日本IBM管弦楽団は、日本IBM及びそのグループ会社の社員によって構成されていて、
創立が2002年というから、今年5歳の若いオーケストラである。
若いといっても、社内向けHPでの「IBMにオーケストラを」という呼びかけに、
集まった社員の多くは、大学オケを経験し、入社後もアマ・オケに所属するなど、
オケでの演奏や運営の経験を持っていたので、それなりに熟度の高いオケとして
そのスタートを切ったようである。
約100人程度の楽団員が、年2回の定期演奏会や室内楽演奏会のほか、
社内行事等の演奏も行っているとのことだ。
このオケを聴くのは初めて。
春先からFlカルテットに取組んでいる音楽仲間の、Fl女史のご主人がここのメンバー。
先日、彼女のお宅でFlカルテットを練習した際、尾高忠明氏がタクトを握った
IBM管弦楽団の定期演奏会の録画を観て、スケールの大きな演奏に関心を持った。
その上、シベリウスのVnソロは、N響コンサートマスターの「まろ」氏である。
自らが出演する葛飾フィルの定期を来週に控えてはいるのものの、
今日のコンサートは結構楽しみにしていたのだ。
実のところ、風邪をひいているらしく、先週から咳と痰がひどい。
その上、ここ数日は、頭痛がひどくて、今日もどうしようか迷っていたのだが、
午前中ゆっくり横になっていたので、多少、気分も良く、思い切って聴きに行った。
■■■ 日本IBM管弦楽団第10回定期演奏会 ■■■
日時:2007年5月27日(日) 14:00開演(13:30開場)
場所:すみだトリフォニーホール・大ホール
指揮:渡邊一正
独奏:篠崎史紀(N響コンサートマスター)
曲目:フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調Op.64
前半のプログラムは1F席の前から5列目に陣取った。
勿論、「まろ」のソロを間近で堪能しようという目論見である。
1曲目のヘン・グレ前奏曲は、なつかしい曲であり、かつ、思い入れのある曲だ。
以前所属していたオペラ・オケで、自分が代表を務めた最初の自主公演で、
プログラムの1曲目に取り上げた曲であり、セコ・バイのトップも務めたので、
結構なプレッシャーを抱えながら取組んだ曲だからだ。
さらには、その2年半後、同じオペラ・オケで、オペラ全幕の公演にも挑み、
独特のオーケストレーションに難儀しながらも、思い出深い本番を踏んだ。
IBM管の演奏は、冒頭のホルンに物足りなさを感じつつも、
弦の導入の響きは美しく、まさに魔法の国へのいざないといった趣だ。
中間部の弦楽器が乱れがちなところは、自分も何度も練習を繰り返しただけに、
頭の中に楽譜の映像が再現されてしまい、ちょっと客観的には聴けなかった。
2曲目のシベリウスのヴァイオリン協奏曲は、「まろ」ワールドだ。
「まろ」を実際に目にしたのは、N響定期で数回程度であり、
そのソロ演奏を生で聴くのは、今日が初めてである。
登場してきたそのいでたちからして、おしゃれでマロって感じだ。
私が女性なら、その舞台衣装についてあれこれ触れるのだろうが、
あの衣装はなんというスタイルなのかよくわからない。
…だからお洒落な衣装としか表現できない。
ちょっと深刻そうな表情で弾き始めた冒頭は、ノンヴィブラートで透明感がある。
比較的動きの少ない演奏振りだが、独特の歌いまわしで一気に聴衆の心をつかんだ。
シベリスの協奏曲は、以前、葛飾フィルで澤和樹先生の独奏で取組んだことがある。
その時は、それほど感じなかたっが、今日、まろ&IBM管の演奏を聴いていて、
この曲の1楽章は、ソロとオケが、わりと交互に演奏する対話のような構造で、
それだけに、まろのソロがオケに語りかけ、オケがそれに呼応するような進行だ。
要所要所でハッとさせられるようなメッセージを込めて演奏するあたり、
日本を代表するオーケストラのコンサートマスターの風格を感じてしまう。
なかなか魅せるぜ。
…う~ん、かなり先入観を持って聴いているかもしれない…
2楽章の包容力のある温かみと広がりのある世界、
3楽章の自由奔放に踊りまわる世界と、演奏からイメージする世界に奥行きがある。
音楽が、何かボールがポンポン弾んだり、遠くから手前に飛んできたりするように、
三次元空間での滑らかな運動を感じさせる。
さらに、音色の多彩さが、この音楽の三次元運動に、速さと重量感を加える。
上手くいえないが、そういう音の躍動感を楽しむ、そんな演奏だった。
なかなか魅せるぜ。
…う~ん、「まろ」って、思ったより人間味のある音楽をする人なんだ…
私にはとても充実した楽しいシベリウスだった。
こんどは、この人の室内楽演奏なんぞ、聴いてみたくなった。
ところで、「まろ」氏は、シベリウスのソロを弾く際、譜面台を用意していた。
勿論、ソロの楽譜も載っており、曲の進行と共に自分でページをめくっていた。
後で、このことの是非が話題になった。
「そのくらい、ちゃんと暗譜しとかなきゃ」という意見あり。
「不安なところがあれば、譜面用意して安心することも大事」という意見あり。
まあ、何か気がかりな要素があるならば、譜面を用意するという保険をかけて、
よりよい本番に望むのがプロの仕事ではなかろうか…という意見に落ちついたが、
私もそう思う。
実際のところ、演奏中の「まろ」氏は、ほとんど譜面など見ていなかった。
休憩後に聴いた、メインのチャイ5。
この曲、アマオケでは演奏される頻度が極めて高いのではないだろうか?
私も既に6回(VnⅠが3回、VnⅡが2回、Vaが1回)も演奏経験がある。
…なんて言うと語弊があるので補足すると…とりあえず経験だけは多い…
オケの演奏が、もう十分に慣れた感じで渡邊一正氏の指揮についていっている感じ。
「手の内に入った」とでも言うべきか。
全体的にサクサクっとスマートな演奏なのは指揮者の好みなんだろうと思うが、
1楽章と終楽章に、奇を衒ったとは言わないまでも、独特の試みがあった。
すなわち、第1楽章最後のクライマックスでfffとなるところ(練習番号Z?)、
その4小節前からクレッシェンドしながら徐々にリットしてきて、かなり重い
ゆっくりなテンポで4小節間を強調し、5小節目からインテンポになるというもの。
終楽章でも“marcatissimo largamente”のところで同様に大幅なテンポダウン。
低弦や木管群の旋律を明瞭に聴かせたかったのだろうか?
おっ、なんだなんだ?と気を引いておいて、じっくり聴かせるという効果はあるが、
指揮者はもっと、深い何かを意図していたのかもしれない。
いずれにしても、期待を裏切ることのない、力強くスケールの大きな演奏だった。
その後のアンコールは、同じチャイコフスキーの『弦楽のためのセレナード』から
有名なワルツを演奏。…アンコールならではのノリで愛嬌があった。
さて、この日、演奏の模様を撮影していたのは、お馴染み“Studio Act5”さん。
本番前に、ちょこっと代表さんとマネージャーさんにご挨拶。
日本IBM管弦楽団さんとはもうお付き合いが長いらしく、先日、FL女史宅で観た
尾高忠明氏の指揮による演奏会の映像は、実は、“Studio Act5”による撮影らしい。
来週は、我が葛飾フィルの撮影をお願いしているが、益々楽しみになってきた。
終演後、葛飾フィルの仲間と待ち合わせしていて、何気なくロビーを見上げると、
「ほんの10年、されど10年」、「十年十色」という垂れ幕が目に入った。
今日の会場となったすみだトリフォニーホールは、開館10年を迎えたようだ。
そういえば、自分が上京した頃、まさに錦糸町駅北口の再開発が完成したりして、
このホールと新日本フィルハーモニー交響楽団のフランチャイズ化の話題も耳にした。
この手のホールは、その維持管理と稼働率において色々と悩みが多いと聞くが、
私自身はよくここに足を運ぶので、利用する立場では地域に根づいた印象を持つ。
まあ、10年目を迎える施設運営の実態となると、その実情はよくわからないが、
墨田区民にとっては、名実ともに自慢できるホールといえるのではないか。
ほんの10年、されど10年
ところで、篠崎史紀(Fuminori-Maro-Shinozaki)氏のあるプロフィールの写真。
女房に言わせれてば、ごく身近な人によく似ているというが・・・。
なるほど、その人の現在の髪の毛の状況を無視すれば、確かに良く似ている。
(⇒かつて、こんな体験があった。)
ただし、楽器の腕前は天と地ほど異なるが…。
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