ふたばようちえん日記 2 (園長の雑記帳)

このブログでは、幼稚園で子どもたちとかかわる中で、園長が日頃考えていることや大切にしていることを不定期に綴っていきます。

理科社会は暗記科目か?

2020-11-02 17:23:00 | Weblog
 ふたば幼稚園では、子どもたちは自然を通して様々なことを経験しています。今の時期は、プランターで育てている綿(コットン)が実をつけ始め、子どもたちが綿摘みを楽しんでいます。

 綿の花は下の方から咲きます。一気に全部咲くことはありません。そして綿の実も、下の方から実ります。子どもたちは、実が弾けてフワフワの綿が出てくると、それを競う合うように摘み取ります。そして、そのフワフワの中に絡みついた固い種を苦労して取り、フワフワだけを集めます。

 実際に、綿を栽培する農家では、北米などでは機械化が進んでいるようですが、それ以外の国や地域では、今も人の手で摘み取っているようです。しかも、糸を紡いで布を作り一枚の服を作るためには、この地道な作業を延々繰り返さなければなりません。実際に、それを仕事にして生計を立てている多くの人々がいるということになります。

 子どもたちは、実が弾けてフワフワが出てこないかを早く早くと思いながら待ち、楽しみながら綿を摘みます。そんな楽しい思い出が記憶の中に刻まれていきます。その記憶は、学校でいろいろなことを学んでいくときに芽を出してきます。

 中高の地理の授業では、綿花の栽培が盛んな国はインドだと学びます。たいていの子は、綿花=インドと暗記します。そして、何度もそれを読んだり書いたりして覚えようとします。しかし、綿を摘んで遊んだ子は、あの楽しかったけど大変な作業を仕事にしている人が、インドにはたくさんいるんだなと思います。そして、インドという国で暮らす人々の暮らしを頭の中で思い巡らします。中には、インドという国のことをもっと知りたいと興味がわいてくる人や、綿花を栽培する国が貧しい国にかたよっていることに気づく人もいるでしょう。

 そうなった時点で、暗記のために何度も読んだり書いたりする必要はなくなります。物事を経験するというのはそういうことです。子どものころの楽しい経験は、その後の学びを深めたり広げたりすることにつながります。理科社会が暗記科目になるか否かは、それ以前の経験に左右されてしまうのです。

 子どもたちも大きくなると、自分で服を買い求めるようになります。街には綿で造られた服が大量に売られていて、例えばユニクロやGUで安くて良いものが手に入るとラッキーだったと思います。

 では、服を作り売っている会社の人々はどんな思いでいるのでしょうか。買った人にラッキーと思ってもらえるような値段をつけよう。そう思っているだけでは、安くはできても商業として成り立つようにすることはできません。良いものを安くするためにはどれだけの量を作って売らなければならないかをしっかり計画して段取りしなければなりませんし、そうなるために考えるべきことがいろいろあります。

 お店のスタッフが生き生きと楽しく働くことができるためにはどうしたらいいか、服を企画しデザインする人たちがクリエイティブにやりがいを感じて働けるようにするにはどうしたらいいか、服を作る工場の人たちが充実した仕事ができるためにはどうしたらいいか、糸や布を作っている工場の人たちが安心して働けるようにするにはどうしたらいいか、そして、綿の畑で綿摘みをしている人々の生活が少しでも豊かになるためにはどうしたらいいかなど。

 そのうちの1点でも欠けていたら、安くて良いものを大量に作って売ることはできませんし、できても長続きしません。つまり、わたしたちが日ごろお世話になっている服を売る会社を経営している人たちは、綿摘みをしている人々の生活のこともどこかで思い、考えているのです。

 インド=綿花を暗記して忘れてしまっているだけでは、なかなかここまで思いが及ばないかもしれません。しかし、子どものころに綿摘みを経験し、その後の学習を通していろいろなことを考えて育ってきた子どもたちは、自然にこのようなことも考えられるようになっていると思います。

 幼稚園では、子どもたちはお米や野菜を育てたり、木の実や果物を収穫したり、綿を摘んだりカイコの繭から糸取りをしたり、玉ねぎの皮で染布をしたりします。わたしたちの生活の原点にある営みを、遊びや生活の中で自然に経験することができます。

 わたしたちの日常生活は、産業が発展して分業が進んでいるために、そもそものところがわかりにくくなってしまっています。そして知らないうちに世の中はさらにどんどん進んでいってしまいます。

 わたしたちの目には、発展した世の中の表面の部分しか見えません。しかし、原点を経験し知ることは、人の生活やこころを知るための手がかりになります。そして、この世の中の流れの全体を見通す力の育ちを支えることになります。幼児期の楽しい経験が、その後の学びを通して、視野を広げ物事を考える力の育ちを支え、人生を歩む力につながっているのです。

 教育の原点がここにあります。

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