地下鉄が地上に出る瞬間、わたしは途方もなく先の未来に思いをはせる。K駅からA駅への途中、電車は地上に出る。携帯が震える。こころも震える。
「Kー、Kー」アナウンスが入る。わたしは子供みたいに背筋をのばす。さあ、外に出る。永遠のように感じられた暗闇から、希望に満ちた外界へ抜け出すんだ。
電車はK駅を発車した。気がつくと、わたしが乗っている車両には、わたしと、丸々と太った携帯に夢中の少女しかいなかった。
ところが、だ。いつまで背筋をのばしていても、一向に地上にのぼる気配はない。あれ?どうしたんだ?
アナウンスが入る。
「次は、白昼夢、白昼夢です」
白昼夢?わたしは恐ろしくなって、となりの車両へと移動し、先頭の車両までいこうとした。ところが。そこには誰もいないのだ。運転席はスモークガラス。
もう一度もとの車両に戻る。あきらかに太り気味な少女が顔をあげる。
わたしの子供のころと、同じ顔をしていた。
そういえば、あの子の着てる、トレーナー持ってたぞ。ワッペンがいっぱいついたジーンズも。
「ねえ、ユキ」
自分の名前をかけてみる。
「なあに、ユキ」
自分の名前がかえってくる。
「この電車はなんなのよ!」
「あんたは夢の世界に行くんだよ。よかったじゃない」
気がつくとその車両は過去のわたしであふれていた。小学生の、中学生の、あるいは幼稚園児のわたしが。
そして電車は相変わらず地下を走っている。
「まもなく白昼夢、白昼夢です」
冷酷にすら聞こえるアナウンス。怖いからとりあえずおりてみよう。
そこは異様な駅だった。霧がたちこめているのだ。そして手探りで外へでる階段をさがす、すると、
「ねえ、ユキ」
「ねえ、ユキ」
「あー、あー」
さまざまな年齢のさまざまな声でわたしを呼びかけるわたしの群れ。どうやらみんなおりたようだ。
「ここはどこ?ねえ、どこ?」
わたしは半狂乱になって叫ぶ。でも聞こえるのはわたしを呼びかける声だけ。
「わかった。白昼夢っていうぐらいだから夢なんでしょ。そうだ。起きよう。えい、えい、えい」
そんなことをしたって無駄だ。肌にふれる空気の感じ。確かな足の裏の感触。認めたくないけど、これは現実、だよ、ねえ?
わたしは増え続ける。いつの間にか年老いた声も混じっている。でも何も見えない。
これはなに?
ぶ
す
り。
何かが胸に刺さった。痛くはない。貫通した感触はあるが。霧のなかじっと見つめるとそれはえんぴつだった。長い長いえんぴつだった。
えい、と抜く。わたしの胸から黒い煙があがり始める。煙と霧が入り混じる。
めまいがする。落ち着こうとして、眩暈、という漢字を思い浮かべる。
だめだ。倒れる。
そこにやっとわたし以外の言葉が混じる。それはどこか懐かしいような男の声だった。
「白昼夢へようこそ。君は君を捨てることはできない」
「Kー、Kー」アナウンスが入る。わたしは子供みたいに背筋をのばす。さあ、外に出る。永遠のように感じられた暗闇から、希望に満ちた外界へ抜け出すんだ。
電車はK駅を発車した。気がつくと、わたしが乗っている車両には、わたしと、丸々と太った携帯に夢中の少女しかいなかった。
ところが、だ。いつまで背筋をのばしていても、一向に地上にのぼる気配はない。あれ?どうしたんだ?
アナウンスが入る。
「次は、白昼夢、白昼夢です」
白昼夢?わたしは恐ろしくなって、となりの車両へと移動し、先頭の車両までいこうとした。ところが。そこには誰もいないのだ。運転席はスモークガラス。
もう一度もとの車両に戻る。あきらかに太り気味な少女が顔をあげる。
わたしの子供のころと、同じ顔をしていた。
そういえば、あの子の着てる、トレーナー持ってたぞ。ワッペンがいっぱいついたジーンズも。
「ねえ、ユキ」
自分の名前をかけてみる。
「なあに、ユキ」
自分の名前がかえってくる。
「この電車はなんなのよ!」
「あんたは夢の世界に行くんだよ。よかったじゃない」
気がつくとその車両は過去のわたしであふれていた。小学生の、中学生の、あるいは幼稚園児のわたしが。
そして電車は相変わらず地下を走っている。
「まもなく白昼夢、白昼夢です」
冷酷にすら聞こえるアナウンス。怖いからとりあえずおりてみよう。
そこは異様な駅だった。霧がたちこめているのだ。そして手探りで外へでる階段をさがす、すると、
「ねえ、ユキ」
「ねえ、ユキ」
「あー、あー」
さまざまな年齢のさまざまな声でわたしを呼びかけるわたしの群れ。どうやらみんなおりたようだ。
「ここはどこ?ねえ、どこ?」
わたしは半狂乱になって叫ぶ。でも聞こえるのはわたしを呼びかける声だけ。
「わかった。白昼夢っていうぐらいだから夢なんでしょ。そうだ。起きよう。えい、えい、えい」
そんなことをしたって無駄だ。肌にふれる空気の感じ。確かな足の裏の感触。認めたくないけど、これは現実、だよ、ねえ?
わたしは増え続ける。いつの間にか年老いた声も混じっている。でも何も見えない。
これはなに?
ぶ
す
り。
何かが胸に刺さった。痛くはない。貫通した感触はあるが。霧のなかじっと見つめるとそれはえんぴつだった。長い長いえんぴつだった。
えい、と抜く。わたしの胸から黒い煙があがり始める。煙と霧が入り混じる。
めまいがする。落ち着こうとして、眩暈、という漢字を思い浮かべる。
だめだ。倒れる。
そこにやっとわたし以外の言葉が混じる。それはどこか懐かしいような男の声だった。
「白昼夢へようこそ。君は君を捨てることはできない」