い方に戸惑うかもしれないが、EOS Rを使いこなすうえで非常に重要となる機能なので、ぜひ積極的に活用してもらいたい。
「割り当て機能」ということで、EOS R本体からやや脱線してしまうが、EOS Rシステム専用として作られた「RFレンズ」に実装された「コントロールリング」も、EOS Rの操作性を形成する上で重要な機能となっているので紹介しておきたい。
写真では、3つあるうちの最先端のリングがコントロールリングにあたり、見ての通りX格子状のローレットが施されるとともに特等席が与えられている。こちらにもマルチファンクションバーと同じく、使用頻度の高い好みの機能を割り当てることができるため、うまく活用すれば、サブ/メインの電子ダイヤルとともに3つのアプローチを駆使することで、いままでになく快適にカメラを操作することが可能となるわけだ。
なお、このコントロールリング機能は専用のRFレンズだけでなく、別売りの「コントロールリング マウントアダプター EF-EOS R」を介することで、EOSデジタル一眼レフカメラ用のEFレンズでも同様の操作性を実現できる。
移動したサブ電子ダイヤルとMODEボタン、マルチファンクションバーとコントロールリングの存在が示すように、EOS Rは被写体の確認やカメラ設定、撮影後の画像確認を一連の動作でできるミラーレスカメラの特長を活かすべく、ファインダー(EVF)を覗いたまま全ての操作が完了できるように作られている。そのためか、カメラ背面では左側のボタン類が廃され、右側にボタン類が集中するようになっている。
カメラ背面左側に配置された操作系は、電源スイッチとメニューボタンのみ。
機動性のための小型化を謳っていながら、グリップはEOSデジタル一眼レフカメラに勝るとも劣らない大きさと深さが確保されており、ホールディング性は現行各社のフルサーズミラーレスカメラと比べてもナンバーワンといって間違いないだろう。ともすると、EOS 5D系を上回り、EOS 1D系に迫るぐらい優れた握り具合を提供してくれているのではないだろうか。
小さく軽いことがミラーレスカメラの特長であるが、ラージサイズセンサーを搭載するフルサイズ機ともなると、「小さければそれで良いというものではないのだ」というキヤノンの意志が感じられるようでとても好ましく思える。
Fvモード
EOS Rには、撮影モードにEOSで初となる「Fvモード(フレキシブルAE)」が搭載された。ひとつの撮影モード内で、絞り優先AE(Av)、シャッター優先AE(Tv)、マニュアル露出(M)、プログラムAE(P)、またISOオートの設定を自由に素早く変更できるというもの。
サブ電子ダイヤルで目的の設定項目(絞り、シャッター速度、露出補正、ISO感度)を選択し、メイン電子ダイヤルを回せば任意で各パラメーターを変更できる。
全ての項目を任意で変更した状態はマニュアル露出であるが、目的の設定項目を選択して十字キーの上を押すとその項目はオートになる。シャッター速度を選んで十字キー上を押した場合はAvモード相当になり、絞りを選んで十字キー上を押した場合はTvモード相当になる、といった具合だ。
さらに、どのような状態からであっても、十字キー下を押すと全ての項目がオートとなる。つまりプログラムAE+ISOオートを瞬時に設定できるということだ。
文章で説明するとちょっと分かりにくいかもしれないが、実際に使ってみるとすぐに使い方を理解でき、なおかつ非常に便利な撮影モードであることに気づくだろう。
撮像素子と画像処理関連
撮像センサーは約3,030万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載している。このセンサーはキヤノンが自社で開発・生産しているところがポイントで、専用のRFレンズに対応した光学設計の最適化が図られている。また、映像エンジンには最新のDIGIC 8を採用することで、高画素なフルサイズ大型センサーが取得する膨大な情報量であっても、スムーズな高速処理を実現している。
そして、上記の撮像センサーを収めるマウントが、EOS Rシステムのために新しく開発されたRFマウントである。マウント口径は54mmとなっており、実のところこれは一眼レフEOSのEFマウントと同じだ。同じではあるのだが、そもそもEFマウントが大口径なのだから、RFマウントもやはり大口径ということなのである。同じ口径を採用したことで、EFレンズに対してRFレンズが必要以上に大型化することが避けられ、また光学性能を損なうような小型化をする必要もないということである。
EFマウントとの大きな違いは、ミラーレス構造によるショートバックフォーカスである。撮像センサーとレンズ最後部を近接して配置できるため、光学設計の自由度は格段に高くなり、結果としてRFレンズの性能を最大限に発揮させることが可能となるわけだ。
また、電子接点の数がEFマウントの8ピンから12ピンへと増加したことで、レンズとボディ間の通信速度が大幅に向上。デジタルレンズオプティマイザを始めとした光学補正をオンにしても、連写速度などカメラのスピードを落とすことなく撮影できるようになった。
撮像センサーを動かすボディ内手ブレ補正機構は非搭載であるが、撮像センサーの画像情報から検出したブレ量と、レンズ側の光学式手ブレ補正機構の制御を連携させることで、より高精度な手ブレ補正を可能としている(デュアルセンシングIS)。
AFシステム
EOS Rに搭載されている35mmフルサイズCMOSセンサーは、全画素が撮像と位相差AFの両方を兼ねるデュアルピクセルCMOSである。そのため測距可能エリアは非常に広く、画面の横88%×縦100%の範囲から自由にAFポジションを選択することが可能だ。ただし、横88%×縦100%のAFエリアは、RFレンズもしくは対応する現行EFレンズを使用した場合。非対応のEFレンズの場合でも横80%×縦80%のAFエリア内でAFが可能となる。
そして、前述の多点化した電子接点とDIGIC 8の高速処理能力が活かされていることもあって、非常に高速かつ高精度なAFが実現されていることは大きな特長のひとつだ。一眼レフEOSでもライブビュー時にはデュアルピクセルCMOS AFが可能であったが、それとEOS Rはまったく別物といって良いくらいスムーズで快適である。
連写性能
高速連続撮影時の連写速度は最高約8コマ/秒。ただしこれはAF動作がワンショットAF時の速度であり、動態撮影時に設定することの多いサーボAFでは、最高約5コマ/秒となる。
約3,030万画素のフルサイズミラーレスカメラとして考えれば、決して低い性能ではないが、やはり本格的に動きものを撮影したい場合は、EOS-1D X Mark IIやEOS 7D Mark IIなどの、連写性能に優れた一眼レフEOSに任せた方が現段階ではよさそうだ。
ファインダー
電子ビューファインダー(EVF)には、0.5型・約369万ドットの有機ELパネルが採用されており、映し出される映像は非常に滑らかで精細感が高い。環境に合わせた明暗などの自動調整機能も秀逸で、実際の撮影画像と違和感を覚えることが少ない優れた表示品質は、EVF内蔵のミラーレスカメラの中でもトップクラスだと思う。
マルチファンクションボタンやクイック設定ボタンを押すと、ファインダー内に主要な設定項目が表示されるため、ファインダーを覗いたままカメラの設定を調整することができる。明るい場所では見づらい背面液晶モニターだけでなく、ファインダーでも容易に設定変更ができるのは、一眼レフカメラにはないEVF内蔵ミラーレスカメラの長所といえるだろう。
マニュアルファンクションバーなどにピント拡大機能を割り当てておけば、フルサイズの浅い被写界深度であっても厳密なピント合わせが簡単・確実にできるところも、ミラーレスカメラのいいところだ
1987年に銀塩一眼レフカメラとして始まったEOS(EOS 650)は、2003年にデジタル一眼レフカメラ(EOS Kiss Digital)となり、2012年にはAPS-Cサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ(EOS M)となった。
ここ数年のミラーレスカメラの盛り上がりの中、「キヤノンはいつフルサイズミラーレスのEOSを出すのか?」という期待に誰もがヤキモキしていたもの。そんなキヤノンが満を持して発売したフルサイズミラーレスカメラのEOSが、今回紹介するEOS Rなのである。
ライバル
同クラスのフルサイズミラーレスカメラといえば、価格帯で考えて、ソニーのα7 III、ニコンのZ 6ということになるだろう。
すでに3世代目に突入している実績のソニー、初出ながらクオリティの高いニコン、といった違いこそ見られるが、保有するレンズ資産の問題などもあって、おいそれとブランドシフトできず悩んでしまうのが実際のところではないだろうか。
その点、EOS Rは、ユーザーが新たに同じEOSのフルサイズミラーレスカメラにシフトしやすいように設計されているところが上手いと思う。一眼レフEOSを使っていた人が、例えレンズを更新する必要に迫られても“やっぱりEOS”となるように作られているのである。
現実的に画質にどれほどの影響があるかは別として、同価格帯でありながら、2,000万画素代の同クラスカメラを尻目に、画素数を3,000万画素超えに設定してくるあたりも、キヤノンらしい粋な戦略といえるのかもしれない。
ボディデザイン
EOS Rのボディサイズは約135.8(幅)×98.3(高さ)×84.4mm(奥行)、重さ約580g(本体のみ)となっており、同じフルサイズの一眼レフEOSであるEOS 5D Mark IV(150.7×116.4×75.9mm、800g)やEOS 6D Mark II(144×110.5×74.8mm、685g)よりも大幅に小型・軽量化が図られていることが分かる。なお、奥行きが一眼レフカメラの両機よりも長くなっているが、これは後述する大型グリップによるもので、グリップを除いた厚みは圧倒的にミラーレス機であるEOS Rの方が薄くなっている。
一見した外観は、間違いなく銀塩時代から連綿と続くEOSのデザインを踏襲したものであるが、カメラ上面部の縁には目立ったエッジが施されており、歴代EOSやAPS-C判ミラーレスカメラのEOSとも異なる、EOS Rならではの特徴的なデザインを醸し出している。
これがEOSとしては小型な部類のサイズながら、これまでとは違う“新しいフルサイズミラーレスのEOSだぞ”ということを力強く主張しているようにも見え、どこか頼もしさすら感じてしまうものである。ボディはもちろん、信頼性の高い防塵・防滴構造だ。
操作部
カメラ上面右側(カメラを構えた状態で)のボタン・ダイヤルは、基本的に同社のEOSデジタル一眼レフカメラとよく似た配置となっている。シャッターボタン周りはEOSの象徴のひとつにもなっているスプーンカットとなっているため、指が素直にシャッターボタンに届き、なおかつ押し具合も極めて自然である。
細かなローレットが施されたメイン電子ダイヤルは金属製、その横に配置されたマルチファンクションボタンはEOS-1D XやEOS 5D Mark IVなどと同様の仕様となっている。カメラの基本的な操作系が同じなので、EOSデジタル一眼レフカメラユーザーがEOS Rに転向しても、大きな違和感を覚えることなく使うことができるだろう。
ただし、後ろ側から見るとボタン・ダイヤルの配列が、これまでとは大きく異なっていることに気づく。特に目につくのがカメラ上部に移動したサブ電子ダイヤルと、その中央部分に配置されたMODEボタンの存在。従来EOSデジタル一眼レフではカメラ背面に大きく配置されたサブ電子ダイヤルが特徴となっていたが、小型化による機動性を重視したであろうEOS Rでは上面に移され、なおかつカメラ上面左側にあった撮影モードダイヤルが廃止された代わりに、ボタンとなってこの位置に移されたものである。
しかしダイヤルの位置が大きく変わっても、操作性を損なうことがないのはさすがEOSといったところ。サブ電子ダイヤルはカメラ上面とほぼ面を合わせるようスタイリッシュに埋め込まれていながらも、親指が当たる部分には大きく切り込みが施されているため、ダイヤルを回すという操作に支障をきたすことはまったくない。また、MODEボタンは押すと同時に表示パネルに大きく現在の撮影モードが表示されるので、分かりやすく親切にな仕様となっている。キヤノン初のフルサイズミラーレスカメラに向けて、新しく配置された操作系ではあるが、自然に親指が届くという意味では、むしろこの新しい操作体系の方に馴染みやすさを感じる人も多いのではないだろうか。
さらに、キヤノンが「EOSの新操作部材」と銘打つマルチファンクションバーが搭載されていることにも注目したい。これはバーを左右にスライドする操作と、両端の「<」「>」部分をタップする操作で、撮影者が好みで割り当てた機能を簡単に設定できるという機能。AF、ISO、WB、動画撮影、ピント確認などの撮影設定や画像送り、機能ショートカットといったアクションを割り当てることが可能で、小型化する分だけ機能の搭載面積が減少してしまい、ひいては操作性が劣化しかねなくなるというミラーレスカメラの宿命を、見事に克服している。これも慣れないうちは使い方に戸惑うかもしれないが、EOS Rを使いこなすうえで非常に重要となる機能なので、ぜひ積極的に活用してもらいたい。
「割り当て機能」ということで、EOS R本体からやや脱線してしまうが、EOS Rシステム専用として作られた「RFレンズ」に実装された「コントロールリング」も、EOS Rの操作性を形成する上で重要な機能となっているので紹介しておきたい。
写真では、3つあるうちの最先端のリングがコントロールリングにあたり、見ての通りX格子状のローレットが施されるとともに特等席が与えられている。こちらにもマルチファンクションバーと同じく、使用頻度の高い好みの機能を割り当てることができるため、うまく活用すれば、サブ/メインの電子ダイヤルとともに3つのアプローチを駆使することで、いままでになく快適にカメラを操作することが可能となるわけだ。
なお、このコントロールリング機能は専用のRFレンズだけでなく、別売りの「コントロールリング マウントアダプター EF-EOS R」を介することで、EOSデジタル一眼レフカメラ用のEFレンズでも同様の操作性を実現できる。
移動したサブ電子ダイヤルとMODEボタン、マルチファンクションバーとコントロールリングの存在が示すように、EOS Rは被写体の確認やカメラ設定、撮影後の画像確認を一連の動作でできるミラーレスカメラの特長を活かすべく、ファインダー(EVF)を覗いたまま全ての操作が完了できるように作られている。そのためか、カメラ背面では左側のボタン類が廃され、右側にボタン類が集中するようになっている。
カメラ背面左側に配置された操作系は、電源スイッチとメニューボタンのみ。
機動性のための小型化を謳っていながら、グリップはEOSデジタル一眼レフカメラに勝るとも劣らない大きさと深さが確保されており、ホールディング性は現行各社のフルサーズミラーレスカメラと比べてもナンバーワンといって間違いないだろう。ともすると、EOS 5D系を上回り、EOS 1D系に迫るぐらい優れた握り具合を提供してくれているのではないだろうか。
小さく軽いことがミラーレスカメラの特長であるが、ラージサイズセンサーを搭載するフルサイズ機ともなると、「小さければそれで良いというものではないのだ」というキヤノンの意志が感じられるようでとても好ましく思える。
Fvモード
EOS Rには、撮影モードにEOSで初となる「Fvモード(フレキシブルAE)」が搭載された。ひとつの撮影モード内で、絞り優先AE(Av)、シャッター優先AE(Tv)、マニュアル露出(M)、プログラムAE(P)、またISOオートの設定を自由に素早く変更できるというもの。
サブ電子ダイヤルで目的の設定項目(絞り、シャッター速度、露出補正、ISO感度)を選択し、メイン電子ダイヤルを回せば任意で各パラメーターを変更できる。
全ての項目を任意で変更した状態はマニュアル露出であるが、目的の設定項目を選択して十字キーの上を押すとその項目はオートになる。シャッター速度を選んで十字キー上を押した場合はAvモード相当になり、絞りを選んで十字キー上を押した場合はTvモード相当になる、といった具合だ。
さらに、どのような状態からであっても、十字キー下を押すと全ての項目がオートとなる。つまりプログラムAE+ISOオートを瞬時に設定できるということだ。
文章で説明するとちょっと分かりにくいかもしれないが、実際に使ってみるとすぐに使い方を理解でき、なおかつ非常に便利な撮影モードであることに気づくだろう。
撮像素子と画像処理関連
撮像センサーは約3,030万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載している。このセンサーはキヤノンが自社で開発・生産しているところがポイントで、専用のRFレンズに対応した光学設計の最適化が図られている。また、映像エンジンには最新のDIGIC 8を採用することで、高画素なフルサイズ大型センサーが取得する膨大な情報量であっても、スムーズな高速処理を実現している。
そして、上記の撮像センサーを収めるマウントが、EOS Rシステムのために新しく開発されたRFマウントである。マウント口径は54mmとなっており、実のところこれは一眼レフEOSのEFマウントと同じだ。同じではあるのだが、そもそもEFマウントが大口径なのだから、RFマウントもやはり大口径ということなのである。同じ口径を採用したことで、EFレンズに対してRFレンズが必要以上に大型化することが避けられ、また光学性能を損なうような小型化をする必要もないということである。
EFマウントとの大きな違いは、ミラーレス構造によるショートバックフォーカスである。撮像センサーとレンズ最後部を近接して配置できるため、光学設計の自由度は格段に高くなり、結果としてRFレンズの性能を最大限に発揮させることが可能となるわけだ。
また、電子接点の数がEFマウントの8ピンから12ピンへと増加したことで、レンズとボディ間の通信速度が大幅に向上。デジタルレンズオプティマイザを始めとした光学補正をオンにしても、連写速度などカメラのスピードを落とすことなく撮影できるようになった。
撮像センサーを動かすボディ内手ブレ補正機構は非搭載であるが、撮像センサーの画像情報から検出したブレ量と、レンズ側の光学式手ブレ補正機構の制御を連携させることで、より高精度な手ブレ補正を可能としている(デュアルセンシングIS)。
AFシステム
EOS Rに搭載されている35mmフルサイズCMOSセンサーは、全画素が撮像と位相差AFの両方を兼ねるデュアルピクセルCMOSである。そのため測距可能エリアは非常に広く、画面の横88%×縦100%の範囲から自由にAFポジションを選択することが可能だ。ただし、横88%×縦100%のAFエリアは、RFレンズもしくは対応する現行EFレンズを使用した場合。非対応のEFレンズの場合でも横80%×縦80%のAFエリア内でAFが可能となる。
そして、前述の多点化した電子接点とDIGIC 8の高速処理能力が活かされていることもあって、非常に高速かつ高精度なAFが実現されていることは大きな特長のひとつだ。一眼レフEOSでもライブビュー時にはデュアルピクセルCMOS AFが可能であったが、それとEOS Rはまったく別物といって良いくらいスムーズで快適である。
連写性能
高速連続撮影時の連写速度は最高約8コマ/秒。ただしこれはAF動作がワンショットAF時の速度であり、動態撮影時に設定することの多いサーボAFでは、最高約5コマ/秒となる。
約3,030万画素のフルサイズミラーレスカメラとして考えれば、決して低い性能ではないが、やはり本格的に動きものを撮影したい場合は、EOS-1D X Mark IIやEOS 7D Mark IIなどの、連写性能に優れた一眼レフEOSに任せた方が現段階ではよさそうだ。
ファインダー
電子ビューファインダー(EVF)には、0.5型・約369万ドットの有機ELパネルが採用されており、映し出される映像は非常に滑らかで精細感が高い。環境に合わせた明暗などの自動調整機能も秀逸で、実際の撮影画像と違和感を覚えることが少ない優れた表示品質は、EVF内蔵のミラーレスカメラの中でもトップクラスだと思う。
マルチファンクションボタンやクイック設定ボタンを押すと、ファインダー内に主要な設定項目が表示されるため、ファインダーを覗いたままカメラの設定を調整することができる。明るい場所では見づらい背面液晶モニターだけでなく、ファインダーでも容易に設定変更ができるのは、一眼レフカメラにはないEVF内蔵ミラーレスカメラの長所といえるだろう。
マニュアルファンクションバーなどにピント拡大機能を割り当てておけば、フルサイズの浅い被写界深度であっても厳密なピント合わせが簡単・確実にできるところも、ミラーレスカメラのいいところだ