せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

あいくるしい

2009-10-04 23:38:33 | テイルズ
 不意に感じる胸の痛み、その人の事を考えるだけでどうしようもなく焦燥、口走りそうになる何か可笑しな言葉。どんな分厚い本にすら書いていないその小難しい症状は、どうやら恋煩いとかいうらしい。

 そういった感情には縁遠く、何しろ接する機会すらなかったし、そもそも人を愛する事がどういうことか、という事を教えてくれるはずの両親は居ない。だから大人気なく泣き喚きながらごめんね好きなんだ、なんて言われて混乱した私は、咄嗟に頷いてしまったわけだ。なんてこと。隣で丸くなって毛布を被る猫背によりかかってみて、ふうっと白い息を吐いた。
「ねえ、ひまなんだけど」
 好きだと言ったくせに何の行動も会話もしない。拗ねに拗ねて強い語調で呟くと、相手から漏れた吐息のような笑い声が寒空に解けた。二人分の息が混ざり合って霧散する、まるで私達の感情みたいだ。
「じゃあ、ねえ。キスでもしようか」
 視界に影を落していた前髪を指先で掻き上げられて、碧眼が悪戯に覗き込む。嘲笑気味に嗤ってみせると、息が触れる距離まで唇が近付いてそのまま逃げていってしまった。何がしたいのと言い掛けて、表現しようのない感情で喉につっかえる。触れ合った肩が焼けそうなほど熱い、別に魔法を使っているわけでもないのに、火が出そうなほどに熱を持っていた。
 でも、そんなに――私は彼の事が好きなわけではないのだ。吊橋理論、驚きが恋煩いに思えただけで、彼を好きだと思ったことは無い。ないのに彼は、私にとても優しくしてくれる。私はきっと彼を好きではなくて、他に思い煩っている誰かが居るのだ。間違いない、誰に相談してもそう言われる。
 貴方は彼の事なんて好きじゃなくて、ただ――愛してくれる人が好きなんじゃないかしら。だから貴方は貴方が本当に愛する人が嫌いで、意識していないのだと思うわと、言われた。
「………」
 すきとおって冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、もう一度その言葉を反復してみた。私は彼を好きではない。私が好きなのはきっとあの人で、それで。
 考えてみればみるほど苦しくなる。煩わしくはないけれど、これはどうも煩っている。優しくしてくれる彼が好きだ。けれど愛してはいない。なのになのに、もう、ああ。
「愛苦しい、」
 私はどうして彼を、選べないのだろ。

―――
(あいくるしい)


あいくるしいの本当の字は「愛くるしい」です。苦しくはない。
また、愛嬌があって可愛らしいさまのことです。苦しくはない。

私を愛してくれる人が居て、私は多分その人のことが好きなのだけど、その人は私が他の人に気持ちがより始めていることを知っている。つらい。でも私が気持ちを寄せ始めている人は本当の本当に私が好きで、でも愛してくれるその人も私をちゃんと本気で愛してくれている。
元々私は今気になっている人が好きだったのだけど、他の人を好きになってしまって、その人への気持ちは尊敬になってしまって、失恋して傷ついてぼうっとしている時に告白されて、驚いて、考えているうちに寂しくなって、愛してほしくって、心地のいい感情に甘えてしまった。
今更甘えることはできないし、その選択はどちらも傷付けることになるけれど、私はきっと私を愛してくれるその人を好きなのではないのだろう。今は親愛なる貴方が私を愛しているのだと実感するたび、悲しそうな顔をするたび思う。


「私はどうしてこの人を、好きになってあげられなかったのだろ」

はいはい絶望絶望

2009-10-04 04:31:59 | ネタ張
「君の世界に俺が居ないように、俺の世界にもまた君は居ない」
「ッハ、オレサマ一人居なくなったところで何が変わる! 世界は平和になるか? 死人は笑うか? ――鬼喰は幸福になるか?」
「鬼喰である限り、お前が"光"と結ばれる事はない。ヴァンパイアの一族がそうだったように、たった一人の鬼に全てを奪われる。最高の喜劇で、最悪の悪夢を見ながら!」「―だが、またお前も鬼である限り永遠に報われはしない。私もお前も何処にも逝けぬ。私と共に奈落へ落ちろ、戒。最悪の悲劇で、最高の夢を見せてやる」
「お前には到底解りえぬだろうな。私には己を滅してでも守りたいものがある、そのためなら悪魔に魂を売り渡すことなど厭わぬ」「オレサマにもあったさ。…けど守る間もなくお前らが殺した! 鬼喰であったアイツを、鬼喰のお前らが!」「堕天の悪魔が守るなどと笑わせる。私は選ばぬ、何を奪われようと、守るものを違えたりするものか」「ハ、お前こそ笑わせるな! 愛しの"光"を奪われてみろ、たちまち気が狂うんじゃないか? 屈辱に唇を噛んで悪魔に魂を売ったお前の全て、オレサマが壊してやるよ!」
「何故鬼喰の村は滅ぶか知っているか?」「知っているさ、鬼が押し寄せるからだ。『嗚呼、嗚呼! 鬼の神よ、死の神よ! 我らに救いの手を、どうか!』…妄信的に叫びながら、何百の単位でな。村は鬼に埋め尽くされ、鬼喰は力を使い果たして滅ぶ。後に残るのは無だけだ、そこから何も生まれはしない」


ぞっとするほど中二病な台詞をぽんぽん思い浮かべながらぞくぞくする自分きめえ。でもこうやって自分の奥底にある深層心理を引きずり出す感覚たまらん。

こうやって理不尽な不運を強いられた人間が「どちら」を選ぶかを一生懸命考えている。戒は狂気へ向かいエゴを満たそうとして、龍華は悲しみに向かいエゴに滅ぼうとしている。どちらにしろ間違っていて不運なのだけど、二人は根本では同じだから、理解し合えるようでできない。
似ているからこそ全く以って理解できない、「何故同じなのに、自分と同じ道を選ばない?」と。結局どちらも究極の両極端で頑固だから、歩み寄る事は絶対できない。


私はどちらかというと龍華の方。
大切なものを賭けた究極の選択においての犠牲は常に自分が捧げられ、その代償にならいくらでも死ねる。愛には死ねないけれど、大切なものの為なら他人からそれを守って死ねる。だから恋人に「頼む死んでくれ」って言われてもムリ。でも「先に行け」とは言える。その未来において、大切なのは「愛する者の存在」であり、決して自分の存在ではない。
戒は逆に究極の選択においての犠牲は常に他人を立て、自分は大切なものを大事に大事に守ることだけに身を費やす。愛には死ねるけれど、その他の理由では死ねない。だから恋人に「死んでほしい」と言われれば喜んで死ねる。でも「先に行け」とは言えない。「一緒に死のうか」ってなる。その未来において大切なのは「己と愛する者の存在」であり、他人がそこに居る必要はない。

本当に面白い生き方してるなこいつら、私の頭の中でだけど(笑)