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感染症内科への道標

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無症候性細菌尿のIDSAガイドライン2019

2019-06-27 | 臓器別感染症:泌尿器・産婦人科系・STD

無症候細菌尿ASB

 2005年のガイドラインは妊婦もしくは侵襲的な泌尿器科処置を行う予定の場合のみでスクリーニングを行い、治療をすべきと推奨していた。小児や、好中球減少症、固形臓器移植、泌尿器以外の手術については言及がなかった。その後新たな知見が出てきており、これまで言及がなかった患者層やASBが高率な層で限局性でない症状についての解釈の仕方を追加した。

Summary 

 抗菌薬適正使用プログラムで無症候性細菌尿を治療しないことが不適切な抗菌薬使用を減らす重要な機会であるとわかっている一方で、ASBが高率な層では非限局的な症状や所見が多く症候性と捉えられかねない。今回は脊髄損傷後や65歳以上の高齢者のような層での症候性UTIの臨床症状について言及した。

Difinitions

 尿カテ挿入がない患者で105 CFU/ml以上菌が発育し、症状や徴候がないこと。女性では2週間以内に2回の検体から菌が証明される必要がある(10-60 %で持続しないことがある)。尿カテ挿入中の患者では複数菌が分離されることが多いが、少数の場合はデバイスにバイオフィルムを形成して尿中にコンタミネーションしているだけのことが多いので、105 CFU/ml以上が細菌尿としては適切。短時間のカテーテル挿入(in and out 一過性の尿閉などで膀胱が空になるまでの時間だけカテを挿入すること)や新しい留置カテを挿入した後などで102~104CFU/mlまでは細菌尿を示唆するが、無症候性での臨床的意義は評価されていない。

Panenl composition

 感染症、家庭医、小児、老年化、婦人科、産科、泌尿器科、統計やガイドラインの手法の専門科を含む15名。

 

ASBに対する推奨

Ⅰ ASBは小児でスクリーニングや治療をすべきか?

→すべきでない。(strong recommendation, low-quality evidence).

Evidence summary

小児はClean-catchで検体を確実にとれる保証がなく、会陰バックで採取した尿はコンタミネーション率が高いことがわかっており、特有の問題。ASBの予後と治療の研究は1970年代~80年代に行われているのものがほとんど、方法論的問題がある。

Rationale

利益がないという中等度のエビデンスと害がある高度のエビデンスがあるため、強い推奨にした。ASBは幼児や男児では少なく、健康な女児の1-3%に生じる。細菌尿では症候性UTIのリスクを上昇させる可能性はあるが、腎の瘢痕化や腎不全のリスクをあげるエビデンスはない。ASBの治療が症候性UTI、急性腎盂腎炎、腎瘢痕化、腎不全を防ぐエビデンスもない。一方で抗菌薬は副作用や価格、耐性で害があるとする高いレベルのエビデンスがある。

Research Needs

瘢痕化をプライマリーアウトカムとした研究が必要で、神経筋疾患や免疫抑制状態の子供を対象とした研究が早期に行われるべき。

II 妊娠中でない健康な女性にスクリーニングや治療をすべきか?

→閉経前でも後でもすべきでない。(strong recommendation, moderate-quality evidence).

Evidence Summary

ASBの有病率は閉経前で1-5%、閉経後で2.8-8.6%。症候性UTIは細菌尿がある女性でより頻度が高いが、高血圧やCKD、血清Cr、頚静脈的腎造影での異常、死亡率とは関係ないことが観察研究でわかっている。1週間のニトロフラントインもしくはプラセボの治療をうけた細菌尿の女性を1年フォローして、症候性UTIの頻度はかわらなかった。最近の研究でもASBは症候性UTIへ発展する予測因子ではないと結論づけている。ASBの治療がむしろ症候性UTIのリスクをあげるとする研究もいくつかある。

Ⅲ 妊婦でスクリーニングや治療をすべきか。

1. すべき(strong recommendation, moderate-quality evidence).(低リスクの妊婦では治療しないのも選択肢になるかもしれないというオランダの研究があるが、一般化はまだできないと考える。我々は尿培養は妊娠が発覚して初めての外来で1回は採取することを提案する。陰性だった場合に繰り返すことや、初回のASBの治療後にフォローするかどうかはエビデンスが十分ではない。)

2.ASBの妊婦では4-7日の抗菌薬使用を提案する(weak recommendation, low-quality evidence).(最適な治療期間は抗菌薬の種類により、最短で効果が得られる治療をすべき)。

Evidence Summary

妊婦の2-7%にASBは生じる。2005年のIDSAガイドラインでは腎盂腎炎を減らし、低出生体重児や早産を減らすという理由からASBのスクリーニングと治療を推奨した。

2015年のCochrane reviewは14のRCT(1960-1970年代のもの)を含み、11のRCTは抗菌薬はASBの妊婦の腎盂腎炎のリスクを下げるとした。2つのRCTは抗菌薬の使用で早産のリスクを減らすかもしれないというものだった。未治療のASB女性から早産のリスクは53/1000で、抗菌薬の使用で約14/1000に減らすかもしれない。抗菌薬は超低出生体重児を137→88/1000に減らすかもしれない。

2015年にオランダで行われた研究では、未治療のASBの女性が腎盂腎炎を生じるのは2.4%で過去の報告より低かった。低出生体重児や早産率も有意差はなかった。これはASBが1回の尿培養でしか検出されず、早産や複雑性UTIのリスクが低い女性が研究に組み込まれていたことから、一般化しにくい。

2005年のガイドラインでは定期的にスクリーニングを推奨し、再発があれば再治療もしくは予防的抗菌薬を推奨していたが、今回はそのエビデンスを見つけられなかった。

Research Needs

 オランダの研究からすべての妊婦に対してASBのスクリーニングと治療が必要でない可能性もあるので、さらなる研究が必要。

Duration of Treatment of ASB in Pregnant Women

2015年のCochrane reviewは13の研究(1622名)で単回投与か4-7日の短期間投与かを比較した。除菌率は単回のほうが低い傾向にあった(1.28(0.87-1.88))。714名の女性を含んだ一つの研究では、ニトロフラントイン7日治療が単回と比較して、低出生体重児(RR1.65(1.06-2.57))を防ぐのに効果的だったが、腎盂腎炎や早産は有意差はなかった。

ニトロフラントインやβラクタム薬は安全性の面から好まれるが、急性膀胱炎の短期間治療では効果が低い。ホスホマイシンの単回投与は除菌に効果的だが、臨床的な評価は限られる。

Research Needs

適切な治療期間についてはさらに評価が必要。

Ⅳ 市中や長期療養型施設での機能的排尿障害を持つ高齢者にASBのスクリーニングや治療をすべきか。

→すべきでない(strong recommendation, low-quality evidence).

Evidence Summary

 2005年のガイドラインは年~数十年単位のコホートとランダム化試験のエビデンス(予後や入院率や意識状態には関わらない、耐性菌が増える、CDIの発症が増えるなど)に基づいており、それ以降新たな研究がないため、リコメンデーションは継承した。

Ⅴ 機能的、認知障害のある高齢者でASBと症候性UTIを鑑別する非局在性の症状は?

→1.細菌尿とせん妄(急性の意識状態の変化、混乱)があり、局在性の泌尿生殖器症状や全身症状(発熱や血行動態の不安定性など)がない場合は、抗菌薬使用より、他の原因のアセスメントと経過観察を推奨する。(strong recommendation, low-quality evidence).

 2.細菌尿と転倒歴があり、局在性の泌尿生殖器症状や全身症状(発熱や血行動態の不安定性など)がない場合は、抗菌薬使用より、他の原因のアセスメントと経過観察を推奨する。(strong recommendation, very low-quality evidence).

Evidence Summary

 認知症やコミュニケーション能力に問題がある場合に、せん妄や転倒などで診断につなげるかはchallangingな問題。せん妄・転倒があると細菌尿が多いとする観察研究があるが、年齢・併存症・運動制限などの交絡因子で調整されていない。ASBの治療をするしないで意識状態が変化するかを調べたランダム化試験では変わりなかった。

Ⅵ 糖尿病患者ではASBのスクリーニングをすべきか。

1. すべきでない。(strong recommendation, moderate-quality evidence).

Evidence Summary

 2005年の推奨以降に新たな研究はなし。

Ⅶ 腎移植後の患者でASBのスクリーニングをすべきか。

1. 移植後1ヶ月を超えたらすべきでない。(strong recommendation, high-quality evidence).(1ヶ月以内では推奨するしないのエビデンスが不十分)

Evidence Summary

 腎移植後にASBは多く、UTIは最も頻度の高い感染症。グラフト不全、急性拒絶反応、長期機能不全などに関与していないかが懸念されている。移植1ヶ月以内などの期間は新規のもしくは強化した免疫抑制療法や泌尿器科デバイスの挿入、介入などがあるため、感染症の高リスクであり、より重症化しやすいかもしれない。腎移植後6ヶ月以内はPCP予防としてルーチンにST合剤が入っている。STは症候性UTIやASBの頻度を減らす効果がある。腸内細菌科に対するSTの耐性の獲得があるとUTIの予防としてのST内服の効果を制限するかもしれない。

 腎移植後のASBは腎盂腎炎を含む症候性UTIを増加させる。Retrospective studyで早期のグラフトの腎盂腎炎はグラフト不全や長期的CrCrの減少に関わると報告したが、特に関係しないとした研究もある。

 移植後1ヶ月以降ではASBの治療とスクリーニングに対してはマイナスの結果ガ多い。

Ⅷ 腎臓以外の固形臓器移植後患者でASBのスクリーニングをすべきか。

1. すべきでない。(strong recommendation, moderate-quality evidence).(移植後患者のCDIは予後悪化につながるため、不適切な抗菌薬使用をさけるべき)

この質問に答えるための研究はなかった。1000患者年辺りの症候性UTIは移植後1年間で肝移植、心臓移植、肺移植では0.02-0.07で、腎移植0.45と比較すると少ない。

Ⅸ 好中球減少症でASBのスクリーニングをすべきか。

1. 高リスク(ANC<100、7日以上)では、不明

(低リスク(ANC≧100、7日以内、安定)では感染のリスクは低く、好中球減少がない患者と比較してASBがリスクが高いのかはエビデンスがない)。

Evidence Summary

 高リスク(ANC<100、7日以上)の好中球減少症に対する予防的抗菌薬が標準的になる前に行われた研究では、GNRが尿から分離され、その後菌血症になった場合、腸管の定着菌が原因であるとしていた。一方で、当初尿からP.mirabilis、K.pneumoniaeが尿から2名、3名それぞれ分離されていた患者が同一のphenotypeの菌血症になったとする報告があり、これはASBが菌血症の侵入門戸になっている可能性を示唆する。最近のretrospective studyでは好中球減少症(ANC≦1500)の患者が化学療法から4週間以内にUTIを生じるのは2.8%しかおらず、UTIが原因で菌血症になったのは1/109名のみだった。

Ⅹ 脊損後の排尿障害がある患者でASBのスクリーニングをすべきか。

1. すべきでない。(strong recommendation, low-quality evidence).

Evidence Summary

SCIの患者では細菌尿、UTIの発症率が高く、耐性菌を生じやすい。ASBのスクリーニングと治療はすべきでないとする推奨がこれまでも多い。

 病原性のないE.coli (E. coli 823972/HU2117)を排尿障害のある患者の下部尿路に接種すると、併発するASBの発症を予防する可能性がある。接種は安全で副作用もなかった。二つのRCT(20,27名)でこの方法は症候性UTIを予防した。サンプルサイズが小さく、方法論的制限や細菌尿の確立と維持の実現可能性が限られることから、SCI患者において症候性UTIを予防する手段としては未確立である。

 SCIなどの神経陰性膀胱の患者では典型的な下部尿路症状がでにくいため、発熱・倦怠感・無気力・不安・新規もしくは増悪する尿失禁・カテ周囲からの漏れ・痙縮・尿混濁・悪臭のある尿・背部痛・膀胱の痛み・排尿障害・Autonomic dysreflexiaなどでアセスメントすべき。

XI 尿カテ留置中でASBのスクリーニングをすべきか。

 1.30日以内ならすべきでない(恥骨上カテの場合も同様)。(strong recommendation, low-quality evidence).

 2.カテ抜去の際のASBのスクリーニングや治療については推奨の是非はなし(カテ抜去時の予防的抗菌薬で症候性UTIを予防するメリットがある患者もいる。これは外科術後患者でASBのスクリーニングなしに予防的抗菌薬をうけていた観察研究による)。

 3.長期留置カテーテルの患者ではスクリーニングをすべきでない。(strong recommendation, moderate-quality evidence).

Evidence Summary

短期間のカテ

 カテーテル挿入日あたり3-5%ずつ細菌尿は生じる。カテが挿入されたままだと、抗菌薬で一旦細菌尿が改善しても、その後同一菌で再燃したり、別の菌(特に耐性菌)が生じる。一方で、細菌尿が生じた患者でも症候性UTIになることは多くない。CAUTIやASBが予後に関連するかは結論が出ていない。だいたいどの研究も調整すると予後や入院日数は変わらないという結果。ICUのASB患者60名を対象とした抗菌薬+カテ交換とカテ交換単独を比較した研究では、予後と細菌尿の再発、人工呼吸期間に有意差はなかった。各群3名ずつurosepsisになった。

カテ抜去時

 2005年以降新たな知見はなし。メタ解析ではカテ抜去時点での抗菌薬が1-6週間後のフォローアップ期間の症候性UTIのリスクを下げた。それぞれの研究がデザインの面で同一でなく、選択バイアスや減少バイアスが大きい。

長期留置カテ

 多くは細菌尿があり、複数菌がでる。

XⅡ 泌尿器科以外の手術を行う患者でスクリーニングをすべきか。

1. すべきでない。(strong recommendation, low-quality evidence).

Evidence Summary

 術前のASBは深部・浅層SSIを含む術後合併症のリスクと考えられており、過去30年間は術前の膿尿・細菌尿があるセッティングではASBのスクリーニングと治療が一般的だった。特に整形外科の患者でデバイス感染症を生じるのかが関心事項。Figure2 質の高いエビデンスはない

XⅢ 内視鏡的泌尿器科処置を行う患者でスクリーニングすべきか。

1. 粘膜損傷が起こりうる場合、ASBのスクリーニングと治療を推奨する(contaminated, clean-contaminatedであるから)。(strong recommendation, moderate-quality evidence).

2. 術前に尿培養を採取し、最適治療を行うことを提案する(weak recommendation, very low-quality evidence).

3. 1,2回投与を提案(処置の30-60分前に開始する)(weak recommendation, low-quality evidence).

Evidence Summary

 TURP/TURB、砕石を含む尿管鏡、経皮的な結石の手術など粘膜を損傷するリスクがあると術後感染のリスクも高い。ASBに対する抗菌薬の研究はTURPのような高リスクの手技を対象としたものが多い。ASBの治療をした方が術後の菌血症や発熱が少なかった。

XⅣ 泌尿器科デバイス挿入や挿入肘ではASBのスクリーニングと治療を行うべきか。

1.挿入時には行わないことを提案する(デバイス挿入前にはすべての患者が周術期の予防的抗菌薬を使用すべき)(weak recommendation, very low-quality evidence).

2.挿入されている患者でも行わないことを提案する。(weak recommendation, very low-quality evidence).

Evidence Summary

 人工尿道括約筋(AUS)や陰茎インプラント(PP)の手術を予定している患者や入っている人は高齢で併存症があることが多いので、ASBの有病率も高い。AUS、PPの45、18%にASBがあった。ASUやPPは尿路と直接接触する手技ではないが、尿培が陽性であれば治療が推奨されてきた。これはデバイス感染が皮膚の常在菌由来であることが典型的なのを踏まえると、おかしい。

 ウロデバイス挿入前のASBの治療を評価したStudyは1つのみ、15ヶ月のフォローで細菌尿の有無でデバイス感染率はかわらなかった。尿培とデバイス感染の起因菌が同一だったのは7%(1/15例)

 既にデバイスが入っている人についてのエビデンスはなし。

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