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末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン① 

2010-03-17 | 循環器・救急医療
日本循環器学会他、計9学会による合同ガイドライン 
Circulation Journal Vol, suppl III, 2009

TASC IIを考慮し作成
日本循環器学会ホームページより無料ダウンロード可能
詳細については同ホームページ参照してください。

エビデンスレベル
 レベルA 複数の無作為介入臨床試験またはメタ解析で実証されたもの
 レベルB 単一の無作為介入臨床試験または大規模な無作為ではない臨床試験で実証されたもの
 レベルC 専門家および/または小規模臨床試験で意見が一致したもの

クラス分類
 クラスⅠI 手技・治療が有効,有用であるというエビデンスがあるか,あるいは意見が広く一致している
 クラスⅡII 手技・治療の有効性,有用性に関するエビデンスあるいは見解が一致していない
a エビデンス,見解から有用,有効である可能性が高い
b エビデンス,見解から見て有用性,有効性がそれ程確立されていない
 クラスⅢIII 手技,治療が有効,有用ではなく時には有害であるとのエビデンスがあるか,あるいはそのような否定的見解が広く一致している

ACC/AHAガイドライン:末梢動脈とは心臓及び冠動脈以外であり、大動脈(胸部、腹部)、腹部内臓、四肢及び末梢の動脈(頚動脈、鎖骨下動脈、腸骨動脈を含む)が含まれる。本ガイドラインでは、四肢の動脈、頚動脈、内臓の動脈疾患に加え、高安動脈炎、及び閉塞性動脈硬化症といった胸部・腹部大動脈の閉塞性疾患についても取り扱っている。 

①概論
急性閉塞性疾患 
5P:疼痛、脈拍消失、蒼白、知覚鈍麻、運動麻痺又はこれに虚脱を加えた6P
腹部内臓動脈:急激な腹痛、下痢、下血で発症し、その後腹膜炎を併発すると腹膜刺激症状が出現する。臨床的には大動脈からの分岐角が小さく、血流量が豊富である。末梢前に慢性腸管虚血による腹痛を自覚することや他の動脈硬化性疾患の既往を有することが特徴 
腎動脈:原因に関わらず腎機能の低下、腎梗塞、腎不全の経過を辿る。塞栓症では側腹部通や血尿が急に出現する。動脈解離は腎動脈硬化症や線維筋性異形成を伴う患者での発症が多い。 
頚動脈・椎骨動脈:症状は様々。 

Blue toe syndrome: 足部の脈が触れるにもかかわらず,足趾に突然微小塞栓症が生じたもの.塞栓源は動脈壁由来のコレステリン結晶である.特発性の他,カテーテル操作,心臓血管手術,抗凝固薬,線維素溶解薬,鈍的外傷等が誘因となる.虚血となった足趾に対しては,プロスタグランディン製剤,抗血小板薬,ステロイド,LDLアフェレーシス等.潰瘍・壊死が難治の際には交感神経節切除術も考慮する.粥腫の安定化にはスタチン製剤の有用性が考えられている。ヘパリン,ワルファリン等の抗凝固薬,および線維素溶解薬は,コレステリン結晶や粥腫の遊離を促進する恐れがあり,使用は回避する(レベルB).

慢性閉塞性疾患 
下肢動脈:ASOが90%以上 
Fontain 分類:I度は無症状もしくは冷感やしびれ感、II度は間歇性跛行、III度は安静時の疼痛、IV度は潰瘍や壊死
Buerger病:50歳以下の喫煙歴の男性に好発する。病態は閉塞性の全層性血管炎であるため、四肢の小動脈および小静脈、皮下静脈にも血栓性疾患を生じる。歯周病菌(Treponema denticola)の関与(エビデンスレベルC)も指摘されてきている.
本邦では著しく減少。
膝窩動脈補足症候群:運動選手に多く見られ、腓腹筋内側頭に対する膝窩動脈の走行異常や膝窩部の筋肉異常等が原因となる。膝進展・足関節背屈位での末梢動脈拍動の消失が特徴。捕捉の繰り返しによって膝窩動脈の内皮障害を生じ,最終的に閉塞,下肢の虚血性障害を引き起こす。2/3の患者が両側性である。
膝窩動脈外膜嚢腫:内膜と外膜の間に発生する嚢腫により動脈内腔が圧迫されるために末梢血行障害をきたす。屈曲で拍動が消失。
遺残坐骨動脈:胎生期に消失する動脈が残存する先天異常。両側にみられる事も少なくない。大腿動脈拍動が減弱または消失しているにもかかわらず,膝窩動脈や足部動脈拍動を触知する

膠原病:比較的小口径の動脈が起こされることが多い。Raynaud症状がみられる症例には、膠原病の既往がなくても数年後に膠原病との診断がなされることもあり、経過を追う間も注意が必要である。 

上肢動脈:胸郭出口症候群:圧迫により神経性、動脈性、静脈性の3型に分けられる。その他として高安動脈炎や動脈硬化による鎖骨下動脈閉塞症、Buerger病 
大動脈:高安病:大動脈およびその主要分枝の非特異的、多発的炎症と炎症治癒後の瘢痕性収縮を特徴とする原因不明の疾患。1:9と女性に多く、20-40歳代に好発する。初期では発熱、易疲労感主体 
腹部内臓:2本異常の動脈に閉塞性病変があると、空腹時には無症状であっても腸管の相対的な虚血により腹痛が現われることがあり、これを腹部アンギーナと呼ばれる。腹腔動脈起始部圧迫症候群では腹腔動脈起始部が横隔膜正中弓状靱帯により圧迫され、血流障害をきたすことが知られている。
腎動脈:55歳以降の重症高血圧の発症で、レニン-アンジオテンシン系遮断薬により腎機能が低下高齢者ではアテローム性動脈硬化症が多く、若年者の原因としては線維筋性異形成が多い。 
頚動脈、椎骨動脈:アテローム硬化性病変の増加が著しい。 

診断
身体所見 
四肢血圧:正常1.0-1.3, 0.9以下で虚血、1.3以上は慢性腎不全や糖尿病等の動脈石灰化が著明な患者に見られる。
近赤外線分光法、経皮的酸素分圧、皮膚還流圧、サーモグラフィー、指尖容積脈波、DSA、MRA、CT、超音波検査 

急性肢虚血 
クラスⅠ
 急性動脈閉塞で救肢が可能な患者には,閉塞の解剖学的なレベルを決定し,早急な血管内または外科的血行再建術に導く評価を行う(エビデンスレベルB).

間歇性跛行
クラスⅠ
 間歇性跛行を有する患者では,血行再建術の前に,症状の改善が見込まれるような有意な機能障害はないか,跛行が改善されても同等の運動を制限するような他の疾患(例:狭心症,心不全,慢性呼吸器疾患,または整形外科的な制限)がないかについて留意する(エビデンスレベルC).
 間歇性跛行を有する患者で安静時のABI が正常の場合には,運動後にABI を計測するのが有用である(エビデンスレベルB).
腰部脊柱管狭窄症との合併に注意。
虚血肢では歩行負荷にてABIが低下する。

重症虚血肢
重篤な血流障害により引き起こされる安静時の下肢の疼痛や,趾肢の喪失が切迫した状態と定義される.具体的には慢性閉塞性動脈疾患の虚血が進行して安静時疼痛,皮膚潰瘍,壊死を呈した病態を指す.ABI は0.4未満,足関節血圧は50~ 70mmHg以下,足趾血圧は30mmHg以下のことが多い。理論的には間歇的跛行症状を有しているが、実際には重症虚血発症前には、無症候性である場合が多い。

急性動脈閉塞 
虚血肢の神経は4~ 6 時間,筋肉は6~ 8 時間,皮膚は8~ 12時間で不可逆的変化を生ずると言われており,塞栓症や外傷は6~ 8時間が救肢の目安である.
〈推奨事項〉
急性下肢虚血が疑われる患者はすべて,症状発現後速やかに末梢の脈拍をDopplerで評価するべきである(エビデンスレベルC).
クラスⅠ
 急性動脈閉塞で救肢が可能な患者には,閉塞の解剖学的なレベルを決定し,早急な血管内または外科的血行再建術に導く評価を行う(エビデンスレベルB).
〈推奨事項〉
 すべての急性下肢虚血患者において,即時の非経口抗凝固療法が適応となる(エビデンスレベルC).

TASCⅡによる分類(表3)
表3 急性下肢虚血の臨床的分類(SIS/ISVS分類を修正)
Ⅰ. Viable(下肢循環が維持されている状態) 
予後:ただちに下肢生命が脅かされることはない
筋力低下:無し
動脈:聞こえる 静脈:聞こえる 
Ⅱ.Threatened viability (下肢生命が脅かされる状態)
a.Marginally
(境界型)早急な治療により救肢が可能
知覚:軽度(足趾)またはなし 筋力低下:なし(しばしば)
動脈:聞き取れない 静脈:聞き取れる
b.Immediately (緊急型)
ただちに血行再建することにより救肢が可能
知覚低下:足趾以外にも,安静時痛を伴う 筋力低下:軽度~中等度
動脈:聞き取れない 静脈:聞き取れる
Ⅲ.Irreversible(不可逆的な状態)
組織大量喪失または,恒久的な神経障害が避けられない
知覚:重度 筋力低下:重度
動脈:聞き取れない 静脈:聞き取れない

急性動脈閉塞症の診断が確定した時点で,二次血栓予防目的のためheparin投与を行う.TASC区分Ⅰ,Ⅱaは,経カテーテル直接血栓溶解療法(catheter directed thrombolysis:CDT)も可能である.区分Ⅱbでは,血栓塞栓除去術等の外科的血行再建の適応となる.区分Ⅲは不可逆性であり,壊死部の切断となる。塞栓症では,発症6 時間(golden time)以内であれば,血栓塞栓除去術の良い適応である.
急性動脈閉塞症の死亡率は15~ 20%にのぼる.


閉塞性動脈硬化症 
症候性のASO患者数は40万人前後と考えられる.無症候性のものを含めると50~ 80万人前後の患者群がいると推測される。

表4 間歇性跛行に対する血行再建の適応 (ACC/AHA Practice Guidelinesより)
1)患者が困っていること 2)薬物治療が無効であったこと 3)他に重大な合併疾患がないこと 4)病変が形態病理学的に治療できること 5)risk / benefit ratioが低いこと

表5 間歇性跛行に対する血管内治療
(ACC/AHA Practice Guidelinesより)
クラスⅠ:
 1) 腸骨動脈閉塞症に対して:間歇性跛行により仕事や日常生活が障害される場合で,血管内治療により症状が改善する見通しがあり,かつ a)運動療法や薬物療法では満足できる改善がなかった場合,and/or b)十分なrisk/benefit ratioが期待される(エビデンスレベルA)
 2) 血管内治療が薦められる腸骨動脈,大腿~膝窩動脈病変はTASC type Aである(エビデンスレベルB)
 3) 造影で50~75%の狭窄病変は拡張術前に有意性を診断するため圧較差を評価すべきである(エビデンスレベルC)
 4) 救急ステント留置:手技的失敗や不十分なPTAで,圧較差がある場合,50%以上の狭窄の遺残,血流を障害する解離等がある場合は,救済措置としてステント留置が適応となる(エビデンスレベルB)
 5) 総腸骨動脈狭窄・閉塞病変のPTA/ステント:第一選択の治療として有効である(エビデンスレベルB)
 6) 外腸骨動脈の狭窄・閉塞病変に対するステント:第一選択治療として有効である(エビデンスレベルC)
クラスⅡa:
 1) 大腿,膝窩,脛骨動脈へのPTA失敗に対するステントおよび他の補助的手技:手技的失敗や不十分なPTAで,圧較差がある場合,50%以上の狭窄の遺残,血流を障害する解離等がある場合は,救済措置として大腿,膝窩,脛骨動脈へステント留置やLASER,cutting balloon,atherectomy,thermal device等は有効となりうる(エビデンスレベルC)
クラスⅡb:
 1) 大腿~ 膝窩動脈領域においてstent,LASER,cutting balloon,atherectomy,thermal device等はその有効性が確立されていない(エビデンスレベルA)
 2) 膝下領域においてuncovered/uncoated stents,LASER,cutting balloon,atherectomy,thermal device等はその有効性が確立されていない(エビデンスレベルC)
クラスⅢ:
 1) 血管内治療は圧較差がない場合は適応とならない(エビデンスレベルC)
 2) 大腿,膝窩,脛骨動脈領域の一期的ステント留置は薦められない(エビデンスレベルC)
 3) 血管内治療は無症状の患者における予防的治療としては適応すべきでない(エビデンスレベルC)

〈推奨事項〉
血行再建の非適応(表5)
クラスⅢ
1)CLIへの進行を防止するための予防的血行再建術は適応として妥当でない(エビデンスレベルB).
2)若年者IC(間歇的跛行)例(< 50歳)に対する外科的血行再建の有用性は不明確である(エビデンスレベルB).

ICのおよそ5%が病変進行によりCLIとして手術が行われ、2%が切断となる。CLIのおよそ50%が血行再建術を受け、残り半数の40%が初診から6ヶ月以内に大切断となっている。CLIの1年死亡率は20%。下肢切断例の2年生存率は25%
表7 重症虚血肢に対する外科的血行再建
(ACC/AHA Practice Guidelines3)より)
クラスⅠI:
1)inflow およびoutflow 動脈に有意病変を有する多発閉塞重症虚血肢ではまずinflow病変を治療する(エビデンスレベルB)
2)inflow およびoutflow 動脈に有意病変を有する多発閉塞重症虚血肢でinflow病変に対する血行再建後に重症虚血症状や感染が続く例にはoutflow病変の血行再建を行うべきである(エビデンスレベルB)
3)足底体重加重域の壊疽,修復不能な関節拘縮,肢不全麻痺,高度の安静時疼痛,敗血症,合併疾患による生命予後不良等では一期的切断を考慮すべきである(エ
ビデンスレベルC)
クラスⅢIII:
重症虚血症状がなくてかつ下肢血行が高度に障害されてい
る例(ABI <0.4)は外科的血行再建および血管内治療の適
応がない(エビデンスレベルC)


大動脈- 腸骨動脈病変の血行再建:推奨事項
TASC A病変: 血管内治療,D病変はバイパスが第一選択の治療である(エビデンスレベルC)
TASC B病変: 血管内治療,C病変は手術治療が推奨されるが,患者のリスク,手術成績等を考慮し選択されるべきである(エビデンスレベルC)

大腿- 膝窩動脈病変に対する血行再建:
推奨事項(TASCⅡより)
 TASCの適応推奨は,inflow再建と同様である:
 TASC A病変は血管内治療,D病変は手術(バイパス)が第一選択の治療である(エビデンスレベルC)
 TASCB病変は血管内治療が望ましく,C病変はリスクが高くなければ手術治療が推奨されるが,患者のリスク,手術成績等を考慮し選択されるべきである

膝下膝窩動脈以遠の血行再検 
CLIに対する救肢が目的となる.自家静脈グラフトによるバイパスが第一選択の治療であるが,時にはPTAの併用が有効な例がある



薬物療法、その他 
間歇性跛行に対する治療は,薬物療法と運動療法が二本柱である.一般に約3 ~ 6か月間を目安に行い,症状の改善傾向がなく生活に大きな支障を生じている場合は血行再建術が考慮される.


運動療法:
〈推奨事項〉
クラスⅠ
1.すべての間歇性跛行患者に対する初期治療の一環として,監視下運動療法を推奨する(エビデンスレベルA).
2.最も効果的な運動法として,トレッドミルまたはトラック歩行が推奨される.跛行を生じるに十分な強度で歩行し,疼痛が中等度になれば安静にすることを繰り返し,1回30~ 60分間行う.基本的に週3回3か月間行う(エビデンスレベルA).
クラスⅡa
1.監視下運動療法を行うのが難しい場合に,内服薬併用在宅運動療法が間歇性跛行治療の第一選択になりうる(エビデンスレベルC).

〈推奨事項〉
クラスⅠ
1.間歇性跛行患者の歩行距離改善のため,心不全がない場合,第一選択薬物療法としてcilostazolを投与する(エビデンスレベルA).
2.血行再建・血管内治療後の開存性向上のために,低用量aspirinを投与する(エビデンスレベルA).
3.全身の血管イベント抑制のために,他の心血管疾患の病歴の有無にかかわらず,低用量aspirinを長期処方する(エビデンスレベルA).
クラスⅡa
1.間歇性跛行患者の歩行距離改善のため,cilostazol投与が不可能な患者には,他の血管拡張作用を有する抗血小板薬を投与する(エビデンスレベルC).
クラスⅢ
1.間歇性跛行患者の治療としてのvitamin E投与は推奨されない(エビデンスレベルC).
2.Vitamin B群や葉酸の補充によるホモシステイン高値の是正では,心血管イベントの予防効果は実証されておらず,推奨されない(エビデンスレベルB).



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