最近、見学や来客の方から、綿の実を初めて見たというお声をよく聞くようになりました(ふたば幼稚園では、年中クラスの子どもたちが綿を育てています)。はじけた殻の中の真っ白なフワフワを手にとり、愛おしそうにご覧になり、そのように言われます。
しかし、わたしたちがコットン製品を身に着けない日はほとんどないと思います。こんなに身近なものでさえ、何から作られ、どのように手元に届いているのか、見えない時代になっているのだと思います。
その他にも、切り身になっていない丸ごとの魚が売っているところが見当たらなくなりました。分業が進み、とても便利に生活に必要なものを手に入れることができるようになりました。その半面、それらがどのように自分のもとに届いているかがわからなくなりました。
お金がないと何も手に入れることができなくなり、お金がないということが生きていく不安と直結するようになりました。
しかし、わたしたちが畑で採れた野菜や海で獲れた魚を食べ、綿の実から作られた衣服を着ていることは何も変わっていません。いつでも衣食住の最初のところを自分の力で成り立たせることができるのです。
わたしの身近なところにも、経験なしに農業に携わるようになった友人が二人います。二人とも地に足の着いた堅実な生き方をされていてとても尊敬しています。
ふたば幼稚園では、子どもたちが衣食住にかかわる基本的な経験ができるように環境を整え、保育を進めています。自分が食べるもの、自分が着る物が手に届くプロセスを、部分的にでも経験できるようにしています。多くの人にとってすでに見えなくなってしまったプロセスが、子どもたちの経験の中に刷り込まれています。
子どもたちはこれから社会に出て様々な場で活躍してくれると思います。時には困難にぶつかったり不安に駆られたりということもあるでしょう。
その時に、衣食住がどのように成り立ち、人の生活がどのように成り立っているかを、経験的に知っているのと知らないのとでは大きな違いがあるはずです。たくましく確かな人生を歩んでほしいと思います。