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Mycoplasma genitaliumの耐性に応じた治療:前向き評価

2019-04-18 | 微生物:細菌・真菌

Tim R. H. Read, et al.

CID2019:6815 February 

背景 

Mycoplasma genitaliumは尿道炎を起こしたり、子宮頸管炎やPID、産科的outcomeの悪化に関係している。第一選択薬はAZMだが、感受性があっても10%以上は治療失敗となり、マクロライド耐性変異(MRMs23SrRNA遺伝子の20582059の位置)が生じる。治療後の耐性出現とそもそもの耐性変異の割合はわかっていない。マクロライド耐性は各国で50%を超えている。ストレプトグラミンプレスチナマイシンがマクロライド耐性の75%ほど治癒させることが示された。MOFXの治癒率2010年以前は100%、それ以降は89%と落ちている。HIV感染症の男性ではParCというキノロン耐性変異が、オーストラリアで1415%、アメリカで2740%、日本で47%検出された。

これに対応して、ヨーロッパ、イギリス、オーストラリアのガイドラインでは非淋菌性尿道炎の初期治療としてAZMDOXY(200㎎分27日間)に置き換えた。DOXYM.genitalium1/3しか治癒させないが、治療中に耐性を生じさせることはなさそうで、過去にマクロライドで治療をうけた場合より、DOXYのほうがoutcomeがよかった。M.genitalium感染では菌量が少ない場合により治癒しやすいという研究があるので、DOXYで菌量を少なくすることで、マクロライドにより効果を示すとも解釈できるかもしれない。

2016年にはマクロライド耐性は50%を超え、そのうち20%はキノロン耐性である。そのためメルボルンSexual health centre(MSHC)3段階法を導入した。まず、非淋菌性尿道炎・前立腺炎・子宮頚炎に対するAZMDOXY200㎎分2 7日間に変更する。つぎにM.genitaliumの検出と耐性検査を行い、23SrRNAにおける5つのMRMsを検索する。最後にマクロライド耐性に基づき、感受性があるものは高用量AZM合計2.5g(初日1g、翌日以降500㎎、合計4日間)を、耐性のものにはSTFX200㎎分27日間とした。AZM1gより1.5gの方がよいという先行研究がいくつかあったが、有意差を示せなかったので更に増量した。STFXMOFXよりMICが低く、MOFX耐性のいくつかの株に感受性を持つことから選択した。無症候性の保菌者もDOXY1週間治療した。治癒率90%を超え、マクロライド耐性を減らすことを目標にした。

方法

20166月~20175月。MSHCはメルボルン(450万人都市)STIsを治療する唯一の公的機関。症例は過去にAZM内服歴がないことを確認。耐性検査と確定診断はPCRで行った。同様の方法で治療の21-28日後(DOXY内服からは28-35日後)にPCRを行った。症状の持続、アドヒアランス、副反応、治療後の性行為、パートナーが治療したかをテンプレートに基づいて医師が確認した。56名の尿道炎の患者ではDOXYの菌量減少効果を調べた。2番目の抗菌薬投与前に尿を採取し、DOXY内服回数を確認した。マクロライドの治療前後の耐性も調べた。患者は治癒検査を2番目の抗菌薬開始の14-90日にうけ、未治療のパートナーとはコンドームを使用した性行為しかしないことを条件にincludeされた。治癒は治療前の再感染のリスクに基づいて分類された。

結果

429名が診断され、313(73%)が耐性結果に基づいたプロトコール通りに治療された。プロトコールに従わなかった主な理由は、診断時にAZMの治療がされた(淋菌の共感染など)か、キノロンが禁忌など。313名中49名は治癒確認の検査に来院せず、4名は14~90日後の間に来院しなかったため除外。残りの260名中16名が未治療または治療が完了していないパートナーとコンドームなしの性行為をしたため除外。最終的なStudy population244名。

治癒検査までの中央値は2番目の内服開始の28日後(22-35日)、2番目の抗菌薬開始の中央値は7日目(平均は8.5日)。症状は非淋菌性尿道炎45%、感染者との性行為が24%、全患者の75%が有症状。マクロライド耐性変異は167名(68.4%)に検出され、MSMでは87.1%でヘテロsexualな男性や女性(49.2%)と比較すると高かった。

治療アウトカム マクロライド感受性の患者77名はAZMを内服し、73名(94.8%)が微生物学的治癒、4名(5.2%)は失敗。失敗した4名中3名で治療後のサンプルからマクロライド耐性変異を認めた。1名は野生株で治療の40日後に検出されたが、アドヒアランスはよく、新しいパートナーとコンドームを使用して性行為をしていた。治療前の23SrRNA遺伝子のシークエンスを行うと、治療後に認めたMRMと同じものを1名で認めた。したがって、AZMで失敗したもののうち、selectionがあったのは2名(2.6%)のみだった。マクロライド耐性の167名はSTFXで治療され、微生物学的治癒は154名(92.2%)、13名は失敗(7.8%)だった。全体では93%が治癒した。治癒率は性行為のリスクグループや感染部位、症状ごとに差はなかった。

アドヒアランス、副反応 アドヒアランスは自己申告だとDOXY89.9%STFX90.8%、AZM100%。医師が確認するとDOXY88.9%STFX91%AZM81.8%。副反応の有無は91.8%に記録され、何もないものがDOXY86.6%AZM91.4%STFX80.5%だった。DOXYでは嘔気(5.4%)、下痢(4.9%)、AZMでは嘔気(5.7%)、STFXでは下痢(11.7%)、腱や関節痛(5.7%)が多かった。

菌量 56名の尿道炎の男性で、尿中の量をDOXY開始前と治療直後もしくは治療中に測定した。14回目のうち中央値13回目で測定した。39%で検出されず、50%で減少、11%で増加した。平均減少量は2.60log10で有意差を認めた。

Discussion

この研究はマクロライド耐性が2/3あり、20%はキノロン耐性の地域で行われたが、92%以上が治癒した。これはDOXYで初期治療を行い、マクロライド耐性に基づき次の抗菌薬を選択したことによって達成された。STI症候群の初期治療をAZMの代わりにDOXYで行うことには二つのメリットがある。ひとつはAZMの使用量を減らせること、二番目にはM.genitaliumの菌量を減らすこと。2番目の抗菌薬を開始するまでに菌量を減らすことが、治癒への大きな貢献につながり、マクロライドの耐性化を減らしたと推測する。STFXの価格が高いことを含め、プロトコールを実用化するためには追試験が必要。

これまでの複数のメタアナリシスでAZM1g単回投与の治癒率は耐性化のため年を追うごとに下がっている。今回DOXYで先に治療を行い、AZMの用量を増やしたことで、マクロライドの耐性化は減った。DOXYのためか、AZMの用量と治療期間を増やしたためかは不明。

耐性検出のPCRの感度にも依存する。実際4名の治療失敗例のうち1名はシークエンスで変異を認めており、PCRの偽陰性も考慮にいれる必要があるかも。

MSCH20122013年にParCキノロン関連耐性変異がマクロライド耐性M.genitalium20%に認めていたことを踏まえると、STFX群の結果は予想外によかった。MOFXではなくSTFXでよかった。STFXで治療失敗となった変異特定は行っている最中。

DOXYの初期治療が菌量を下げたが、コントロール群を用いた研究がさらに必要。

Limitation 介入が複数あったため、何かよい結果につながったかまでは不明。しかし、現在の推奨レジメンはかなり失敗率が高いので、治療のモニタリングを行いながら、さらなるデータが出るまでしばらくの間、今回のプロトコールを使用するのがよさそう。DOXYの菌量低下は男性の尿道炎でしか確認されていないので、他の感染部位や無症候性の場合にはあてはめられない可能性あり。

Point-of-care assayがクラミジアや淋菌同様にM.genitaliumでも開発中であり、症状への対処から耐性ガイドによる治療へのシフトが可能になる可能性あり。今回は耐性のものに新しい世代のキノロンを使用しているが、コストと副作用の面は考慮にいれる必要がある。 

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4 コメント

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Unknown (アイウエオバタ)
2019-07-18 22:32:39
いつもありがとうございます。
日本で女性のPIDの感染治療の時もEmpiricに治療をする際はDOXYを考慮した方が良いのでしょうか。
Unknown (管理人)
2019-07-21 09:05:43
訪問ありがとうございます。
併用をDOXYかAZMについては、議論がありますが一般的に使われます。
Unknown (たまご)
2020-09-25 10:35:05
現在、マイコプラズマホミニスに感染しており、アジスロマイシン、ビブラマイシン、モキシフロキサシンを使用しても自覚症状の改善がありません。このような場合、薬剤感受性の試験等を受けたほうがよろしいのでしょうか?また、病院についてはどのような所がこの菌に対して詳しいのでしょうか?
Re (管理人)
2020-09-25 21:51:08
ご訪問ありがとうございます。
ブログにおける個別の医療相談は控えさせて頂いております。
M. hominisはUreaplasma, M.genitaliumと共に慢性化した症状を有する患者さんから検出された場合、検出と感染の相関、治療奏功性の関連が難しい病原体です。

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