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「国債60年償還ルール」解題2022年12月9日 飯田泰之

2023-01-17 15:55:01 | 連絡
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経団連のシンクタンク21世紀政策研究所より政策提言報告書「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」で大いに話題になったのが,
会田卓司氏
 

の「ワニはいませんでした」論です.
 
要約すると,日本の一般会計では歳出に「債務償還費」,歳入に「借換債」を含めている.多くの先進国ではこのような予算の表記を行っていない.どうせ借換をする償還についても予算に明示していることで「公債費」と「公債発行額」がともに過大に見えてしまっている.
借換をする債務の償還費を除くと,「歳入・歳出のワニの口」なんて存在しないよというもの.
 この話のミソになるのが,国債の「60年償還ルール」.
今回は60年償還ルールの解説,このルールが無意味であること,一方で60年償還ルールがなくなっても劇的に何かが変わるわけでもない(ない方がましではある)ことなどを説明します.
〇60年償還ルールと定率繰入
国債の60年償還ルールとは,読んで字のごとく・・・発行した国債は60年かけて償還していくという慣習です.
「ルール」とは読んでいますが,何か法的な根拠があるものではありません.
例えば,
2000年に600億円の十年物国債を発行して財政支出を行ったとします.
①まずは制度理解のため,日本政府はこの600億円分の十年債以外の国債以外の債務を保有していないと仮定して話をすすめます.
2010年に600億円の国債の償還期限が来ますが・・・この際,600億円の国債を償還すると同時に500億円の借換債を発行する(正味の償還額は100億円)とする.これが第一段階
この借換債も十年物国債だとしましょう.
すると
2020年に償還期限が来る.
このとき,500億円の借換債を償還すると当時に400億円の(再)借換債を発行する.ここでも正味の償還額は100億円
このように10年ごとに10/60=1/6ずつ償還することで
2000年発行の国債は
2060年に事実上の償還を終えるというわけ.  
会計に詳しい人は減価償却の直線償却(定額償却)っぽいと思われたかもしれません.
実は60年償還ルールは「減価償却っぽい」というよりも「そのもの」の発想で出来ています.
(図2-19)借換債による公債償還の仕組み「60年償還留ルール」
<下記
URL
参照
 
なお,3年債の場合は満期の際に95%借り換えて,正味5%だけを償還することになります.
 財務省では発行時期・年限の異なる様々な国債についてひとつひとつ上記の計算を行って「償還」を進めています.
この「正味の償還」の原資はどこから来るか.国債償還を司るのが国債整理基金特別会計です.
毎年の国債残高の1.6%(≒1/60)が一般会計から組み入れられることになっています.
これを定率繰入といいます.
上の例だと,最初の10年は600億円の1.6%にあたる9.6億円/年が国債整理基金特別会計に積立されて,10年目に96億円償還するというわけ.
※実際は前々年度末の国債残高の1.6%なので最初の2年は少し数字が変わるのですがマジで細かい話なので捨象します。
あれ? 正味の償還額100億円なのに4億円足りなくね? 
さらに「国債残高の1.6%」のため,国債残高が減っていくと「残高の1.6%」の額も低下していきます.
2050年~60年に至っては,国債残高は100億円なので年間積立額は1.6億円(10年で16億円)・・・なのに償還額に84億円(=100億円ー16億円)足りません
そして不足額は一般会計から別途繰り入れます.
あのさぁ!!債務の償還は直線法(定額法,10年ごとに100億円償還)なのに償還費の積立は定率法(前々年残高の1.6%)なんて計算が合うわけない.
そして結局不足額は別途一般会計から支出する……ならそもそもこの定率繰入ルール自体が無意味です(いや,それ以前に60年ルール自体が無意味なんだけどそれは後述).
 ここからも,そもそもこれらのルールは「何か論理的な意味があって存在する」わけではなく,「なんとなくそれっぽい数字を並べて権威付けしているだけ」というのがわかります.
 財政関連ってこの手の「無駄な作法」がやたら多いんです.
例えば,徳川幕府では会計を米方(米の収支)と金方(金銀の収支)にわけていましたが,両者の間には謎の繰り入れルールが入り乱れ……
この手の「お作法」って何のためにあるのか.正直,ールを複雑化して政治家(江戸期なら将軍・老中)が官僚の仕事に口出しできないようにするために存在するんじゃないかしら.いわば実務官僚の「お仕事の知恵」「処世術」と言ってよいのかもしれない.  
〇特例公債と60年ルール
なお,60年ルールが「60年」なのは一応は理屈があります.
国債を発行してインフラ整備をするとしましょう.
橋や道路といったインフラの平均耐用年数は60年ほどです.
 耐用年数が過ぎるまでに債務の返済を終えるようにすれば「インフラという資産」と「国債という負債」が釣り合った状態が維持できるというのが60年ルールの根拠.
つまりは60年ルールを厳密に守っていれば,政府のバーンスシートにおいて「資産」と「負債」は一致することになるわけです.
 勘のよい方は気づかれたかもしれませんが……特例公債について上記の論理は全くあてはまりません.
特例公債(赤字公債)は何らかの資産を作る負債ではないのです.
そのため,資産・負債バランスも何もない.
現時点の国債残高の内,過半が特例公債なわけですから60年ルールを支える(一応の)理屈は完全に崩壊しています. 
そもそも60年ルールは1966年
<
1964年11月9日- 1967年2月17日
>
の建設国債発行の頃に始まった仕組みです.
そして,当初は建設国債のみに適用されるルールでした.
建設公債に適用するという話ならまぁわかる
しかし,このルールは2004年
<
2003年11月19日- 2005年9月21日
  • 第2次小泉内閣
  • 改造内閣

>

に唐突に特例公債にも適用されるようになります.
その経緯は不明です
ここで「公債費を大きく見せかけたい」というインセンティブがあったのか,それとも国債整理基金特別会計の規模を大きくしたいという野望が達成されたのか……その理由はわかりません.
ちなみに,この60年ルールが適用されない国債もあります.
典型的なモノが復興債です.
こちらは償還が復興特別増税に紐付けされています.
なお,不足時は借換と一般会計繰り入れを行うので……この紐付けも実体的な意味はない「お作法」にすぎません.
 現在話題になってる防衛費について,「復興税・復興債に似た仕組みですすめる」との首相や財務省の意向が漏れ伝わります.
「似た仕組み」というのは防衛国債を発行し,その償還と防衛税?を紐付けするという意味です.
〇君の国債は建設債?特例債?
財務省の国債管理は何かと「国債に色をつけ」たがります.これは建設国債だから60年ルールで,復興債だから別のルールで……みたいな.
 しかし! みなさん建設国債って見たことありますか? 
みなさんがお持ちの個人向け国債は建設債?特例債?
 金融商品としては建設国債・特例国債という区別はありません.
全部が全部「日本国債」です.
教育国債とか防衛国債とか……いろんな提言をする人がいますが,「教育国債」という国債が発行されるわけではないんです.
あなたが国防に高い関心を持っていたとしても「防衛国債」を買うことは出来ません.
買うことが出来るのは「第○○○回債」という名前の債券でしかありません.
・市場では債券の種類を区別することは出来ない(そもそも区別されていない)
・財務省による形式的な債券区分によって償還ルールが違う
・この状況を,他ならぬ財務省自身が問題視していない
のです.
ということは……償還ルールは日本の財政への信任とは無関係であり,それを財務省自身もわかっているということではないでしょうか. 
 ここから60年ルールの継続は,やっぱり,財政状況を悪く見せかけるための小手先のツールに過ぎないのではないかという疑いはさらに強まります.
財務省自身も十分理解している無意味ルールなのですから,別になくなってもいいんじゃないかと思うけどなぁ. 



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